tetsudaブログ「どっぷり!奈良漬」

コロナも落ちつき、これからが観光シーズン、ぜひ奈良に足をお運びください!

スーパーホテル・山本梁介会長の「環境・文化に配慮した観光」 観光地奈良の勝ち残り戦略(92)

2015年05月29日 | 観光地奈良の勝ち残り戦略
早くに紹介するつもりが、ずいぶん遅くなってしまった。一般財団法人南都経済研究所の「ナント経済月報」2015年3月号のインタビューコーナーにスーパーホテル会長・山本梁介氏が登場されていた。聞き手は、同法人主席研究員の島田清彦さん(中小企業診断士)である。

山本氏は、奈良は「サステイナブル・ツーリズム」(sustainable tourism)を売り物にすべきだ、と提唱されている。これは《「持続可能な観光」という意味で、マスツーリズムの結果生じがちな、環境や文化の悪化、過度な商業化を避けつつ、観光地本来の姿を求めていこうとする考え及びその実践》(Wikipedia)という意味。

いわば当該地域の環境・文化・社会に配慮した旅行のこと。大型ホテル誘致問題で、再び「経済・観光振興か、文化財(遺構)保護か」という問題がクローズアップされている今こそ、奈良はハッキリと「サステイナブル・ツーリズム」を打ち出すべき時期なのかも知れない。

全文はこちら(PDF)に掲載されているが以下、私の目を引いた部分を抽出して引用させていただく(太字も私が付した)。まずは、山本梁介氏のプロフィールから。

■主な経歴
1942年、大阪府生まれ。1964年3月慶応義塾大学経済学部卒業。繊維・化学品の専門商社に勤務後、不動産事業に従事。シングルマンションの管理・運営などを手がける。1989年12月株式会社スーパーホテル設立、会長に就任、現在に至る。1995年5月株式会社スーパー・コート(老人ホーム・シングルマンションの運営・管理)設立、会長に就任、現在に至る。1996年9月社会福祉法人聖綾福祉会設立、理事長に就任、現在に至る。
■座右の銘、好きな言葉
「平凡の凡を重ねて非凡となす」
■私のモットー
自律型感動人間
■所属企業・団体等の概要
・会社名:株式会社 スーパーホテル
・本 社:大阪府大阪市西区西本町1-7-7
・設 立:1989年12月20日
・資本金:6,750万円
・売上高:228億7,000万円(2014年3月期実績)
・事 業:ホテルチェーンの展開、土地有効活用のコンサルティング
・社員数:260名

人間力のベースとなるのは、感謝の気持ちです。自分で考え行動し、人に感謝することができなければ、お客様に感動を与えることはできません。自分で考えて行動する「自律型感動人間」の育成にエネルギーの6~7割を費やしています。

――ホテル事業に参入されたきっかけを教えていただけますか?
1970年に大阪でシングルマンションの経営を開始し、最盛期に約6,000室を保有していました。全国展開を狙って東京と福岡に支店を設置したのですが、経費が嵩(かさ)み、徹底的に現場に入り込んだ運営管理が困難になっていました。一方、バブル景気の華やかなりし頃に、熊本県水俣市と岡山県倉敷市で「ホテルリンクス」という名称のビジネスホテルを稼働させていました。ホテルならば支店は要らないし、現場に入り込んで徹底的に管理できると考えました。

シングルマンション事業は、ローコストでハイクオリティの居住空間を提供することが重要です。当時、会社の規模にしては身の丈に合わないような大きなIT投資を行い、運営管理の効率化に成功していました。そのノウハウをビジネスホテルに持ち込めば面白い展開ができると考え、1996年にスーパーホテル第1号店「スーパーホテル博多」を福岡市で開業しました。

当初の宿泊料金である4,980円という価格設定は、私のビジネスマン時代の経験を踏まえ、ホテル代を浮かせて1杯飲めるというようなホテルを作りたいという思いからでした。安かろう、悪かろうでは、リピーターになっていただけません。対象とするお客様やコンセプトを絞ることが必要であり、絞った内容に関しては他社の追随を絶対許さないという姿勢が大切です。

