Gospelと黒人流行音楽

2006年02月20日 | Gospel
信心深い黒人の家庭では子供の頃から教会に通わせ、Gospel Choirに参加して基礎的な発声等を学ぶ。'70年~'80年あたりだと貧しくてろくに教育費などない彼らは、スポーツや音楽によってアメリカンドリームを実現することを夢見る。中には違法ドラッグの売人などをやって身を滅ぼしたBrotherも多いことだろうが…
スポーツだと最近ではNBAが一番年俸が高いが、当時はボクシングが圧倒的に巨額なギャラを生み出した。まあその大金を手にするのは世界チャンピオンかタイトルに挑戦できる世界ランカー等ほんの一部の人間である。
彼らはアメリカン4大スポーツのうちNHLを除いたMLB、NFL、NBAを目標にする輩が多い。これも一握りの優秀なアスリートのみが与えられる狭き門であるが...
余談であるが、彼らの年俸が高いのは代理人制度が認められているからである。代理人(Agent)が契約を成立させるとその年俸からパーセンテージで配当を受ける訳だから、必死に金額をつり上げようとするのは当然の事であろう。リーグ側は年俸の高騰を阻止しようとサラリーキャップを設けたり、それを超えた時のペナルティーを定めたりと努力はしているのだが、一度上がった年俸を抑えるのは難しいであろう。

音楽についてもチャンピオンクラスといえる存在でなければ大金は望めない。Ray Charles、Sam Cooke、Sammy Davis jr.、Nat King Kole等のスーパースターになることを夢見て日々努力するわけだ。黒人シンガーにはGospel出身者が非常に多い。ちなみにSam CookeはGospel出身者の中でも一番成功した人だ。元々Soul StirrersというGospelの名門グループにいたが、当時かすごい人気だったようた。その後ポップス界に転向、成功を納めるが'64年に射殺されてしまう。自分のレーベル、Sarレコードを設立してプロデューサーとしても活躍し始めてまもなくであったから、本当に残念である。しかし私が物心つく前の事であるから、彼を知ったのは死後17年経ってからであるが...
このSoul StirrersにはSam Cookeが独立後、Johnnie Taylorが参加している。Samの死、彼を追うように独立、Memphisの名門Staxレコードから'68年に"Who's Making Love"をR&B#1に、Columbia移籍後'76年には"Disco Lady"をPop/R&B共に#1になる大ヒットを出している。この曲は私にとってリアルタイムであり、SOUL FREAKのカウントダウンで毎週聞いた。その後Beverly Glenで二枚程良いアルバム(このあたりが一番好きだな)をL.A.で制作、晩年は南部に戻り、MALACOレコードで活躍した。残念ながらJohnnieは2000年5月に心臓発作で亡くなっている。

Staxと言えば元々GospelグループだったStaple Singersがいた。親父さんのPops Staplesが娘3人と'51年に結成、'68年にStaxレコード移籍を契機にPopsに転向する。サンプリングネタとして有名な"I'll Take You There"は全米/R&Bチャートで#1になる大ヒット、"If You're Ready"、"Let's Do It Again"はR&B #1、代表曲”Respect Yourself”はR&B #2のヒット、その他多数のヒット曲をチャートに送り込んだ。Popsに転向したとはいえ普通のラブソングなどは歌わず、スピリチャルなメッセージソングを歌って、公民権運動時African-Americanの意識改革に貢献した。リードシンガーだったMavisは独立後ソロアルバムを制作する傍ら、色々なセッションに参加している。若いアーティスト達には生きる伝説のような存在であるようだ。Princeのプロデュースでもアルバムを発表している。親父さんのPopsは'92年にソロアルバムを出して元気なところを見せていたが、2000年12月に85歳で亡くなっている。

