車泊で「ご当地マンホール」

北は山形から南は大分まで、10年間の車泊旅はマンホールに名所・旧跡・寺社・狛犬・・思い出の旅、ご一緒しませんか。

年の初めの神楽三昧「滝夜叉姫」

2022年01月08日 10時00分00秒 | 日本の伝統・芸能・技の美

平安時代中期、下総国の豪族であった『平将門』は、一族の争いの中で次第に頭角を現し、遂には関東一円を支配下に置き、やがて自らを「新皇」と称するようになりました。しかしその翌年、同じく地方武士であった『藤原秀郷・平貞盛』らによって滅ぼされてしまいます。
後に残された将門の娘『五月姫』・・・・・物語はこの五月姫の登場から始まります。
2013年5月25日、「出雲大社遷宮・本殿遷座祭奉納」、「千原神楽団(美郷町)」による【滝夜叉姫】
一際高く澄んだ音色の笛の音、お囃子方の音に誘われるように、手行灯を持った女人が登場。
「そもそも~この所に進み出でたるは、相馬の国『平将門』が娘、その名は『五月姫』と申す者にて候」

ろうろうと詠うように語る『五月姫』。父・将門の無念を晴らさんと、貴船の神に丑三つ参りの願をかけ、今宵迎えた二十一夜は満願の時。一心に祈る姫の願いに貴船の荒魂が遂に応えます。

「貴船の神のお告げに従い、これよりは『滝夜叉姫』と名を改め、急ぎ下総国へ戻り、相馬の城に立て籠もり、亡き父将門公の無念、はらさんとぞ思うなり~~」

朝廷転覆の反乱を起こした「滝夜叉姫」を成敗するべく、朝廷より勅命を賜った『大宅中将光圀』『山城光成』。これより相馬の城へと向かいます。

いっぽう、こちらは滝夜叉姫の部下『夜叉丸』『蜘蛛丸』。都より我が主殿を滅ぼさんと討手が来た様子、急ぎ城に戻り、この事知らせに参じねば。

相馬の城に駆け戻り、都よりの討手が来たことを知らせる二人。長刀を手に、ならば迎え撃つまでと答える滝夜叉姫。

それぞれの獲物を手に舞を見せる三人。何というか・・本当に美しくて凛々しいのです。思わず、滝夜叉さん頑張れと応援してしまう私(^^;)

薙刀を持って迎え撃つ『滝夜叉姫』、優雅さと荒々しさがない交ぜになった所作は本当に素敵! この時以来、神楽の演目としての【滝夜叉姫】にすっかり魅了されてしまいました(*^^*)

と見とれる間もなく、城に攻め寄せる「大宅中将光圀」と「山城光成」。姫をかばい 果敢にも戦いを挑む「夜叉丸」「蜘蛛丸」。

朝廷より遣わされた二人、朝廷に反旗を翻した滝夜叉姫に仕える二人。狭い舞台の上ですが、目まぐるしい程の動きの中に翻る舞衣は美しく鮮やかに、その時々にきらめく刃の光は、討つもの、討たれるものとに分かれてゆきます。

「可愛い部下も失い、我が命運もこれまで。されど貴船の神に委ねたわが身なれば、今こそ亡き父の無念をはらそうぞ」。二人の前に飛び出したのは、すでに人の姿を無くした滝夜叉姫。

神楽の主役は「鬼」、何度でも言いますが(笑)、神楽の主役は絶対に「鬼」なんです。特にそこに必然性のあるストーリーがあれば、感情移入も手伝って、気が付けば「鬼」に声援を送っている私たち(^^;)

自らの野望を阻むものに、妖の糸を自在に操り戦いを挑む滝夜叉姫。そこには、あの美しい面影は微塵もありません。

しかし、敵は朝廷より遣わされた強敵。更には陰陽の術を用い、滝夜叉姫の妖術を悉く打ち破ってしまいます。

そうして遂には二人の刃に刺し貫かれ・・・その瞬間、恐ろしい鬼女の顔は消え失せ、そこにはかっての美しい五月姫が・・・「お父様~~~」それが五月姫の最期の言葉でした。

