映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

「完璧な母親」まさきとしか

2021年01月06日 | 本(その他)

狂的な母の思いの波紋

 

 

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兄が死んで、私が生まれた。
一歳の誕生日。
ケーキには八本のろうそくが灯されていた。
幼くして死んだ兄の代わりに産み直された妹は、
母の絶大なる愛情を注がれ空洞として生き続けている。
やがて兄の死の秘密を知るもうひとつの家族の告白が波琉子を揺さぶる―
「お母さんはいいお母さん?」

* * * * * * * * * * * *

1人の男の子の死が、その後二つの家族をゆさぶる、
そんな物語。
・・・と、読後には言えるのですが、実のところ読んでいる最中には
物語がどちらの方向に進もうとしているのか想像が付かず、
なかなかやきもきさせられるのでした。

 

知可子は、自分がつい目を離したことから、
最愛の小学一年の息子・波琉を事故で亡くしました。
その責任感の重圧に押しつぶされそうな知可子は、
波琉の身代わりを生むことを決意。
ついに波琉と同じ誕生日に女の子・波琉子を出産。
それから知加子は波琉子の中に波琉がいると信じ込み、
常に「完璧な母親」であるべく、必死になるのです。
波琉子の誕生日には必ず7つ上の兄・波琉の誕生日も共に祝う。

波琉子は母親が自分ではなく自分の中の兄しか見ていないことに気づき、
本当はいない兄を自分が演じるようになり、
そしてそのことに罪悪感を持つようになっていくのです。

 

ある事件を経て、第二章では別の家族が登場。
なんと、自分は波琉の生まれ変わりだという女性が登場。
・・・これはスピリチュアルな物語?と焦るのですが、
それはやはりそうではありません。

1人の少年の死。
それはただ忘れ去られて終わりではないのですね。
その後その周囲の人々に苦く暗い波紋を投げかけ続ける。
いちばん衝撃的なのはやはりあまりにも狂的な母、知可子でした。

 

著者まさきとしかさんは私には初めての作家。
東京生まれですが中学のときに北海道経移り住み、現在も札幌在住とのこと。
この名前からは男性を想像していて、
こんな狂的な女性の心理を男性が描いたのだとしたらちょっとイヤだなあ・・・
などと思いましたが、やはり女性なのでした。
ほっ。

図書館蔵書にて

「完璧な母親」まさきとしか 幻冬舎

満足度★★★.5

 



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