7月29日(土)その1
【おさびし十数首選 塔7月号②】
笹を刈る畑の際を〈くろしお〉が走り行きたり 母を思いぬ(白井陽子)
ごらんあれがとさゆりの唄ふさながらに龍飛に風がへうへうと吹く(伊藤京子)
いにしへの墳墓はいつか丘となり誰かが植ゑし桜を抱く(加茂直樹)
告げ口をしてさみしさの増してゆく子どものやうだ この春もまた(田中律子)
きみに似て話の長いひとだつた散歩の帰り揚げパンを買ふ(新井蜜)
帰りたいところはないと晴れ晴れと父は満開の桜の下に(宮脇泉)
リサイクルできないものが好き 道に散る木蓮の花の汚さ(丘光生)
好き嫌い激しかりにし亡き人の遺産公平に分けられてゆく(枡田紀子)
柔らかきティッシュ購う何もかも膨らみ続ける春に圧されて(堀内悠子)
木漏れ日に頬がざんざんぬらされりこういうふうに泣く人もゐつ(日下踏子)
あの坂でつうじる坂にねむのきがあり通るときねむのきとおもふ(日下踏子)