MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『居酒屋兆治』

2015-11-05 00:38:47 | goo映画レビュー

原題:『居酒屋兆治』
監督:降旗康男
脚本:大野靖子
撮影:木村大作
出演:高倉健/加藤登紀子/大原麗子/田中邦衛/伊丹十三/ちあきなおみ/左とん平
1983年/日本

暴力が渦巻く「人情もの」の正体について

 当時のオールスターを配した本作は『あなたへ』(降旗康男監督 2012年)を彷彿とさせるが、決していわゆる「人情もの」とは言えない理由は、けっこう暴力シーンが多いところにあるのだが、その暴力シーンもしっかりした演出とは言えず、例えば、函館で居酒屋「兆治」を営む主人公の藤野英治は先輩の河原に酔った勢いで一発殴られて、警察沙汰になるのであるが、再び湾岸で河原にボコボコに殴られても大して怪我をすることもない。それでいながら妻をくも膜下出血で亡くした秋本の悪口を言いふらす河原を一発殴っただけで脾臓破裂させて警察に捕まるものの、6日間の拘留で出られてしまうところなど正確に欠ける演出が目立つのである。他にも英治の友人の岩下義治が井上を必要以上に殴ったりしているが、そのことに関して岩下が深く反省しているように見えない。
 英治が取調べを受けている際に、小関警部が何故さよと結婚しなかったのかと問いかけたことに対して英治は「2人とも貧しかった。貧乏にまいっていた。愛し合っている2人のうち、どっちか一人だけでも幸せになれるんだったらそれでいいじゃないかって。神谷さんの家は旧家ですから今考えれば、今の時代になってみればおかしいです。でもあの当時はただ安定した暮らしに憧れていました」と説明するのであるが、これはおかしな話で、英治はその後「北洋ドック」という巨大船を製造する大企業の総務部の課長までに出世しているのであり、「当時」という時期がいつを指すのか分からないが、英治の2人の娘はまだ幼く、そこまで出世する人が「貧しかった」とは思えないのである。
 そこで疑問が湧くのが、英治とさよの最後まで明瞭にならない関係と河原に喰らわせた英治のプロ並みの鋭いボディブローなのであり、だから本作は小関警部の「想像」通りに結核を患っていた神谷久太郎の遺産目当ての政略結婚とその挫折という「クライムサスペンス」として観るべきではないのだろうか。


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