夏井いつきさん
俳人の夏井いつきさんが出演したテレビ番組を、先週木・金と続けて観た。
木曜日の夜はTBSから放映されている『プレバト』。このタイトルはプレッシャー・バトルの略だそうだ。
タレントが俳句や絵画の腕を競う番組で、夏井いつきさんは俳句の師匠兼審査員で出演されている。歯切れのいい講評と添削で、観ていて気持ちがいい。
今回は、夏井さんが全国から選りすぐった小中学生と、ブレバトで高い評価を得ているタレントが一対一で相まみえ、高名な3人の俳人の先生が優劣を判定するという趣向だった。
結果は3勝1敗1引き分けで小中学生チームが勝利を収めた。お題は「卵」。これが子供の作かと、ひたすら驚いた。
小3 かいと君:立秋の卵水平線の色
小5 すばる君:なぜ僕は食べられないの星祭
中1 さなさん:曽祖父の出征朱夏の卵焼き
中3 かりんさん:休暇果つ焼き豚卵飯甘し
(焼き豚卵飯はかりんさんの出身地、愛媛県今治市の名物だそうだ。もう一人小学1年生の俳人がいたが詠んだ句をメモしそこなった。)
それぞれの句に、背景や詠んだ意図などの説明があったが、ここで記すのは蛇足になるような気がする。
金曜日の夜は、NHKEテレから放映された『よみ旅』。『長野で俳句旅』の副題がついていた。
長野の2文字に誘われて初めて観たが、この番組は夏井なつきさんが起業家のROLANDOさんと一緒に全国各地を訪ね、土地の方々と俳句で交流し、人生を考えるという趣旨らしい。
今回は長野県の前半で、北信の戸隠が訪問先だった。
戸隠そばの手打ち体験と試食を楽しまれた後、お二人は俳句教室へ。5人の方が作句を披露された。
中島千恵子様:億ションを買うて帰らぬ青胡桃
ご子息が東京の大学を出て就職し、マンションを購入した。もう実家には帰ってこないだろう。庭には胡桃の木が立っている。(胡桃は北信、東信の名産である。)わたしは億ションなど手が出なかったが、実家に一人残っていた母のことを思い出した。
風間陽介様:風薫るがあたく娘詠(ウタ)う詩(ウタ)
「があたく」は北信の方言だろう。お転婆とかおしゃべりとかのことを言う。風間さんのお嬢さんは一日中しゃべり通しで、その言葉を拾って俳句を作るという。職業は父親の後を継いで植木屋。仕事一筋で親子の会話は庭師にかかわることだけだったが、父親が脳梗塞で倒れて孫が生まれ、ようやく普通の会話ができるようになったという。
佐藤時代様:おこびれを白寿と囲む五月晴れ
「おこびれ」はわたしの生まれ育った地方では「おこびる」という。おやつのことで、農作業の合間の小腹が空いたころに出される。わたしはおこびるのおむすびが楽しみで野良仕事を手伝った。佐藤さんのお舅さんは今年の5月に99歳の誕生日を迎えたが、矍鑠として畑仕事をなさっているそうだ。
山内和義様:向日葵や友は社長となりており
奥さんのことを詠んだ句。不動産会社の『ひまわり通信』というチラシに載っていた社長の似顔絵を見てそれが友達と気づき、訪ねて行って今はその会社で働いているという。山内さんにはそれが2本の向日葵に見えるという。
平林信子様:新緑や飛行機雲が北に伸ぶ
平林さんのお住まいは、畑仕事の背後に常念岳が見えたので、多分安曇野ではないかと思う。松本空港から飛び立った飛行機が、多分、自分も行きたいと思っている北海道に向かっているのではないかと空に残る飛行機雲に思いを寄せたという。平林さんは中年になってから夫の実家に入り、お舅さんから農作業を厳しくしつけられ、家を出ようかとまで考えたが、夫も一緒に出るといわれ、舅を悲しませたくないと覚悟を決めて尽くしてきた。舅が晩年になって自分を高く評価していることを知り、今では仏壇に線香を供えるたびに義父の姿を思い浮かべるという。
先に紹介した小中学生の俳句の巧みさには感心するが、『よみ旅』で紹介された句と人生談には深い味わいがあり、心打たれた。
次回9月6日放映の後半は中信地区を訪ねるらしい。楽しみにしている。
STOP WAR!