うまくは言えないけど

日々思う事をとりとめもなく書いています

2005年08月10日 | 本のはなし
筒井康隆さんの「敵」を読みました。

主人公は渡辺儀助、75歳。元大学教授で、現在は妻にも先立たれて一人暮らしをしています。老人の一人暮らしであると思われるような物悲しさはなく、生活をエンジョイしています。貯金の残高で余命を計りながらも、悲壮感はなくむしろ自分の死期を決められるのを楽しんでいるかのようです。

食事も自分でこだわりながら作り、酒も煙草も楽しみます。女性に関しても性欲はあるけれど、抑制を楽しんでいます。子供がいない事もあり人の世話になる事を嫌います。そのための健康管理には気をつかい、老醜を恐れて、自分を律する事につとめます。

そういった老人の日常が描かれて行きます。ただ一つ気になる事があり、擬音を当て字の漢字で表記しますが、それ以外は細かすぎるほど説明されます。それは例えば、食事の話であったり、家の話であったり、友人の話であったりします。一つの話が7ページほどで完結しそれが最後まで続きます。食べ物であれば、朝食で1話、麺類で1話、肉で1話というように事細かに記述されます。

そんなある日、主人公が見ているパソコン通信で、「敵です。皆が逃げはじめています。」という書き込みがされます。敵とはなんなのか、その敵と主人公はどう向き合うのかと物語は展開していきます。

筒井康隆さんの作品を読むのは久々です。小学生の頃、家にあった筒井さんの本を読んでから、ハマってかなりの数の作品を読みました。ただ、断筆宣言を解除されてからの作品は読んだ事がありませんでした。別に避けていたわけではないのですが、読む機会がありませんでした。「敵」もたまたま本屋で文庫本の裏に書いてあった説明に惹かれて読み始めました。

久々に読んだ感想は、相変わらず読みやすさ、構成、アイデアともに群を抜いているなと思いました。はっきり言ってこの「敵」は好みが大きく分かれると思います。全く面白くないと思う人や「敵」の意味がよく分からない人もいるかもしれません。ボクは最後近くまで「敵」がなんなのかよく分かりませんでした。

ただ、敵が分かればすべてがつながって、「ああ、なるほど」と思い納得します。そして残酷な話だったと気づかされます。筒井康隆さんを読んだ事がない人や、読んだ事があっても「富豪刑事」や「時をかける少女」などしか読んだ事がない人にはお勧めできないと思います。しかし、筒井康隆さんのファンならニヤリとするのではないかと思います。ボクは改めて筒井康隆という作家のスゴさを見せられたように思います。



新潮社

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