MASQUERADE(マスカレード)

 こんな孤独なゲームをしている私たちは本当に幸せなの?

『それでも夜は明ける』

2014-03-09 22:35:13 | goo映画レビュー

原題:『12 Years a Slave』
監督:スティーヴ・マックイーン
脚本:ジョン・リドリー
撮影:ショーン・ボビット
出演:キウェテル・イジョフォー/マイケル・ファスベンダー/ベネディクト・カンバーバッチ
2013年/アメリカ・イギリス

黒人間に宿っていた「制度上」の差別について

 本作の冒頭はベッドで横になっている主人公のソロモン・ノーサップから始まる。当時、プラットと呼ばれていたソロモンの横で眠っているのはパッツィーである。彼女はソロモンを誘おうとして彼の手を取って自分の股間にあてがうのであるが、ソロモンにその気が無いことを知ると諦めて泣き出す。
 観客は最初、このシーンの意味を把握できないのであるが、その後1841年から始まるソロモンの奴隷としての人生が回顧される中で、ようやく観客はこのシーンの意味を理解できるようになる。ソロモンが騙されてニューヨーク州のサラトガから奴隷としてアメリカ南部ルイジアナ州のニューオーリンズへ船で運ばれ、下船しようとした際に、一緒に奴隷として運ばれてきた黒人が、迎えに来た主人に保護され、寸前のところで自由になったのであるが、その黒人はソロモンのことなど目もくれず去ってしまったのである。
 おそらくソロモンにはこの時の記憶が強烈に残っていたに違いない。黒人自身に状況を変える力などないのであり、だからソロモンは現状から抜け出すことだけを願い、パッツィーのような本物の黒人奴隷と仲良くするつもりはなかった。実際に、ソロモンは最後にパッツィーを抱きしめるだけで、迎えに来た警官と主人と共に帰ってしまう。ここで描かれていることは白人と黒人の人種差別以上に自由黒人と奴隷黒人との間の天地の差ほどあった境遇の違いである。本作が第86回アカデミー賞の作品賞を獲得できた理由として、白人と黒人の人種差別問題から自由黒人と奴隷黒人の「階級差別問題」、つまり倫理の問題ではなく制度の問題に巧妙にすり替えることで、アカデミーの白人審査員にそれほど抵抗感がなかったからだと思うのだが、それが監督の本意だったのかどうか、あるいは多少妥協してでも作品賞を獲得することで人種差別問題に大衆の目を向けてさせたいということなのかもしれないが、人種差別問題が階級差別問題に変わるとはイギリス人監督ならではであろう。
 奴隷のパッツィーとの間に子供まで儲けていたエドウィン・エップスは当初、妻のメアリー・エップスに強気でいたのであるが、やがてメアリーの方の立場が優位になる。エップスが営んでいた農園の綿花の収穫高によって夫婦の立場が変わるところが現代にも通じる不変なる事実として興味深い。


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能町みね子の斉藤由貴『卒業』論

2014-03-09 20:29:30 | 邦楽

斉藤由貴さん『卒業』の歌詞

 

 昨夜、フジテレビで放送されていた「久保みねヒャダこじらせナイト」における、

能町みね子の、「斉藤由貴の『卒業』」論は慧眼だと思う。斉藤由貴の「卒業」の

歌詞の主人公は相手の男子生徒の同級生ではなくて、女性教師という仮説である。

そうなるとサビの部分である「卒業式で泣かないと/冷たい人と言われそう/でも、もっと

悲しい瞬間に/涙はとっておきたいの」というフレーズの意味は、男子生徒が卒業した後に

再会した時の、最初から実るはずのない悲恋を予感させるものになるのであるが、

番組内では触れていなかったが、「セーラーの薄いスカーフで/止まった時間を結びたい」

というフレーズがどうしても女性教師という仮説の邪魔をすることは避けられない。


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