宴会や飲食では伝統的なホテルに負けてしまいます。シングルマンション事業では、居住者からの睡眠に関するクレームに真摯に対応してきましたので、その経験を活かして宿泊に特化し、快眠を徹底的に追及したホテルでやれば、独自性のある一分野を築けると考えました。感覚的な挑戦ではなく、定量的に快眠を判断できる仕組みが必要と考え、大阪府立大学の健康科学研究室と連携して「ぐっすり研究所」を設立し、同研究室の清水教(のり)永(なが)教授(現・名誉教授)と共同研究を行いました。

――御社の天然温泉も快眠に効果がありますね。
ドイツを訪問した際、天然温泉の自然治癒力の活用事例を学び、私も温泉好きでしたので、ホテルに天然温泉を導入して皆さんに元気になっていただきたいと考えました。全国の約半数の店舗に天然温泉の浴場を設置しています。浴場のご利用が増えてお部屋での入浴が減り、結果的に水とエネルギーの節約にもつながっています。

――ホテル業界で御社が最初にエコ・ファースト企業の認定を受けられたそうですね。
21世紀は省資源、省エネルギーの取組みが必要と考え、当社が目指す「地球を元気に、人を元気に」というテーマに合致している「Lohas(*)」をコンセプトに掲げています。
*“Lifestyles of Health and Sustainability”の略で、「人間の健康と環境の保護を最優先に、持続可能な社会のあり方を追い求める、新時代のライフスタイル」のこと。

――どのような取組みをされたのですか?
照明器具の見直しや節水システムの設置、集中冷暖房のセパレート化などの省エネ設計に取り組み、ペーパーレス、キャッシュレスなどのグリーンITを進めてきました。更に、全店舗でISO14001を認証取得してCO2削減を進めてきた結果、2010年に2001年比で32%削減

毎朝、フロントに空き缶やペットボトルを捨てるエコバッグというゴミ箱を設置し、持参された方にはチョコレートを手渡しています。先日、お子さんが嬉しそうに容器を持ってこられ、その後ろにおられたお母さんがとても嬉しそうな表情をされていました。その様子を拝見していた支配人やフロントアテンダントの心も温かくなり、この取組みは素晴らしいと感じました。

――日本経営品質賞に挑戦されたきっかけは?
ホテルが30店舗ぐらいになった頃にお客様からのクレームが増加し、右肩上がりだった客室稼働率も伸びが鈍化し始めたのです。多くの社員から話を聞くと、目標数字は伝わっていましたが、その意味合いや経営理念が全く浸透していないことがわかり、愕然としました。

もう一つは、テレビでザ・リッツ・カールトンが世界最高のおもてなしを提供するホテルとして紹介され、当社が新興の格安ホテルとして紹介されるパターンが何度か続きました。取材時に「1円当たりの顧客満足度」では当社のほうが高いはずだと話すのですが、そういうことは放送してもらえません。調べてみると、ザ・リッツ・カールトンが米国のマルコム・ボルドリッジ国家品質賞を受賞していることを知り、同賞を範として創設された日本経営品質賞に挑戦しようと決めたのです。

――客室稼働率やリピーター率が高い要因をどのようにお考えですか?
客室稼働率は90%、リピーター率も71%ぐらいになっています。お客様の不満を取り除くことが重要と考え、身だしなみ、接客、清潔感、朝食の4項目についてお客様アンケートを実施し、各店舗の点数を10日毎に集計して全社で共有しています。

一方、満足度を高めてリピーターになっていただくには、お客様に感動していただくことが大切です。「ここまでやってくれるのか」「ここまで考えてくれているのか」と思っていただけることが感動の源になります。マニュアル経営や集団研修で実現できるものではなく、TPOに応じた対応が必要です。自分で考え行動し、人に感謝することができなければ、お客様に感動を与えることはできません。自分で考えて行動する「自律型感動人間」を育てることに重点を置いており、エネルギーの6~7割を費やしています。

