お盆は過ぎたが,この時期になると故人のことを思い出すことが多い。
小学校(国民学校)1・2年生の時の担任はA・K先生だった。女子師範学校を卒業して,最初に受け持たれたのがわたしたちだった。とてもきれいなやさしい先生で,わたしは大好きだった。
夏のある日,先生はクラスを川遊びに連れ出した。わたしは,2,3人の仲間と,ちょっと離れたところで遊んでいて,誰にもいわずに勝手に先に帰ってしまった。
やがて,ほかのみんなも教室にもとったが,教壇に現れたのはA・K先生ではなく,M先生で,A・K先生は具合が悪いので,今日はわたしが教えるといわれ,授業を始めた。授業後M先生は,川から先に帰った生徒たちを職員室に連れて行き,A・K先生の前に立たせた。先生は涙声で,「あなた方はいい子たちなのに,どうしてあんなことを」と叱責された。
その時,わたしには自分が何故叱られるのかが理解できなかった。家族にもそのことを話さなかった。何年かしてそのことをふと思い出した時,川遊びに連れて行った生徒が帰る時に見当たらなかったことに,どれだけ先生が心を痛められたのかが理解できた。
わたしが幹事をして開いた小学校の同級会で,A・K先生に久しぶりにお会いした。そして,丁重なお礼状を頂戴し,それを機に先生とは折節の手紙を交わすようになった。しかし,お会いした時も,手紙でも,あの川遊びのことをお詫びするのを失念していた。
2001年,パラグアイに赴任する時に,先生から激励のお手紙をいただいた。それが絶筆だった。お送りした帰国の挨拶状に,ご家族から先生の訃報が伝えられた。わたしからの書状を束ねて,大切にされていたことが記されていた。
帰郷した折に,先生のご実家を訪ね,ご霊前にお焼香させていただいた。その時初めて,川遊びでご心配をかけたことをお詫びした。
梓川。上高地にて,2007年撮影