読書で北海道を満喫
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札幌の主婦奈津子は、鯨が腐敗爆発する動画を見て臭いを思い出す。
後日、釧路の母を訪ねる途中、捕鯨の町にいた幼い頃が蘇ってくる。
記憶の扉を開けた彼女は……「鯨の岬」。
江戸後期の蝦夷地野付に資源調査のため赴任した平左衛門。
死と隣り合わせの過酷な自然の中で、下働きの家族と親しくなり……
「東陬遺事」(北海道新聞文学賞受賞作)。
命を見つめ喪失と向き合う人々の凄絶な北の大地の物語。
全二編。
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北海道の誇る、河﨑秋子さん。
本巻を読んで、やっぱり好きだなーと再認識しました。
「鯨の岬」はこの文庫書き下ろし、
「東陬(とうすう)遺事」は、北海道新聞文学賞受賞作、という中編2作。
どちらも良くて、贅沢な文庫です。
「鯨の岬」は札幌に住む主婦奈津子が、釧路の施設にいる母の元を訪ねる途中、
捕鯨の町にいた幼い頃のことが甦り、なんとなくその町を訪れるのです。
そこで彼女は、思わぬ記憶の扉を開けることになる・・・。
予想外の展開。
ドラマチックでもあります。
「東陬遺事」は、江戸後期の北海道、それも道東、野付が舞台という特異な作品。
この地に資源調査のため、平左衛門が赴任してきます。
死と隣り合わせのような過酷な自然の中で、彼は下働きの家族と親しくなります。
そんな中のとある描写が、私は忘れられない。
流氷で埋まった内海を満月の夜に歩いて渡る父子。
「雲一つない夜空に浮かぶ満月は明るく空を群青に染め上げている。
明るすぎて星は見えない。
遮られるもののない月光を受けた氷原は光を反射して明るく、
地平線の辺りでは空の色との坂井が分からないほどに、
空も地も一面の青に染め上げられている。
―――静かだった。
昼とはうってかわって空に鳥の気配はない。
氷上を歩く獣もいない。―――」
おそらく吐く息がそのまま凍って散っていきそうなくらいにピンと凍り付いた空気。
この世のものとも思えないその壮絶に美しく凍り付いた景色の中で、
その父親は「魂消て」亡くなってしまうのです。
なんだかそんなこともあるかもしれない・・・と思ってしまう、壮絶に美しく冷たい世界。
これは北海道でも札幌に育った私には到底描写できるようなものではなくて、
やはり道東の厳しい大自然の中生きてきた著者だからこそ、
描けた世界だなあ・・・とつくづく思いました。
「鯨の岬」河﨑秋子 集英社文庫
満足度★★★★★
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