映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

蛇イチゴ

2010年10月20日 | 映画(は行)
常に清く正しくはいられない私たちの内面

蛇イチゴ [DVD]
西川美和
バンダイビジュアル


           * * * * * * * *

「ゆれる」「ディア・ドクター」の西川監督初監督作品。
ずっと前から上位でレンタル予約していたのですが、やっと見ることができました!!


まずは、普通の家族の風景なんです。
会社勤めのお父さん。まじめで一本気という感じ。
おじいちゃんは惚けていて、世話が大変ながら、しっかり者のお母さんがついている。
娘は小学校の教師で、その夜、彼氏が初めて家に来ることになっている。

家に来た彼の感想は「いやあ、いい家族だねえ、うらやましいよ」という、
まさに表面はそういう家庭なのですが・・・。


ところが次第に内実が見えてきます。
お父さんは、とっくに会社をクビになっていて借金まみれ。
それでも、ずっと勤めているフリをして毎朝家を出ていたわけです。
お母さんは惚けたおじいちゃんの世話が嫌で嫌で、円形脱毛症になっていたりする。
そんなときにおじいちゃんが急死。
葬儀の夜、借金取りが現れてお父さんの秘密が暴露されてしまう。
そしてそこへ、この家の放蕩息子が帰還。
この兄は口八丁手八丁のいい加減な奴で、目下の職業は香典泥棒だ・・・。
すっかり地が出て開き直ってしまったこの家族は
いったいどうなってしまうのか・・・?!


う~ん、修羅場ですね。プライドの高いお父さんの秘密が、
葬儀の参列者の前であからさまにされてしまった。
なおも場を混乱させようとするヤクザのような借金取りを、
なんとあの兄が弁護士のフリをして撃退してしまった。
これまで兄だけがウソツキの悪者だったこの家族、
実は父も母も欺瞞に満ちた似たもの同士・・・。

おかしなもので、この長女だけが芯からまじめできちんとしていて、
こんなときに彼女だけが浮いてしまってくるのです。
この家族にとっては正論は耳が痛いだけ。
たとえウソでもその言葉にすがりたい。
滑稽ではありますが、そういうものかもしれません。
だけど、結局そういう方が生きていく力にはなるんじゃないかな。
この作品ではしだいに長女倫子が一番危うく見えてきます。


「お兄ちゃん、子供の時にすっごく甘くておいしい蛇イチゴがあるところを見つけた、
なんていったでしょう。
それを探しに行って迷子になってひどい目にあったのよ。
アレもウソだったんでしょう。」
イヤ、それはウソじゃないといいはる兄に、
それなら、その場所まで連れて行ってよという倫子。
夜明け前の森を二人がイチゴを探して歩きます。
さあ、本当にイチゴはあるのでしょうか?

鮮烈なラストがみごとです。
ちょっとくらいいい加減でも、したたかに生きていく方が勝ちかな・・・。
決して常に清く正しくはいられない私たちの内面。
それは私たちの弱さでもあるけれど、
それに開き直って強くもなれるんですね。
リアルな身近さを感じさせる作品でした。

2002年/日本/108分
制作:是枝裕和
監督・脚本:西川美和
出演:宮迫博之、つみきみほ、平泉成、大谷直子