内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)

2008-03-03 | Weblog
   ガソリン税暫定税率存廃問題と後退し続ける改革路線 (その1)
 2月29日、08年度予算案と争点となっているガソリン税の暫定税率維持を含む税制関連法案が、衆院本会議において自・公両党の賛成多数で可決された。審議が尽くされていないとする民主党他野党は共産党を除き欠席しており、与党の単独採決に近い。これで審議の場は参議院に移るが、予算案については参議院で採択されなくても、参院送付後30日以内で自然成立する。しかし、それを裏付けるガソリン税の暫定税率維持のための租税特別措置法改正案などの税制関連法案は、衆議院の優越性の規定はないので、参議院で否決された場合には、両院協議会を経て、衆議院で政府与党の3分の2の多数により再採択されなければならない。それも3月末までに採択されなければ期限切れとなる。
 しかし、インド洋における給油に関する特措法案が参議院での否決後、衆院で再採択されたばかりであり、衆議院での再採決の多用は、参議院に託された民意を無視し、参議院の役割を軽視することにもなるので、実際上は難しい面がある。皮肉なことに、衆参の「ねじれ現象」により、参議院のチェック機能が目に見える形で発揮され始めている。しかし、それが衆議院の優越性で覆され続けるのであれば、参議院の100議席前後への縮小論などが飛び出す可能性も出て来る。
 1、かすむ議長裁定
 予算審議に入るに際し、暫定税率の存続に固執する自・公両党は4月1日より2か月間延長する「つなぎ法案」の提出を検討していたが、衆・参両院の議長斡旋により、与野党は、「年度内に一定の結論を得る」、「各党の合意が得られれば修正する」ことで合意し、予算審議等の場で検討されることになった経緯がある。
 これから参議院での審議に入るので両院議長裁定が反故になるわけではないが、事実上衆院議長の出番はなくなる。また、共産党を除く野党は反発しているので、暫定税率維持問題や有料高速道路建設問題だけでなく、年金記録漏れ問題、イージス艦「あたご」の衝突事故への対応と共に、次々と明るみに出る独立行政法人などの行政組織の浪費と「天下り」慣行や放漫な官業ビジネスの体質など、行政制度や公務員倫理などの問題で与野党のせめぎあいはより厳しいものになろう。
 2、より先鋭化する与野党の対立軸
 ガソリン税の暫定税率問題は、約2.6兆円の上乗せ税率の維持問題にとどまらない。要は、国民生活や社会情勢の変化に伴い、何に優先度を置いて財源の再配分を行うかである。
 少子高齢化と「高度成長期」のような成長が望めない時代において、更に今後10年間暫定税率を維持し、59兆円掛けて、1万4千キロの有料高速道路を建設し続ける必要はあるのか。国交省は、6兆円の減額を示唆し、「内訳」を示しているが、いわば6兆円の「無駄」を省いただけで、1万4千キロの有料高速道路の建設を前提としている。
 宮崎県の東国原知事は、同県民はガソリン税を支払っているのに高速道路がないとして、暫定税率維持と高速道路の建設を主張し、具体的な計画案を提示するように迫っているが、問題を全体として把握していないように映っている。暫定税率が一部又は全部廃止されても、或いは一般財源化されても、基本税率は残るので、高速道路を含め、今後とも「必要な」道路は建設されるのである。また、道路特定財源の一部は、これまでも地方道路税や交付税・補助金などとして地方にも還流されており、今後も何らかの形で還流されるであろう。「納税者の受益」ということであれば、東京や大阪、福岡などの都市で徴収されるガソリン税は基本的にそれぞれの都府県で使用されるべきとの極論が出る恐れもある。或いは、ガソリン税の暫定税率分は、一部又は全部廃止し、納税者に還元すべしという議論に繋がる。そうすれば「地方の納税者」にも等しく還元されるので、説得力を増す。
 宮崎県民は何に怒っているのか。高速道路を早く作らないことにか、それとも30数年継続されている「暫定税率」を石油高騰と物価高の中で更に10年も継続することに対してであろうか。
 基本的な問題は、国交省予算となる道路特定財源で、有料高速道路などをどの地区に優先し、どのような速度で実現して行くかである。更に、今日では高速道路以外に、年金問題や医療体制、保育・養護の不足、生活環境問題、社会的弱者対策、そして石油高・物価高対策、景気回復対策など、財源の再配分を行えば対応出来る新たなニーズもある。具体的な道路計画案などを野党に提出すべしと迫るのは酷であろう。道路計画案は、事実上国土交通省という膨大な行政組織を利用して作成されており、野党に計画案を出せと言うならば、野党に政権を与え行政組織を利用させなければフェアーではない。法律案にしろ、道路建設計画を含む予算案にしろ、政府与党は行政組織を利用して提出しており、党だけでは提出困難なのは目に見えている。国会答弁でさえ官僚の支援を受けているのが現状だ。野党に具体的提案を迫ることは、政治戦術としては分るが、野党の「暫定税率廃止、道路特定財源の一般財源化」という考え方は知られているところであるので、政府与党としても妥協案等を提示して、接点を探る努力が不可欠であろう。特に予算や税などの国民負担は、支持する政党にかかわらず、すべての納税者、納付者の生活に直結する事項であるので、与党としては国民各層間の関心や利害を調整、集約し、接点を見出すべきであろう。
 しかし、これまでの官僚依存慣行や体質が、政治的イニシアテイブや実質的な政策調整・転換能力を減殺して来ているところが根底の問題であり、国民はそれに気付き始めている。問われているのは、政府与党の創造力、発想力の欠如であり、リーダーシップではないのだろうか。
 年金記録漏れ問題も「名寄せ」の作業結果が3月末までに明らかにされれば、責任問題と共に、公的年金の問題については、消費税引き上げ問題が顕在化して行くことが予想される。また、公費の浪費や割高な随意契約、談合などの温床となっている「天下り」問題や公務員倫理の高揚の必要性を含め、簡素で効率的な公務員制度改革についても現状擁護か実質的な改革の推進かを巡り、与野党の間のみでなく、与党内でも対立が先鋭化する可能性が強い。
 更に、改革路線の失速に伴い景気回復が後退している中で、米国の低所得層向けの高利サブプライム・ローンの破綻と原油・関連物資の高騰の日本経済への影響についても対応が迫られている。「日本経済は一流国ではない」として傍観していることは許されない。ガソリン税の暫定税率についても、維持し、バブル崩壊期と同様に高速道路など道路に特定してつぎ込んで行くのか、「暫定的」として30数年間上乗せして来た税率部分については一部又は全部を廃止し、減税による納税者への還元と輸送や流通コストの軽減を含む経済的な波及効果を期待するかなどについて、国民の理解と選択を得て行かなくてはならない。
 もし政府与党が暫定税率と1万4千キロの有料高速道路の建設を含め、道路特定財源の維持に固執する一方、民主党を中心とする野党が暫定税率の廃止と一般財源化を主張し、妥協点が見出せないのであれば、民意を問うしかないのであろう。暫定税率を維持し高速道路建設を優先するか、或いは、国民負担を軽減し新たなニーズに予算資源の再配分を行うかなど、「価値観」や「制度設計」の選択の問題なのである。(Copy Right Reserved)

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