隣の街の郵便局の前あたりを歩いていた。
急にこんな声が聞こえた。
「なかなか時代が俺の考え方に追いついてこないからなあ」と。
見ると、発言の主は、二人連れの高校生の男の子だった。
まあ、高校生くらいの男の子なら、冗談半分にいうハッタリの一つだ。
ただ、僕の時代の高校生に比べると、こういうハッタリの冗談を言っても、何故かちょっと鼻についてしまうのが不思議だ。
ネットなどで昔よりも気軽にハッタリ的なことを言う人が多くなった時代を反映しているのかもしれない。
まあ、それはともかく、その高校生の「なかなか時代が俺の考え方に追いついてこなからなあ」という高校生の冗談交じりの言葉を聞いて、僕は、友達Mくんのことを思い出した。
2年くらい前に、京都でMくんにあったとき、Mくんは元気そうで、若そうに見えた。
それで、僕はMくんに「M、なかなか若々しい顔してるねえ」と言った。
するとMくんは僕に答えた。
「いやあ、ようやく年齢が顔に追いついてきたよ。オレ、若い頃から老け顔だったからなあ」と。
それを聞いて僕は思わず笑ってしまった。
確かに、Mくんはちょっと奥目の顔つきで、学生の頃、年齢の割に大人びているというか、まあ、有り体に言えば老け顔だった。
友達からそれをネタにからかわれることもあった。
Mくんは、友達からからかわれても、特に歯向かうということはなく、笑って受け流すタイプの子だった。
それで、結構、みんなから人気があった。
男で、人気がある人というのは大きく2つのタイプに分類されると思う。
①かっこよくて、優秀で、ぐいぐい周りを引っ張っていくようなタイプ。
②少々、友達から、からかわれても、受け流すことが出来て、少々の泥ならかぶることのできるタイプ。
まあ、①と②が混在したタイプの人もいるだろうけれど、、、
Mくんは②のタイプだった。
それで、結構みんなから人気があって、剣道部のキャプテンもしていた。
Mくんの下宿に遊びに行っている最中に、Mくんの下宿の電話が鳴った。
Mくんが電話に出て「いやあ、負けたよ、いきなり、出てこられたからなあ。面食らったよ」と言った。
「なんの話やったの?」と僕がMくんに聞くと「いやあ、昨日の剣道の試合のこと、欠席した部員が聞いてきたから、答えてたんだよ」と言った。
まあ、あっさりと、負けたよ、というものMくんらしかった。
Mくんが下宿に電話機を買うことになって、電話機の希望の色を記入する欄が申込書にあった。
そこにMくんは「クリーム」と書いた。
「クリームって何?」と僕が言うと。
「希望する電話機の色だよ。クリームがいいと思って」とMくんは言った。
それで、僕が、電話機のカタログを見るとクリームという色はカタログになかった。
ただ、アイボリーという色がカタログに記載されていて、それがクリーム色に見えた。
それで僕はMくんに「クリームやなくて、アイボリーちゃうか」と言ったらMくんはカタログのアイボリーのところに2秒位目を凝らして、申込書の希望の色を「クリーム」から「アイボリー」に書き換えた。
「いやあ、ようやく、年齢が顔に追いついてきたよ、オレ、若い頃から老け顔だったらなあ」というMくんの言葉を聞くと、若い頃のMくんのいろんな楽しい言葉が頭に蘇ってくる。
人間の冗談や面白さのセンスって、若いときも、年取ってからも、そんなに変わらないなと思う。
きっと、そういうセンスって、その人の人柄のコアな部分と密接に関係しているからだと思う。
それはともかく、いちにちいちにち、無事に過ごせますように、それを第一に願っていきたい。