原題:『The Broken Circle Breakdown』
監督:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン
脚本:フェリックス・ヴァン・フルーニンゲン
撮影:ルーベン・インペンス
出演:ヴェルル・バーテンス/ヨハン・ヘルデンベルグ/ヘールト・ヴァン・ランペルベルフ
2012年/ベルギー
アメリカのカントリーミュージックの限界について
主人公のディディエとエリーゼの1999年の出会いから2006年までの人生が描かれている。ディディエはカントリーミュージックが大好きで、仲間と結成したブルーグラス・バンドでバンジョーを弾き、ベルギー国内をキャラバンでまわっているのであるが、2001年の同時多発テロを発端としたジョージ・W・ブッシュ大統領の宣戦布告により、ディディエが理想として思い描いていたアメリカの姿はもはやテレビで映されることはなかった。
一人娘のメイベルの病死を境に、2人の関係はこじれていく。メイベルの治療を巡りディディエが求めた遺伝子治療は病院側の宗教上の教義により上手くいかないまま娘を死なせてしまったため、その怒りをディディエはコンサート中に爆発させ、観客に向かって宗教批判をするのみならず、メイベルの死後、家の「テランダ」のガラスの屋根に鷹の絵を貼ることでカラスがぶつかって死なないようにするエリーゼにさえ文句を言いだす。ディディエはメイベルが鳥に変容して戻ってくることを期待しているエリーゼの非科学的な迷信をくだらないとみなすのであるが、例え、迷信ではあってもそれを信じることで救われる人の存在を否定してしまった結果、エリーゼは自ら命を絶ってしまうのである。死の間際にエリーゼが歌っていたのはカントリーミュージックではなく、寧ろニューウェーブと呼ばれるような曲ではなかったのか? つまりカントリーミュージックでは捉えることが出来ない感情なのであり、それは戦争を仕掛けるアメリカの限界をも露呈するのである。ラストでメンバーたちと病室で、生命維持装置を外されるエリーゼに向けて別れの曲を奏でるディディエはその事実を理解しているのであろうか?