青空、ひとりきり

鉄路と旅と温泉と。日々の情景の中を走る地方私鉄を追い掛けています。

にしがまの、未来に何を描こうか。

2023年07月19日 19時00分00秒 | 名古屋鉄道

(重厚な家並み@西尾市吉良町)

渋焦げ色の板塀に、水神様と思しき小さなお社。三ヶ根山の西麓に源を発する、矢崎川という小さな川のほとりに広がる吉良の街。2011年に周辺市町村と合併し現在は西尾市に含まれていますが、かつての幡豆郡吉良町の中心街。三河湾に面した漁業と農業の街で、あの「忠臣蔵」の吉良上野介の生まれ故郷としても有名です。江戸時代以前から西尾藩に属する古い街らしく、そこかしこに雰囲気のある家並みが続いています。

愛知県の三河湾沿岸は、東海道本線と新幹線、東名高速道路が通る内陸部から遠く離れていることがネックなのか、開発や都市化の波からは遅れている印象で、アサリやカキ、ノリなどの養殖や小規模な沿岸漁業で生計を立てる第一次産業の街。それだけに、華美な商業施設や繁華街などは影も形もなく・・・吉良の街からお隣の一色町にかけて目立つのが、鰻料理の店やかば焼き・白焼きなどの加工品の販売所。この時期「三河産」のウナギは、浜名湖産や鹿児島県産と並んで国産ウナギのトップクラスのシェアを占めています。

重厚な旧家の軒先を掠めて、矢崎川の堤防へ駆け上がる蒲郡線の6000系。吉良吉田は、東へ向かう蒲郡線、南北を結ぶ西尾線、そして碧南・刈谷を経て知立へ向かう三河線の三線が交わる名鉄電車の要衝でもありました。事業的に収支の極めて悪化していた三河線の吉良吉田~碧南間は、電化設備を廃した上で気動車転換して存続を図りましたが、2004年に廃止されてしまいました。平成中期の名鉄に相次いだ末端ローカル区間の廃線、セントレア開港を控えた「選択と集中」であったのでしょう。蒲郡線は辛くも難を逃れましたが、投資か、撤退かという明確なビジョンはなく、沿線自治体の支援はあるものの、今後は不透明なままです。

真っ赤な電車が矢崎川の鉄橋を渡る。川の護岸にはカキ殻がビッシリとくっついていて、独特な潮の香りを放っていました。潮干狩りをしている人もいましたが、食べたり出来るのかな。カキは水中の有機物を大量に吸い込むので、水質の浄化にはかなり効果の高い貝らしいですがね・・・

高度経済成長期には、蒲郡競艇や西浦温泉を始めとする沿線の温泉地、三河湾沿岸の潮干狩り客・海水浴客を運び、一大観光路線であった蒲郡線。対名古屋を見据えると、速達能力はJRに大きく水を開けられ、現在は地区間の小規模なローカル輸送を担う路線となっています。これ以上の合理化を避けながら路線維持の道をどのように模索するか。注目しながら応援して行きたい路線です。

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三河の海よ、豊かな恵みよ。

2023年07月16日 17時00分00秒 | 名古屋鉄道

(三河湾コーストライン@東幡豆~西幡豆間)

少し高い場所から、幡豆の街を走る白帯車を眺めれば、線路の向こうに三河湾の入江と浮かぶ小島。島の名前は前島と言うらしい。陸との間には東幡豆の干潟が広がっていて、アサリやハマグリなどの大変良い漁場でもあります。ちなみにこの三河湾沿岸って、とにかく春の潮干狩りが一大レジャーなんですよねえ。潮干狩りなんて、この令和の時代に何だか昭和のレジャーっぽいように思うのだけど、いやー、三河の人々の潮干狩りはガチです。幡豆の街を少し走れば、浜辺には潮干狩り用の番屋みたいなのがたくさん並んでますからね。時期になれば浜を網で囲って潮干狩り場にして、番屋に入った漁協のジジババが料金を取って観光客に潮干狩りをやらせる訳です。そして、漁港や浜辺のあちらこちらにロープで囲っただけのやたらと広い草の生えた空き地があるんですけど、だいたいそこには「潮干狩り駐車場」なんて書いてあるんですよ。ようは、そんくらいの広い駐車場がクルマで埋まるだけの需要があるということで・・・その広さを見ながら改めて「三河っ子、潮干狩り好きすぎねえか?」となるのだ(笑)。

暗がりに冴えるスカーレット。名鉄蒲郡線は、三河湾に沿って走りながらも、町と町の間で小さなサミットを抜けるシーンがいくつかある。特に西浦~こどもの国~東幡豆~西幡豆間では、駅の合間合間に三河湾に突き出た小半島の付け根の鞍部を越えていくので、こんな山深い雰囲気の場所があったりしてドキリとさせられます。

森を抜けて走る6000系。車体にこの時期、雨に濡れて濃くなった緑が映る。ちなみに潮干狩り、だいたい春から梅雨前までくらいがシーズンなので、この時期すでにシーズンは終わっていた。西幡豆の沖合にある梶島という島が潮干狩りのメッカになっているらしく、その様子は愛知県の観光HPに掲載されているのでありますが、老若男女が網と熊手を両手に持って一心不乱に磯を掘り漁るその姿は、もはやレジャーでもなんでもなくて狩猟そのものである。