――経営理念の浸透で心掛けておられることは?
当社では経営理念の徹底に力を入れており、経営理念などを記載した「Faith(フェイス)」というカードを全社員が常に身につけています。毎朝の朝礼時に1頁ずつ全員で唱和し、交代でその内容に関する各自の考えや取組みを発表してもらい、それに対して本社でしたら社長が、店舗でしたら支配人、副支配人が助言し、対話を行っています。経営理念を浸透させることができれば、売上や利益はあとからついてくるものです。「こういう価値観でお客様に喜んでいただこう、社会に役立とう」という共通の価値観を持った人材づくりを目指しています。

――「私はプロです」という表題のページに「プロの考える習慣」が書かれていますが。
経営学者の野中郁次郎さんが言われているように、「暗黙知」(主観的、身体的な経験知)と「形式知」(明快に言語化、客観化できる理性的な知)を絶えずスパイラルアップさせることが目的です。

――独自に導入されているベンチャー支配人制度について教えていただけますか?
社員ではなく、将来独立や開業を目指すご夫婦やカップルの方などに支配人、副支配人を務めてもらっています。通常は現場で10年ほど働いてから支配人になるものでしたが、当社では50日の研修で支配人になってもらいます。支配人に一番必要なことは、自律型感動人間の要素であり、感謝・感動する人間であれば難しくないです。

支配人に必要なスキルは、本部でサポートする仕組みを構築しています。様々な情報を共有する「スーパーウェア」や6か月先を見据えた営業計画の策定に役立つ「需要予測システム」等を導入し、支配人が自分で戦術を組めるようにしています。

小型店を中心に全体の9割弱でベンチャー支配人制度を導入しています。契約期間は4年間で延長も可能です。頑張れば数千万円の自己資金を貯めることができ、支配人を卒業し、培ったノウハウを基に独立して成功されている人がいます。

――組織の活性化や人材育成についてどのようにお考えですか?
近江商人が大切にしていた、売り手よし、買い手よし、世間よしという「三方よし」の精神に、社員よしを加え「四方よし」の経営をやっていこうとしています。やはり、お客様に喜んでいただき、社員にも喜んでもらえるよう、事業の拡大よりもエクセレント(超優良)を目指しています。

組織運営では、社員満足度をどこに置くかということが一番の基本だと思います。やはり顧客満足度は社員満足度と直結しており、社員が満足していないと顧客満足度は上がりません。社員満足度の向上は永遠のテーマだと思っています。

ピンチをチャンスにする人は、発想力、第六感が良いものです。私も仕事で落ち込んだ経験が何回もありますが、世間が悪いせいだと思っていると卑屈になり、感性は磨かれません。感性は、自分で考えて行動しているうちに磨かれていくものです。仕事から逃げてはいけません。

やはり、人間力のベースとなるのは、感謝の気持ちです。色々と感謝すると気持ちが明るくなり、発想も湧いてきます。周りの人も明るくし、色んな支援を呼び込める力になります。社員に対して、経営理念を共有し、仕事をやりながら自分の感性を磨き、人間力を高めてほしいと話しています。

また、人材育成では、上司と部下のコミュニケーションを良くすることを重視しています。部下が自分の夢や目標を書く「チャレンジシート」と、それを具体的な行動計画に落とし込む「ランクアップノート」という二つの目標管理ツールを使用し、上司と部下による「話し込み」(対話)の時間を定期的に設けています。また、年2回、上司に対する部下からの評価も出しています。

――海外展開も含め、今後の事業展開をどのようにお考えですか?
日本では2030年に訪日外国人3,000万人超を目指す目標が掲げられており、経済波及効果も大きいと思います。ただ、平均3泊されると約1億人泊の規模になり、ホテルも何もかも不足することが懸念されます。少しでもそれを手助けしていくことができればと考えています。

国内店舗のグローバル化として、ホテル業務について英語で説明できるよう、社員向けの簡単な英会話教室を実施しています。また、東南アジアの商圏を意識しながらグローバル化を進めたいと考えています。現在、ハノイ、バンコクの2か所に出店しており、2015年3月頃にミャンマーにも展開する予定です。現地社員を国内のホテルで受け入れて研修するなど、人材交流を図っています。

