
11月19日付『しんぶん赤旗』に、島村輝「相次ぐ「蟹工船」の外国語翻訳出版--世界的経済危機を映す鏡として」が掲載された。以下に転載しておく。
相次ぐ「蟹工船」の外国語翻訳出版
――世界的経済危機を映す鏡として――
苛酷な条件のもとで生命までもしぼりとられるような労働をつぶさに描いた小林多喜二の「蟹工船」が、再び大きく注目を浴びるようになったのは、二〇〇八年初頭からのことである。その後の、ブームともいえる「蟹工船」現象の背景には、資本主義の仕組みの行き詰まりと、「格差社会」の広がり、「貧困」の顕在化があった。これが日本ばかりの問題でないことはいうまでもない。そのため、日本の「蟹工船」現象は広く世界から注目を集め、各国語への翻訳・出版を含めたさまざまな反応が生まれてきた。
【ブームに先行 注目の伊語版】
最近、この作品の、これまで広く知られていなかった言語への翻訳のいくつかが、あらためて見出だされ、紹介されてきている。その一つが、一九八三年にキューバのウラカン社から出版されたリディア・ペドレイラ訳によるスペイン語版である(二〇〇八年一一月一五日付、本紙に紹介記事)。様々な事情からキューバ国外にはほとんど出なかったとはいえ、八〇年代という時期、スペイン語への初訳として大きな意義を持つ仕事である。
ブームに先駆けての翻訳出版ということでは、ファリエロ・サリスの手によるイタリア語版も注目に値する。このイタリア語版は、二〇〇六年に、ティレニア・スタンパタリ社から刊行されたもので、訳者による本格的な解説が付されている。表紙にデザインされた海軍旗は、一九五三年の映画『蟹工船』のラストシーンを思い起こさせる。これらは二〇〇八年以前に企画、刊行されたものであり、この小説が決して一時のブームの中だけで注目されたものではないことを明かしている。
韓国では、軍事政権下の一九八七年に李貴源による翻訳がチング出版社から刊行されて民主化闘争を大きく励ましたが、これとは別に昨年、梁喜辰による新訳がムンパラン出版社から出版された。帯広告には「なぜいま小林多喜二なのか!八八万ウォン世代、非正規職、両極化、ワーキングプア…、もしかしたら、この現実が蟹工船じゃないのか?三〇万人の日本人読者が再発見した話題の小説」と書かれている。
【中国でシンポ 仏で記念催し】
中国では今年一月、南京の訳林出版社から、葉渭渠による旧訳(一九七三年初版出版)が新たな体裁で再出版されたが、さらに七月には北京の人民文学出版社から、秦剛訳マンガ版『蟹工船』が、初の小説完訳(応傑・訳)を付して刊行され話題を呼んでいる。もう一つの中国語版として、台湾でも管仁健訳が、台北の文経社から「文経文庫二三四」として二〇〇八年に発刊されている。これらの韓国語版、中国語版いずれも、日本での「蟹工船現象」を取り上げ、自らの国や地域の問題と結び付けてその意義を論じた解説を付している点が共通している。
この一〇月には、フランスのヤゴ出版社から、エヴリン・オドリ訳によるフランス語版も刊行され、さっそく様々なメディアの書評に取り上げられている。今年五月にはこうした「蟹工船」翻訳者たちを一堂に会したシンポジウムが東京で開催されたが、その後七月には北京でマンガ版の出版を記念するシンポジウムが開かれ、さらに来年一月三〇日にはパリの日本文化会館でフランス語版の出版を記念する催しが予定されている。多喜二が「蟹工船」を発表して八〇年、こうしてますます世界から注目されていることが、なによりもこの作品の今日的な意義と、文学としての息長い生命力を示しているといえるだろう。
相次ぐ「蟹工船」の外国語翻訳出版
――世界的経済危機を映す鏡として――
苛酷な条件のもとで生命までもしぼりとられるような労働をつぶさに描いた小林多喜二の「蟹工船」が、再び大きく注目を浴びるようになったのは、二〇〇八年初頭からのことである。その後の、ブームともいえる「蟹工船」現象の背景には、資本主義の仕組みの行き詰まりと、「格差社会」の広がり、「貧困」の顕在化があった。これが日本ばかりの問題でないことはいうまでもない。そのため、日本の「蟹工船」現象は広く世界から注目を集め、各国語への翻訳・出版を含めたさまざまな反応が生まれてきた。
【ブームに先行 注目の伊語版】
最近、この作品の、これまで広く知られていなかった言語への翻訳のいくつかが、あらためて見出だされ、紹介されてきている。その一つが、一九八三年にキューバのウラカン社から出版されたリディア・ペドレイラ訳によるスペイン語版である(二〇〇八年一一月一五日付、本紙に紹介記事)。様々な事情からキューバ国外にはほとんど出なかったとはいえ、八〇年代という時期、スペイン語への初訳として大きな意義を持つ仕事である。
ブームに先駆けての翻訳出版ということでは、ファリエロ・サリスの手によるイタリア語版も注目に値する。このイタリア語版は、二〇〇六年に、ティレニア・スタンパタリ社から刊行されたもので、訳者による本格的な解説が付されている。表紙にデザインされた海軍旗は、一九五三年の映画『蟹工船』のラストシーンを思い起こさせる。これらは二〇〇八年以前に企画、刊行されたものであり、この小説が決して一時のブームの中だけで注目されたものではないことを明かしている。
韓国では、軍事政権下の一九八七年に李貴源による翻訳がチング出版社から刊行されて民主化闘争を大きく励ましたが、これとは別に昨年、梁喜辰による新訳がムンパラン出版社から出版された。帯広告には「なぜいま小林多喜二なのか!八八万ウォン世代、非正規職、両極化、ワーキングプア…、もしかしたら、この現実が蟹工船じゃないのか?三〇万人の日本人読者が再発見した話題の小説」と書かれている。
【中国でシンポ 仏で記念催し】
中国では今年一月、南京の訳林出版社から、葉渭渠による旧訳(一九七三年初版出版)が新たな体裁で再出版されたが、さらに七月には北京の人民文学出版社から、秦剛訳マンガ版『蟹工船』が、初の小説完訳(応傑・訳)を付して刊行され話題を呼んでいる。もう一つの中国語版として、台湾でも管仁健訳が、台北の文経社から「文経文庫二三四」として二〇〇八年に発刊されている。これらの韓国語版、中国語版いずれも、日本での「蟹工船現象」を取り上げ、自らの国や地域の問題と結び付けてその意義を論じた解説を付している点が共通している。
この一〇月には、フランスのヤゴ出版社から、エヴリン・オドリ訳によるフランス語版も刊行され、さっそく様々なメディアの書評に取り上げられている。今年五月にはこうした「蟹工船」翻訳者たちを一堂に会したシンポジウムが東京で開催されたが、その後七月には北京でマンガ版の出版を記念するシンポジウムが開かれ、さらに来年一月三〇日にはパリの日本文化会館でフランス語版の出版を記念する催しが予定されている。多喜二が「蟹工船」を発表して八〇年、こうしてますます世界から注目されていることが、なによりもこの作品の今日的な意義と、文学としての息長い生命力を示しているといえるだろう。
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