ちなみにかくいう我が家も、ヨメさんのほうに豊橋在住の親戚がおりまして、シーズンになると「潮干狩りで獲れた」というアサリやハマグリや岩ガキみたいなのをクール便で冷蔵庫に入りきらないくらい送ってくれる。定番の味噌汁に始まって、酒蒸し、バター焼き、ボンゴレ、アサリご飯となんでも美味い。三河湾の貝類は味が濃くて、それこそスーパーの水に浸ったパックのアサリなんか物足りなくて食べられなくなっちゃいますねえ。贅沢な話です。

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確かに、そこにあった、はず。

2023年07月14日 17時00分00秒 | 名古屋鉄道

(あの夏、静かな凪の入江@東幡豆海岸)

蒲郡線は、三河湾に沿って走りますが、残念ながら車窓から海が見える場面というのは殆どありません。ただ、一番海に近い場所にある東幡豆の駅からは、駅からほんの少し歩くだけで海岸に出ることができます。蒸し暑い一日でしたが、さすがにまだ海水浴には早い梅雨の最中。ガクアジサイの咲く浜辺で、地元の親子がチョイ投げ釣りしていたり、波打ち際で遊んでいたり・・・

ビニールのホーム上屋に、なんとなく市民プールのプールサイドのような懐かしさがあるような東幡豆の駅。かつては開通以来の雰囲気のある木造駅舎が建っていたそうですが、老朽化と合理化のために二年前に取り壊されてしまいました。真新しいアスファルトに、そこにあった「はず」の駅の姿を偲ぶのみで、郵便ポストだけが寂しく残っています。名鉄の蒲郡線は、慢性的な赤字続きで存廃問題すら取り沙汰される状況の中、いわゆる「おカネのかかること」というものは極力やらないことにしている感じがヒシヒシと感じられます。

そんな東幡豆の駅に、律儀に30分に一本やってくる赤い電車。どの列車にも、多くはないもののぽつりぽつりと乗降客は見られます。蒲郡線はICカード非対応、かつ券売機すらなく乗車証明書による対応ですし、中間駅同士の利用では小銭での車内精算になるんですよね。あまりにもやってる事が前時代的で、名鉄本社の蒲郡線に対する仕打ちの非道さを憂うばかりなのでありますが・・・ってか、名鉄っていったん合理化って決めたら結構容赦しないイメージはあるよね。

駅舎があった時代の、東幡豆駅周辺の案内図。駅の周辺の景色を見ると、今は既にないお店の案内なんかも掲載されているし、そもそもこの看板も移動しているようだ。在りし日の賑わいはないにせよ、それでも旧幡豆郡の中心をなした幡豆町の住民にとって、名鉄蒲郡線というものはなくてはならない交通手段のはず、なのですが。

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日向道、紫陽花の道。

2023年07月12日 17時00分00秒 | 名古屋鉄道

(梅雨の僅かな晴れ間に@西幡豆~東幡豆間)

基本的には梅雨空だったこの日の三河湾沿岸、朝方に少しだけあった晴れ間を使って、いい感じに紫陽花の咲いた小川の土手を歩いてみる。ローカル私鉄は概して本数が少なく、カット数を稼ぐのに難儀するものだが、30分ヘッドでどちらかからは電車の走る蒲郡線。アングルを決めて待つ時間もちょうど頃合いで、手数とコマ数には心配がない。これが15分おきだとアングルが固まらないし、1時間だとさすがに列車間隔が長すぎて間延びしてしまうんだよな。特にこれからの夏場、炎天下の線路っぱたで何時間も列車を待つのはさすがにしんどい。

紫陽花って、植物だから一応日光は嬉しいもんなんだろうか。
それとも、雨を吸って人間みたいにエアコンで涼みたい・・・なんて思っているのだろうか。
湿気の強い海風に蒸され、ぽたぽたと滴る汗をぬぐってクルマに逃げ込んだ、三河湾の梅夏。

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白帯車、潮風の街を行く。

2023年07月10日 17時00分00秒 | 名古屋鉄道

(ノコギリ屋根の、軒を掠めて@形原~西浦間)

名鉄の蒲郡線は、高架になった蒲郡の駅を出ると、線路は蒲郡の市街を抜け、海岸線沿いの街を走って終点の吉良吉田までは約17km。沿線は豊かな三河湾の漁場を抱えた漁港町で、そこかしこに港湾関係や漁業関係の会社や工場が多い。漁具、撚糸、船を係留するロープ、ヨットやテントの帆布、スフ、ディーゼルエンジン、船体を作るFRPの工場、冷凍機の看板。観光客向けの磯料理のお店や、シマノやがまかつの看板を掲げる釣り具屋釣り餌屋・・・そんなゆるりとした街並みに足を止めると、なんとも昔ながらのノコギリ屋根が連なる工場を発見。どうやら、船や港で使われるロープを作る工場らしい。蔦の絡まる風合いに、相当古くからある工場とお見受けしますが、家に帰って調べてみたら、なんと創業120年だとか。

潮の香漂う街並みに。工場の軒を掠めて、白帯が往く。

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