上の写真は、万松院の構内にある「諌鼓」(かんこ)というものです。今回の対馬旅行で私が最も興味を引かれた史跡の一つです。「諌鼓苔深く鳥驚かぬ(かんここけふかくとりおどろかぬ)」ということわざがありますが、その諌鼓です。ことわざの意味は「君主が善政を施すので、諫鼓を用いる必要もなく、諫鼓に苔が生えてしまったから鳥がその音に驚くこともないということで、世の中がよく治まっていることの喩えだそうです。明治まで対馬を統治した宗氏が、領民に(必要であれば)政治を批判させるために設置したのだそうです。
写真の諌鼓をよくみますと表面に白い皮のようなものが着いています。おそらく地衣類ではないかと思いました。地衣類は苔とはまた別の種ですが、まあ苔みたいなものですから、つまり当地の領民は、この諌鼓を打つことはなかったのかもしれません。とすると宗氏の統治は善政だったということになります。本当にそうだったのでしょうか。宗氏は鎌倉時代の初期から明治まで800年近く、この対馬を統治した領主で、領民から背かれれば、そんな長くは続かなかっただろうと思えば、やはり善政を布いたのかもしれません。しかし逆に言えば、そんなに長い統治の間には、いろいろな性格の当主も出てくるでしょう(人間ですから)。悪政を布くような人物が出てきても不思議はない訳で、それでも続いたということは驚くべきことなのかもしれません。対馬と宗氏の歴史に興味を覚えましたので、関連する史書も読んでみようと思います。