内外政策評論 TheOpinion on Global & Domestic Issues

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Policy Essayist

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の大筋合意を歓迎する

2015-11-16 | Weblog

TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の大筋合意を歓迎する

 米国他太平洋を囲む12か国で関税撤廃に向け交渉されて来た環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、10月5日、閣僚会合において大筋合意に達した。これにより、この環太平洋経済圏内においてほとんどの製品の関税が撤廃されることになるので(日本の関税撤廃率約95%)、基本的に消費者にとっては朗報だ。また米穀などの農業産品(酪農品を含む)を除き、日本の産業にとっては輸出入双方においてビジネスチャンスが広がることになるので、大筋合意を歓迎する。米国、日本を含む環太平洋の12か国で人口約8億人、世界の国内総生産(GDP)の40%近くを占める巨大なマーケットが構築されることになる。太平洋を囲むこの地域は、最も躍動的な世界の成長センターでもある。

 TPP交渉は、シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4か国の経済連携協定として始ったが(2006年5月発効)、米国の参加表明によって、より広い自由貿易経済圏を目指して2010年3月から“環太平洋パートナーシップ協定 (TPP)”として拡大交渉が始まった。

日本は、中国が急速に台頭する中で、TPPが米国を中心として交渉が進み日本の意見が反映出来なくなる恐れがあったことから、当時の民主党政権は交渉参加の可能性を検討し、2010年11月、アジア太平洋経済協力(APEC)会合の機会にTPPの‘交渉参加に向けて関係国との協議を開始する’ことを明らかにした。国会内外は、農業・酪農関係グループを中心として反対論が強く、民主党政府は「食と農林漁業の再生推進本部」やその下で「食と農林漁業の再生実現会議」を発足させるなど対策を検討している。同会議では、‘農地集約による生産性向上’なども既に提案されている。

 しかしこのような準備の中、同年12月に開催されたTPP第4回拡大会合において、日本はオブザーバー参加を打診したが、自由化への真意が疑問視され参加を断られている。その後も全国農協中央会が参加反対の運動を強め、また42の道県議会で反対或いは慎重意見が採択されるなどを反映し、国会でも保守党を中心として反対論が展開された。このような中で、2011年11月、民主党政権は12月にホノルルで開催されるAPEC首脳会合に際し、‘交渉参加に向け関係国との協議に入る’旨表明すると共に、関係閣僚で構成する政府の体制を強化するなどの対策を取った。

 関係国との協議が進む中、2012年12月に衆議院解散、総選挙となったが、TPP参加交渉については、民主党が参加を訴えたのに対し、自民党は‘聖域なき関税撤廃を前提とするTPPには参加しない’ことを表明した。総選挙で大勝した自・公連立政権は、その後、関係諸国より‘聖域なき関税撤廃’は前提としないとの心証を得るなど、慎重な検討を行い、2013年7月にマレイシアで開催された18回目のTPP交渉会合から初めて交渉に参加することとなった。日本抜きの環太平洋自由貿易圏が実現すること(バスに乗り遅れ)のデメリットと世界第2位の経済大国になった中国の台頭などが背景にあったと言えよう。

 交渉参加から2年余で今回の大筋合意に至ったが、TPPへの参加については、与野党が逆転したものの、日本の針路を左右する大きな対外政策であり、また一時国会を2分し、日本の産業構造転換の契機ともなる重要な課題において、主要な与野党が支持する形となった数少ない事例と言えよう。

 他方国内的には、生産者の立場から酪農を含む農業の問題や消費者保護の立場から安全性の問題や生産国や原料、使用期限などの表示の問題等があるので、政府は、全閣僚で構成される‘TPP総合対策本部’を設置し、国内対策を検討する方針を明らかにしており、今後の大きな課題となろう。(2015.10.11.)(All Rights Reserved.)


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