すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

妄想鑑賞文…その弐

2018年03月19日 | 読書
 『石の器』という書名は、この句からとっていると思われる。「石の器あるから腹を満たそうか」…これは解釈が難しい。「石の器」が何を表わすのか。感じられるのは、重さ、冷たさ、固さといったものだ。「腹を満た」すことと重ねて、否定的にとらえていいものか、はたまた頑丈さに目をつければ、楽観的とも取れる。



2018読了28
 『石の器』(田口恭雄  編集工房円)



 足裏を齧る風雪注意報

 昨日から降り続く雪。強い寒気が入り込み、明日はもっと風が強まると天気予報が告げている。素足のまま用足しに向かうと、あまりにもひんやりとした床にびっくりし、思わず早足になった。毎年、人間の無防備さに呆れている。窓の隙間からは、吹きすさぶ風の音。白一色に覆われてこの村全体が息を潜めている。


 峠から降りて狸のいる酒場

 バスは曲がりくねった峠道を降りる。溜まった疲れと週末のほっとした安堵感が混じる夕刻である。何をあくせく急いでいるのかと、野に棲む生き物たちはこの乗り物に目を送っているだろう。その嘲りは自分の心の中にも時々顔を出す。バスから降りたら、馴染みの居酒屋へ向かい、人間様相手に心の重みを解くか。


 ちびた鉛筆母がこの世に生きたころ

 文机の筆立ての底にへばりつくように、短い鉛筆が一本あった。深緑色したこの鉛筆を、昔よく母が使っていたことを思い出す。あまり筆まめではなかったが、買い物のメモや連絡帳の返事などパッパッと書く姿が目に浮かんだ。埃がつき、尻も真っ黒。でも、捨てられないなあ。白い紙に包みそっと机の中へ仕舞う。

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