体の弱ったお年寄りが暮らせる住まいが圧倒的に不足しており、制度も追いついていない。特別養護老人ホームへの入居待ちは、全国で50万人を超える。行き場のない高齢者が制度外のホームに流れている。その一つで、徘徊(はいかい)や事故を防ぐためだとして、約130人の入居者がベッドに体を固定されるなどの「拘束」状態にあった。こうしたホームは行政の目が行き届かず、高齢者の尊厳が侵される恐れがある。

 東京都北区に、家賃、介護費、医療費、食費などを含めて月約15万円で生活できるという「シニアマンション」3棟がある。敷金や入居一時金もいらない。有料老人ホームとして自治体に届け出ていない制度外のホームだ。マンション業者は医療法人と提携し、入居するには原則的に医療法人の審査が必要だ。ヘルパーは、医療法人運営の訪問介護事業所から派遣される。

 ヘルパーら複数の医療法人関係者の証言と、拘束された入居者の写真や映像によると、8月末の3棟はほぼ満室で、入居者約160人のほとんどが要介護度5か4の体が不自由な高齢者だった。

 多くの居室は4畳半程度で、ベッドが大半を占める。ほかに丸イス1脚と収納ボックスくらいしかない。ベッドは高さ30センチほどの柵で囲われ、下りられないようになっている。入居者によっては腹部に太いベルトが巻かれたり、ミトン型の手袋をはめられたりして、ベッドの柵に胴体や手首が固定されている。

 居室のドアは、廊下側から鍵をかけられる。「24時間ドアロック」と大きく書かれた紙などを張り、ヘルパーたちにドアの施錠を確認させている。

 これらの行為について厚生労働省は「身体拘束」にあたるとして原則禁止している。例外的に許される場合もあるが「一晩中の拘束などは認められないし、24時間はなおさらだ」(同省高齢者支援課)としている。写真や映像、内部資料を朝日新聞が確認したところ、8月末時点で約130人でこうした「拘束」が確認できた。

 入居者への介護は最大限でも1回30分または1時間で、1日3~4回。これだけにとどまるのは、自宅にいる高齢者が受ける介護保険制度の「訪問介護」のためだ。要介護度が重い入居者でも、訪問介護以外の時間は原則的に対応しておらず、「拘束」状態が続く。

 あるヘルパーは「かわいそうだけど、転倒事故が起きるかもしれない。徘徊などを防ぐために拘束せざるを得ない」と話す。(沢伸也、丸山ひかり、風間直樹)

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 〈高齢者への身体拘束〉 厚労省の「身体拘束ゼロへの手引き」が示す例では①自分で開けられない部屋に隔離する②ベッドに体や手足を縛り付ける③ベッドを柵で囲む④指の動きを制限するミトン(手袋)をつける⑤自分で脱ぎ着できない「つなぎ服」を着せるなどの行為で、これらは高齢者虐待防止法に抵触する。

 やむを得ず拘束するにしても、本人などの生命や身体が危険にさらされる「切迫性」、他の手段がない「非代替性」、最小限の時間にとどめる「一時性」という3要件をすべて満たす場合に限るとの考え方を示し、解除に向けて常に再検討するように求めている。

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