映画と本の『たんぽぽ館』

映画と本を味わう『たんぽぽ館』。新旧ジャンルを問わず。さて、今日は何をいただきましょうか? 

セントアンナの奇跡

2009年07月30日 | 映画(さ行)
イタリアでは祖国アメリカにいるより自由

            * * * * * * * *

1983年。ニューヨーク。
まじめに勤務していた老郵便局員が、ある日客として現れた男を射殺。
彼の部屋からは、行方不明になっていたイタリアの古い彫像の首が見つかる。
彼が心に秘めていた過去の物語とは・・・・・・・。


時は第二次世界大戦時までさかのぼります。
彼、へクターは、米国の黒人部隊“バッファロー・ソルジャー”の一員として
イタリア、トスカーナ地方に来ていました。
当時、アメリカではまだまだ人種差別が根強くあり、
黒人のアメリカへの忠誠心を試すかのように、黒人の入隊志願を募りました。
多くの黒人が、自分たちのアメリカでの地位向上を夢見て入隊したのです。
実は、白人だけでは兵の人員配置が苦しくなっていた・・・、
多分そういう事情であったろうと思われるのですが。

こういう事情は、とても良くわかるのです。
今、まだ途中ですが真保裕一の『栄光なき凱旋』という本を読んでいまして、
こちらは、アメリカ在住日系2世の話なのです。
同様に日系人の部隊が編成され、ヨーロッパに派遣されています。
いずれにしても、彼らは本国では白人たちにいわれなき差別を受けており、
都合のいいときだけ利用されているということも承知のうえで、
しかし、自らのアメリカ人としての立場を主張するために、
命を掛けて入隊した。
・・・そういうちょっと哀しく理不尽な歴史が実際にあったということですね。


へクターは戦闘の中で他の三人の仲間と共に、部隊からはぐれてしまいました。
そこで、ちょっと変わった少年と出会うことになります。

この地には様々な人たちが入り乱れています。
アメリカ軍の白人、黒人。
ドイツ軍。
地元イタリアの人たち。
ファシスト。
パルチザン。
しかし、その人種、国籍に関わらず、
信頼できる人、できない人が、またそれぞれにいるのです。
この混沌とした中で、
少年を救いたいという思いがリレーのように
バトンタッチされていく気がしました。
どんな立場であっても、
こうした思いでつながることができるというのは唯一の救いです。


黒人兵たちはイタリアの村で不思議な感覚を味わいます。
「今、自分たちはアメリカにいるよりも自由だ・・・」
イタリアの人たちにとっては、黒人も、白人もアメリカ人は単に「外国人」。
差別を知らないのです。
祖国では、店に入ってカキ氷を食べることもできなかったのに・・・。

でも、このような思いの果てのずっと未来に、オバマ大統領がいて。
なんだか感慨深いですね。

チョコレートの巨人こと、トレインも、とてもいいキャラクターでした。
彼は知能が低いわけではないと思うんです。
心は誰よりも純真。
まあ、戦争には不向きですね。
リーダー格スタンプスと、女好きのビショップ。
4人それぞれの個性もきちんと丁寧に描かれていて、
飽きることがありません。

40年を経て、へクターが使った銃は、
あの時、ドイツ軍将校から手渡された銃ですよね。
因縁というか、運命というか、これも奇跡の一つなのでしょう。
ラストシーンでは、泣かされました。
160分と結構長かったのですが、全然長く感じませんでした。
この長さは、実際必要な長さです。
これもオススメの感動作! 

2008年/アメリカ・イタリア/160分
監督:スパイク・リー
出演:デレク・ルーク、マイケル・イーリー、ラズ・アロンソ、オマー・ベンソン・ミラー


映画『セントアンナの奇跡』予告編