羽花山人日記

徒然なるままに

アラバマ物語(映画)

2021-08-31 17:11:00 | 日記

休筆中,病床のつれづれに,『アラバマ物語』(原題:To Kill a Mockingbird )をビデオで見た。1962年に公開された,黒白のハリウッド映画である。原作は1960年に出版されたハーパー・リーによる同名の小説で,日本では菊池重三郎訳で,暮しの手帖社から1999年に出版されている。映画では,原作の登場人物やエピソードのいくつかが省略されているが,筋書きはほぼ忠実になぞられている。

黒人差別が色濃く残る,1930年代の南部アラバマ州の架空の田舎町,メイカムを舞台とし,妻を亡くした篤実な弁護士アティカス・フィンチと,その息子ジェム(10歳),娘スカウト(6歳)の一家を中心とする物語である。

アティカスは,白人の女性をレイプしたとして逮捕・起訴された黒人の青年の弁護を依頼される。子供たちは学校で「黒ンボびいき」とからかわれるが,父親が正しいことを行っていることを理解し,裁判のために護送された被告をリンチしようと留置所に押し寄せる町民から,一家は身をもって守る。公判でアティカスは黒人青年にかけられた濡れ衣を明らかにしていくが,白人だけからなる陪審員は,有罪の評決を下す。子供たちはこの事件を通じて正義を貫くことの難しさを学ぶ。

拘留中の黒人をリンチしようと押し寄せた白人グループに,身を挺して抗するフィンチ一家(映画画面から撮影)

この映画は1962年アカデミー賞の全部門にノミネートされ,アティカスを演じたグレゴリー・ペックは主演男優賞を獲得している。また,2003年にアメリカ映画協会が催した,アメリカ映画100年のヒーローベスト100のファン投票では,スーパーマン,ジェームズ・ボンドなど居並ぶ大物をおさえて,アティカスがベスト1に選ばれている。原作の小説は,多くの学校で教材として採用されている。

ところが,原作者のハーパー・リーは2015年に,”Go Set a Watchman”(『さあ,見張りを立てよ上岡伸雄訳 早川書房)という,『アラバマ物語』の続編を出版した。時代は移って,1950年代の公民権運動が盛んな郷里に,20年ぶりにニューヨークから帰ってきたスカウトは,ふとしたことから,父親のアティカスが白人優位主義者の団体のメンバーであることを知る。尊敬してきた父親が黒人を公平に扱うのは,法律に従っているだけであって,実は差別主義者だったことを知り,ものすごい葛藤に駆られる。

この小説は,国民的英雄のアティカスを貶めるものだとする非難の声が上がり,毀誉褒貶の議論が持ち上がった。わたしは,この小説は素晴らしいと考える。アティカスは,黒人に差別意識を持っていることを自覚し,その上に立って,いかにして黒人と白人の融和が実現できるかを考えようとしている。

差別問題はきれいな理屈だけでは解決しない。自分の中にある「内なる差別」を見つめるところから出発しなければならないだろう。

コメント (3)
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