映画と本の『たんぽぽ館』

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「まほろ駅前狂騒曲」三浦しをん 

2014年02月06日 | 本(その他)
行天の怖いもの

まほろ駅前狂騒曲
三浦 しをん
文藝春秋


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いつもの奴らがなぜか集結―?
まほろ駅前は大騒ぎさ
!四歳の女の子「はる」を預かることになった多田と行天。
その後なんとバスジャック(?)に巻き込まれることに―。


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お楽しみ、「まほろ駅前」シリーズの第3弾です。
ストーリーは驚きの展開。
まずは多田が4歳の女の子「はる」を預かることになりますが、
え~い、ネタばらしだけど明かしてしまいましよう。
この子は行天の子なのです!
彼に子供がいる経緯は、前作を読んでいただきたいのですが、
DNA的に確かに彼の子供なのです。
「はる」は通常はしっかりした母親たちに育てられているのですが、
母親の都合でどうしても一時的に誰かに預かってもらわなければならなくなった。
しかし、問題は当の行天が大の子供嫌いであること。
多田は「はる」の素性を隠したまま預かろうとするのですが・・・。


本作はまた、宗教の問題も絡んできます。
個人にとって宗教の選択は自由。
だけれども、その教義を押し付けられる子供にとってはどうなのか。
親が選んだ宗教は、子供にとっては好むと好まざるとにかかわらず
受け入れなくてはならない絶対的なものになってしまう
・・・そういうテーマが底辺に流れているのです。


多田が「怖いもんなんかあるのか?」と問えば、
行天は「あるよ。記憶」と答える。


彼の記憶の底にあるのは実は、子供の頃の親の宗教なのです。
彼の子供嫌いの根っこもそこにある。
何を考えているのやら、なにをしたいのやら、
ひょうひょうとしてつかみ所のない行天の実像が、
ようやくこの第3弾にして焦点を結んだのでした。
前2作を読んだ方は、この巻を見逃してはいけません。
大人の男二人の友情。
やっぱり三浦しをんさん、上手いんだなあ・・・!!


それから、バスジャック、というのはまあ表現がオーバーですが、
例によって「バスの運行が間引きされている」と信じてやまない岡老人が、
ご近所の老人を巻き込んで暴挙に出るのですね。
この顛末はまことに楽しめます。


そしてその挙句が、信じがたい事件!!
行天がまたもや悲惨なキズを負うのですが、
でもこのことは彼の大きな自信につながるのです。
なんと鮮やかな展開。
これぞ三浦しをん。
たっぷり楽しめてしかも胸に迫る。
堪能しました。

「まほろ駅前狂騒曲」三浦しをん 文藝春秋
満足度★★★★★