少年の心に落ちる影。格差、差別。
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ジェームズ・グレイ監督が自身の少年期の体験を元に脚本を書いたもの。
1980年、ニューヨーク。
白人の中流家庭に生まれた、公立学校に通う12歳の少年、ポール(バンクス・レペタ)。
PTA会長を務める教育熱心な母(アン・ハサウェイ)。
働き者で、厳しくもある父(ジェレミー・ストロング)。
私立学校に通う優秀な兄。
一応穏やかな家族ではありますが、
ポールはこのごろ、家族に対して苛立ち、居心地の悪さを感じています。
そんな中でも、祖父アーロン(アンソニー・ホプキンス)だけは心を許せる相手。
アーロンは、ウクライナ系のユダヤ人で、
移民としてアメリカに渡ってきて成功を収めていますが
その間の苦労は並大抵ではない。
そうした経験の果ての度量の広さがあるわけです。
ポールは絵を描くことが好きで、若干夢見がち。
そんなところから普通の子どもたちや家族との関係性から浮き上がりがちなのでしょう。
クラスの問題児、黒人のジョニーだけが唯一打ち解けられる友人なのです。
ところが祖父が亡くなり、ポールは心の支えを失ってしまいます。
また、両親がポールについての困りごとを話しているのを聞いてしまい、
いよいよ捨て鉢になってある悪事を思いつき、ジョニーを誘います。
ポールの家族は教育熱心であり、親も何かしらの世間的ステータスを得ようと一生懸命。
というのも、下手をすると格差社会に飲み込まれ下層に滑り落ちてしまいそうだから・・・。
父は、自らの配管工という仕事に誇りを持ってはいるけれど、
社会の中では見下されていることにコンプレックスを抱いています。
母はPTA会長を務め、次は教育委員に立候補しようと思っている・・・。
そんなだから、息子が黒人の少年と付き合うこと自体がもう、タブーと思うわけです。
実際、ジョニーに関係して問題が起きて、
ポールは公立学校をやめて私立学校に転校することになってしまう。
けれどそこはまさに「格差社会」の縮図。
社会の頂点を目指す人材育成を目指す学校なのです。
この学校の有力支援者として、フレッド・トランプという人物が登場しますが、
実はこれがドナルド・トランプの父ということで・・・。
つまりはこの時代からある格差社会や、人種差別は、
同じかまたは形を変えつつもなくならず現在に繋がっているわけで。
ポールは頑として目の前にある格差や差別を否応なく認識させられてしまいます。
そしてそれを見据えたまま、前に進むほかないのだという覚悟を決める。
少年にはつらい出来事なのだけれど、多かれ少なかれそういう風に人は皆生きている。
ならば、そこから繋がる現在は本当はもう少しマシになっていてもよいはずなのですが・・・。
そうはうまくいかないのが世の中ということか・・・。
アン・ハサウェイが疲れたお母さん役というのに、年月の流れを感じてしまいました・・・。
<Amazon prime videoにて>
「アルマゲドン・タイム ある日々の肖像」
2022年/アメリカ/115分
監督・脚本:ジェームズ・グレイ
出演:アン・ハサウェイ、アンソニー・ホプキンス、ジェレミー・ストロング、バンクス・レペタ、ジャイリン・ウェッブ
格差社会度★★★★☆
少年の挫折度★★★★☆
満足度★★★★☆
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