――地域貢献の観点から、自治体の要望でホテル進出されるケースもあるのでしょうか?
島根県江津市にフランチャイズ形式で進出する予定です。やはり地域の方が地域活性化にもの凄く熱心になっていただくと成功します。CSR(企業の社会的責任)による社会貢献ではなく、社会貢献しながら利潤を確保するCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)を目指しています。

――Lohasシリーズ1号店を奈良県内で開業された理由をお伺いできますか?
実は、私も大和郡山市箕山町の出身です。昭和17年に大阪で生まれ、すぐに奈良県に移り、52年までずっと奈良に住んでいました。奈良県にあるスーパーホテルの部屋数は、新大宮駅前と大和郡山、Lohas・JR奈良駅の3店舗で合計422室あります。2015年春にJR奈良駅前店が再オープンする予定で90室増えますので、奈良県内で500室以上になります。部屋数では、東京都、大阪府に次いで3番目に多いのが奈良県なのです。

朝の奈良公園の散歩は素晴らしく、Lohasのイメージにぴったりと思いました。奈良の観光自体もLohasをコンセプトにすべきではないでしょうか。そういう時代が来ていると考えています。

既に奈良自体がエコです。例えば、奈良公園の芝生でも全部鹿が食べて、鹿の糞が肥料になり、糞の中に入っている種から新しい芝が育っていきます。
ただ、顧客目線でいうと、周りの風景に溶け込むようなゴミ箱等をもっと設置すべきです。

やはり奈良は観光地として、エコ、サステナビリティ(持続可能性)を売るべきだと思います。既に世界の多くの国でサステイナブル・ツーリズムの国際認証制度の導入が進められています。他の地域は中々取れないと思いますが、今の奈良県ならば取れると思います。

――奈良県の観光振興について助言をお願いします。
奈良で昼食だけして京都へ戻る、行くという観光客の方が多いですが、じっくりと奈良を観光し、奈良に泊まって翌朝に京都に行ってもらうという具合にしたいという思いがあります。

残念ながら夜は京都のほうが楽しいですが、温泉があれば奈良に泊まってもらえるのではないかと考えました。ちょうど大和郡山に父が所有していた田んぼがあり、そこを掘ったら温泉が湧(わ)くというような調査結果も出てきました。

立地がやや不便なためリスキーかとの懸念もありましたが、温泉を掘ってそこに店舗を開業しました。おかげさまで客室稼働率は約85%あります。現在、そこからLohas・JR奈良駅へ温泉のお湯を運んでいます。奈良は、まだまだホテルを作ってもやっていけると考えています。

――観光振興で参考になる地域はどこですか?
スケールは違いますが、飛騨高山の活動が参考になります。官民挙げて一生懸命に観光客誘致に取り組まれており、案内板などの5か国語表示もされています。奈良観光と言うと、東大寺や春日大社、平城京など奈良市内が中心になっていますが、足回りさえ良くなれば、明日香村や法隆寺などの個性がある地域との一体化も可能です。これらの地域をきっちりとファッション化して発信していくことが大切です。更に、ホテルなどの料理やおもてなしをプラスアルファできれば、観光客もリピーターになっていただけるのではないでしょうか。

――「奈良にうまいものなし」と言われており、県外の方へのPRも難しいと思いますが。
大和地鶏(肉鶏?)や大和野菜、吉野葛など色々ありますから、それらの素材をうまく料理して提案してもらうような大会を行ってはいかがでしょうか。

2か月に1度ぐらいの頻度で奈良を訪れ、その際に郡山城や柳沢神社も時々行きます。小さい頃から郡山城へはよく行きました。あそこへ行くと、気分が落ち着きます。


Lohasやサステイナブル・ツーリズムの考え方は、奈良にとって大いに参考になる。また「単位金額当たりの顧客満足度」はリッツ・カールトンよりスーパーホテルの方が高い、は全くその通りである。財布の紐が相変わらず固い今、スーパーホテルの「安くて高品質」は、有り難い存在である。

山本会長、これからも頑張ってください。島田さん、興味深い記事を有難うございました!
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