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「ほんとうのおれ」が起動する時

2018年06月27日 | 読書
 ライターがインタビューをしてまとめた形、それも話し手が語っているような文体なので、いわゆる「聞き書き」と言ってもいいだろう。失われつつある伝統的文化等の分野で見られる手法だ。そう考えると「糸井重里」自体がそうなのか…それは大袈裟か、いや常に新しい文化を産み出してきた象徴としては当然か。


2018読了64
 『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(ほぼ日文庫)



 コピーライターの頃からは、ある程度知っている出来事も多い。けれど幼少期から学生時代にかけてのエピソードは興味深かった。父親の存在の大きさは言うまでもない。高校卒業時に言い出した「100万円か大学か」を決めさせる話は象徴的だ。自立心を育てる親の責任として、これほど明快な提示はめったにない。


 糸井を尊敬する一人として挙げるようになったのは「ほぼ日」を知った頃からなので、もう20年近いかもしれない。著書も多く読み繰り返し出てくるキーワードは知っている。しかし常に更新されて、言い換えされていくようだ。この本での一つは「いい正直」。そこにはきっと自他を幸福にする方向性が示されている。


 同期会翌日に読みだしたこともあり、妙に心に残る一節があった。糸井は、友達を「最高のおもちゃ」と言う。そして「おもちゃということは、お互いに使い捨てを前提とした関係でもある」と突き放した言い方もする。これは、ある意味で、彼が本当に友達や周囲に恵まれた証拠ではないか。単純な割切りではない。


 人はいろいろな「場」に行くときに「切符」を手にして出かける。その場での過ごし方は人様々であろう。そして切符を使った後に「誰も見ていない場所でひとり考える自分が『ほんとうのおれ』」と言う。そのひとりの時間の経験が大事で、切符を持った自分が心を開けるかどうかの鍵となる。この喩えは沁みてくる。

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