MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

荒木一郎と頭脳警察

2021-08-01 00:59:40 | 邦楽

 『まわり舞台の上で 荒木一郎』(荒木一郎著 文遊社 2016.10.15)には驚くべきことがたくさん書かれているのだが、例えば、荒木は『荒木一郎の世界』(1971年)というアルバムで「僕は君と一緒にロックランドにいるのだ (I'm with you in Rockland)」という歌を歌っている。この曲の歌詞はアレン・ギンズバーグ(Allen Ginsberg)が1956年に出版した詩集『吠える(Howl)』のPart IIIの部分の訳詞(諏訪優)にそのまま荒木が曲をつけたのである。
 こんなことをしているのは知る限りでは頭脳警察がデビューアルバム『頭脳警察1』(1972年)に収録されたヘルマン・ヘッセの「さようなら世界夫人よ(Leb Wohl, Frau Welt)」の訳詞(植村敏夫)に曲をつけているくらいだと思ったのであるが、本書には以下のように書かれているのである。

荒木 頭脳警察は、しょっちゅうこっちがMCAにいて、いろいろなことをやっているじゃないですか。たまたま、頭脳警察のディレクターか誰かが知り合いで、『頭脳警察やってもらえないか』っていう感じで話が来たんだよね。だから、ほんとのプロデューサーみたいに自分が発掘しに行くんじゃなくて、自分がレコード会社にいるから、ある種、便利使いっていう感じで、プロデュースをやったわけ。」(p.173)

「………ただ、なんかあんまり記憶がないんだよね。彼、PANTAはおとなしいんだよ。やってる歌はワーワー言うけど、実際にしゃべるとすごいおとなしい。だから、『こうやろうね、ああやろうね』って言ったら、そのままいっちゃう。『作ったの聴かせて、じゃあ、これ、こういうふうにやっていこうか』って、聴いた歌の中から、そうやって単純にアルバムを作りました。」(p.175)

 頭脳警察のライブでのPANTAの証言を合わせると、対照的な作風であるにも関わらず同じ感性を持ち合わせていた荒木とPANTAは偶然プロデューサーとミュージックシーンという立場で頭脳警察のデビューアルバムを制作したのである。

 それにしても頭脳警察はある意味不幸なバンドで、バンド構成はT・レックス(T. Rex)なのに、ヴォーカルのPANTAはドアーズ(The Doors)のジム・モリソン(Jim Morrison)と似たような気質を持っているために、オーソドックスなロックなのかグラムロックなのか当時の聴き手には分かりにくかったと思うのである。

僕は君と一緒にロックランドにいるのだ (1971)【荒木一郎】

頭脳警察 さようなら世界夫人よ アースデイ2019


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