原題:『Bella addormentata』
監督:マルコ・ベロッキオ
脚本:マルコ・ベロッキオ/ ヴェロニカ・レイモ/ステファーノ・ルッリ
撮影:ダニエーレ・チプリ
出演:イザベル・ユペール/トニー・セルヴィッロ/アルバ・ロルヴァケル/マヤ・サンサ
2012年/イタリア・フランス
幸運にも「眠らない美女」について
物語のきっかけとなる「眠れる美女」のエルアーナ・エングラーロは実在した人物で、1992年1月18日、彼女が21歳の時に交通事故に遭って以来植物状態が続いており、彼女の両親が延命措置の停止を求めて係争中だった。そして2008年11月13日に最高裁判所で父親の訴えを認める判決が出たのである。しかし話はこれで終わらずに当時のイタリアの首相で延命措置の賛成派のシルヴィオ・ベルルスコーニと、裁判所の判断を支持する大統領のジョルジョ・ナポリターノを中心に政争のネタにまで発展してしまったのであるが、結局、エルアーナは2009年2月9日に亡くなってしまう。
ここからフィクションが加えられるのであるが、そのような「眠れる美女」はエルアーナだけではなかった。国会議員の一人であるウリアーノ・ベッファルディの妻もかつて植物状態であり、殺してほしいという妻本人の希望もあって延命装置を停止させた過去があった。それを快く思っていなかった娘のマリアは父親との間に確執を持ちデモに参加していた。
ロッサという女性は薬を盗もうとして看護婦たちに見つかり、手首を切ったところをたまたま居合わせた医師のパッリドが手当を担い、その「眠れる美女」に付き合うことになる。
ベテラン女優であるディヴィナ・マドレにもローザという植物状態の娘がいるのであるが、最後に現れるその「眠れる美女」が目を開けたまま眠っていることが印象的である。
3人の「眠れる美女」のそれぞれの物語の展開は実際に観てもらうとしても、私の関心は寧ろ眠っていないマリアに向かう。デモの現場で出会った男性に一目ぼれしたマリアは、携帯電話で連絡を取り、一夜を共にするのであるが、再び訪ねた滞在先のホテルに彼の姿はなく、何も告げることなく弟を連れて故郷に帰ってしまったのである。マリアは彼の不実を嘆くが、殺気立った弟とマリアを会わせてマリアを「眠れる美女」にすることを避けた彼の良心は理解されないままだからである。