Organの名手と知られるBilly Prestonはデビュー当初はインストアルバムばかり発表していたが、The Beatlesのアルバムに参加するようになって、Appleレーベルからアルバムを発表し歌うようになった。10代の頃からLittle Richard、SamCooke、Ray Charles等の大物アーティストのバックで活躍していた。
やはり子供の頃Gospelを経験、The Cogicsという10代の少年少女で構成されたGospelグループに参加していた。このグループは凄いぞ!なんと後のGospel界の大御所となるAndrae CrouchやMotownで活躍したBlinky、Honey ConeのEdna Wrightも参加していた。言うまでも無いことだろう。
ヒット曲も多数あり、"Outta Space"や"Space Race”のインスト曲はSoul#1に輝く。これらの曲で聞けるClavinetにWowをかける手法は彼が元祖であろう。めちゃめちゃFunkyでかっちょいいのだ!The Commodoresの"Machine Gun"はこれらの曲に触発されて作った曲であろう。なぜか"Will It Go Round In Circles"と"Nothing From Nothing"のVocal曲はPop#1になっているのにSoulチャートでは10位程度なのである。白人との交流が多かったせいだろうか、’75年にはRolling Stonesのヨーロッパツアーにも同行、前座も務め、"Live In Europe"というLIVEアルバムも残している。その中で『みんな、Ray Charlesは好きか?』と聞いて"Let's Go Get Stoned"を歌いだす。よっぽどRay Charlesが好きなんだろうな、今から30年前の事である。
その後80's前後には元Stevieの奥さんのSyreetaとのデュエットで成功、最近でも米英あらゆるところにセッションでよばれている。The Beatlesの中でも昨年亡くなったGeorge Harrisonとの交流は有名である。

Soul~Gospelと言えばAl Greenを無視しては語れないだろう。MemphisのHiレコードのドル箱であった彼であるので、ヒット曲を並べるとキリがないので割愛します。ただこのブログには既にGCSの巻で登場している。彼の最大のヒット、"Let's Stay Together"収録の同名アルバムにGCSがカバーした"It Ain't No Fun To Me"が入っている。"Love And Happiness"は"I'm Still In Love With You"に収録。私はLIVEでLet's Stay…とLove&...をよく歌わせて頂いてます。彼は元々Gospel出身であるが、男女関係のトラブルが原因で、またGospel界に戻っている。牧師になって自分の教会を持っているらしい。しばらくはGospelしか歌わなかったみたいだが、90年台に入ってまたPops界に戻ってきた。最近の2作は懐かしのHi Soundを再現したコンセプトになっていて、こりゃあ古いSoulファンにはありがたいプレゼントだ。最近では70'sに活躍したアーティストを集めたイベントが結構行われていて、Alはよく参加している。Montruex Jazz Fes.なんかにも出演していたな。LIVEはスタジオ盤と違って非常に熱いステージであるが、私のFavoriteシンガーの一人だ。彼の発声が素晴らしい事もここに付け加えておこう。

もう一人あげておこう。80年代にデビューしたGrenn Jones、彼はそれ以前にGospelグループModurationsに参加していた。名門Gospelレーベル、Savoyから二枚のアルバムを残している。その後JazzドラマーだったNorman Connersに見いだされ、彼のアルバムに参加、そしてソロデビューする事になる。日本のSoul系評論家では大御所の鈴木啓示氏が絶賛していたシンガーで、"I Am Somebody"のヒットで有名。この曲はWattstaxでのJessie Jackson師の演説から引用したものであろう。私は"We've Only Just Begun"というバラード(Carpentersの曲とは同名異曲)が大好きだな。とにかくハイトーンの伸びが素晴らしい!鈴木氏はこういうタイプのGospel出身系が大好きみたいです。もちろん私も大好き!90年代に入るとあまりぱっと売れなくなってしまい、最近はインディーズから新作を出していたようだ。80'sはこういう本物がたくさんいたのに...

最近ではグラミーのGospel部門まであるほど商業的になったGospel、下手にPopsに転向するよりも神に仕えていたほうがよっぽど安定しているのであろう。最近のR&Bは曲(メロディー)がつまらないものが多すぎる。歌える人が多いのに本当に惜しい。もちろん中にはAliciaやJossなどの伝統を受け継いだ音で勝負しているシンガーもいるが、正直最近のContemporary Gospelを聞いていたほうが遙かにFUNKでSoulfulだ。John P. KeeというGospelシンガーのシャウトは本当に凄い。Marvin Sapp(Bob Sappとは全く血縁関係はないだろう)もかなりよろしい。このあたりの音は毎年出ているWOW GOSPELシリーズで聞ける。興味を持った人は是非聞いてみて下さい、はずれはほとんど無いよ!