すぷりんぐぶろぐ

桜と絵本と豆乳と

異邦者の目に映った姿に

2017年05月26日 | 読書
 「私はなぜここにいますか。」と、たどたどしい文字で書き出されたその文章の一節を、二十数年経った今でも覚えている。当町に赴任した英語指導助手のDさんが直筆で書いたものだ。その問いを繰り返しながらこの町に自分の存在意義を見出している姿勢が新鮮だったし、外国人が発想する切り口を見た思いがした。


2017読了57
 『「ニッポン社会」入門 英国人記者の抱腹レポート』(コリン・ジョイス 谷岡健彦・訳  NHK出版)

 10年くらい前の新書だが面白く読めたし、刺激を受けた。著者のジョイス氏は発刊後にニューヨークに居を移し、フリーになったようであるが、現在もネットの「ニューズウィーク日本版」でコラムを書いている。当時、14年間の日本生活のキャリアを持った英紙記者として、日本人の生活や思考を鋭く描いている。


 基礎編「プールに日本社会を見た」は納得の取り上げ方であった。ユーモアたっぷり、また日本への愛も感じられ肯くことが多かった。「完璧なジェントルマン」と著者が称賛したのは近所の自転車店の主人。折れた部品を手に途方に暮れる彼に対して「ケガ、なかったか」とかけた一言と無償の行為が晴れがましかった。



 読み進めると、やはり欧米圏と私たち日本人の発想の仕方の違いを痛感する。概観すると、欧米は徹底して「個」が優先し、全体や周囲に気配りしながらも、最終的に個の目で語る。私たちはどうか。個性重視としながらも、結局のところ、個の考えや思いが全体の中でどう位置づけられるかという括りの中で展開する。


 そこに優劣や正邪はない。独自の風土、歴史を抜きに語れないからである。この国に生まれたことを有難いと考えてはいる。しかしだからと言って、紛争の絶えない国に生まれ、育った経験を持つ人が語る言葉を簡単に想像できるわけではない。こういう書は、異邦者の目に映った姿に何を気づくか思索を促してくれる。