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2013年7月6日、「安芸高田神楽特別公演」、「八千代神楽団(安芸高田市)による【滝夜叉姫】。

父の無念を晴らすため貴船の神に願をかける『五月姫』、そしてその願いに応える貴船の荒御霊。

神様なのに謀反人の願いを叶えるのかという人もいますが、神と言うのは祀られてこその神様。まして互いに言い分がある以上、神の力を信じて一心不乱に願うものに応えたからと言って、文句を言われる筋合いは無い・・と言い返されそう😅

神のお告げに従い『滝夜叉姫』と名を改め、『夜叉丸』『蜘蛛丸』等を従え時の朝廷に対して反乱を企てる・・・凄みのある美しさを見せてくれるこのシーン、好きです。

今回の滝夜叉姫は「白鞘の薙刀直し」と呼ばれる刀を持っての登場。普通の長刀ほど長くなく一見地味ですが、こうした戦いの場では格好の獲物。細かく凝った演出です。槍を手にした手下たちとの舞、重い衣装だけでも大変なのに、流れるように美しい所作。ただもう、うっとり(笑)

ひとしきり、美しい舞を披露したところで『大宅中将光圀』『山城光成』の登場。貴船の神から授かった妖術を駆使して手向かいますが、『大宅中将光圀』も、自ら陰陽の術を持って応戦。大切な手下は次々に討ち取られていきます。

もはやこれまでか・・・その瞬間、鬼女に姿を変えた『滝夜叉姫』。渾身の力を出し切って戦いますが、全ての手下を失った身。

遂には力尽き、二人の刃を受けて絶命。父の無念を晴らす目論見は、姫の命と共に崩れ去ったのです。

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2019年4月21日「因原交流神楽大会」、「琴庄神楽団(北広島町)」による【滝夜叉姫】

今回の五月姫は上から下まで白装束で決め、手には水垢離に使われる手桶を持っての登場。満願成就のこの夜、貴船の神に懸けた願いは成就されます。

朝廷を脅かす賊を平らげよとの勅命を受け、下総の国に向かう「大宅中将光圀」「山城光成」

いっぽうこちらは姫の忠臣として使える『夜叉丸』『蜘蛛丸』。表情を顔に出さない、表情が見えない二人ですが、神人に負けず劣らずのイケメンなのは確か(笑) 次の舞台では美形担当になるかも(⌒∇⌒)

都より、我らを壊滅させんと二人の討手が来たことを聞かされる滝夜叉姫。ならば迎え撃つまでと槍を握る手に力が籠ります。

しかし、流石は都にこの人ありと謳われた大宅中将光圀・山城光成。姫を護ろうと必死に手向かい奮戦した夜叉丸・蜘蛛丸もついに打ち取られてしまいました。

かくなるうえは是非もなし。力の限り、命の限りに戦おうぞと叫ぶも、そこに居たのは恐ろしい鬼となった滝夜叉姫。

武術の腕に優れ、さらには陰陽の術にたけた二人を前に、遂には力尽きる滝夜叉姫。

二人の刃に貫かれた瞬間、そこに居たのはひたすらに父の菩提を弔う五月姫の姿。もはや恨みも無念も消え去り、立ち込める霧の中に包まれ、やがて消えてゆきました。


五月姫が願をかけた貴船の神は、伊邪那岐神が迦具土神を斬り殺した際、剣の柄に溜った血から生まれたとされる『高龗神(たかおかみのかみ)』龗(おかみ)は龍の古語で、水や雨を司る神として信仰されています。
この神楽に登場する荒魂とは、いわゆる神の名称ではなく、一つの神の2つの魂を言います。すべての神は「荒魂」と「和魂」を持つとされており、その中で荒魂は天変地異を引き起こし、病を流行らせ、人の心を荒廃させて争いへ駆り立てるといい、神の祟りは荒魂の表れとされます。それに対して「和魂」は自然の恵みなどを司り、神の加護が和魂によって得られると考えられています。もっとも今回の場合は、荒魂による神の加護とされており、状況に応じて変化するのかもしれません。

正月十五日までは松の内 一月八日

 

コメント (2)
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