またまた、自衛隊関連の記事です。
今年の6月に自衛隊の次期主力戦車となる10式戦車が報道陣に公開されました。少し前の話なのでご存知の方も多いかとは思います。
前回の記事でご紹介した74式戦車は、制式採用から36年が過ぎた所謂、“戦後第2世代”と呼ばれるカテゴリに入る戦車です。
この後継車として開発されたのが90式戦車ですが、この戦車、世界トップレヴェルの性能を有してはいるものの、調達費が高すぎる事(初年度調達費用が一輌11億円。生産台数が増えた結果、現在は8億円)と、何より、日本のインフラに合わないオーバーサイズ(特に50tにも及ぶ車体重量)である事から、北海道と富士教導団にしか配備されませんでした。
その結果、74式戦車が36年間に渡って数の上では自衛隊の主力戦車として使われてきたのです。
ところが、この36年間に世界各国の戦車は、滑腔砲をはじめ、複合装甲、モジュラー装甲、走行間射撃システム、C4I連接(ネットワーク化)による情報共有・指揮統制能力、等々長足の進歩を遂げ、74式戦車ではもはやこれらの新型戦車に対抗できなくなってしまいました。
そこで、74式戦車の後継車として防衛省技術研究本部の手によって開発が進められていたのがTK-Xでした。
まずは、防衛省が公開したTK-Xの動画をご覧下さい。
外国の方が編集した画像なのでBGMがしっかり“和風”なのは御愛嬌と言う事で。。。
今年、このTK-Xが制式採用となり、制式に10式戦車と呼ばれるようになりました。
10式戦車の性能諸元ですが、全長9.42m、全幅3.24m、全高2.3m、全備重量44tと、90式戦車よりも一回り小型化しています。
これは、オーバーサイズで失敗した90式戦車の反省を生かしたものだと言えるでしょう。
車体サイズが小型化したにも拘らず、10式戦車の戦闘能力は90式戦車とほぼ同じか、それを凌駕すると言われています。
まず、備砲は90式戦車と同じ120㎜滑腔砲を搭載しています。相違点は、90式戦車の120㎜滑腔砲がドイツのラインメタル社製のライセンス生産品であるのに対して、10式戦車のそれは日本鋼管が製造した純国産であるということです。
次に防御力ですが、車体、砲塔前面においては90式戦車と同等、側面に至っては90式戦車以上の防御力を持つと言われています。
特に注目すべきは、10式戦車にモジュラー装甲が採用されたことです。
モジュラー装甲とは、戦車の装甲を幾つかのモジュール(面=区画)に分け、その部分だけを着脱する事が出来るようにした最新の装甲技術です。
従来の戦車ならば、損傷が生じた場合には戦車自体を後方に下げ、大掛かりな修理を施す必要があったのですが、10式戦車では損害が生じた部位の装甲板だけを交換できるので修理が簡単に済みます。しかも、装甲を強化したい部位(例えば側面)等に追加装甲を簡単に施す事も出来るのです。
このモジュラー装甲の採用によって10式戦車の防御力は90式戦車よりも強力であると言われています。
機動性では、10式戦車には新開発のV型8気筒4サイクル水冷ディーゼルエンジンが搭載されています。このエンジンは1200馬力を発生し、10式戦車を路上最高速度70㎞/hで走らせることが出来ます。エンジン出力的には90式戦車に比べるとやや落ちていますが、車体重量が軽くなった分、パワーウェイトレシオは下がり、90式は勿論、ドイツのレオパルドⅡA4やフランスのルクレールと同等、アメリカのM1A2、ドイツのレオパルドⅡA6よりも上という、世界的に見ても高い機動力を持っています。
この辺りは、自動車工業王国日本の面目躍如と言う所ですね。
トランスミッションにはハイドロメカニカル式無断変速機が採用されています。
これは、解り易く言えば乗用車のCVTと同じようなもので、コンピュータ制御によりあらゆる回転域においても最適なギア比が得られるようになっており、エンジンからの伝達効率を大幅に向上させています。
サスペンションは、74式戦車以来、自衛隊の戦車の伝統になっている全輪油圧サスペンションになっており、74式戦車のような油圧による姿勢制御が可能となっています。また、10式戦車には更に一歩進んだアクティブサスペンションの技術が採用されています。
アクティブサスペンションは車体に取り付けられたセンサーによって車体の振動や傾きを感知し、そのデータを元に油圧制御によって能動的に車体の振動を打ち消すという物で、特に不整地での機動性を飛躍的に向上させる効果があります。そのため、10式戦車の不整地における機動力は、パワーウェイトレシオの向上と相まって90式戦車を凌駕していると言われています。
10式戦車ではこれだけではなく主砲射撃時の反動もこのアクティブサスペンションによって吸収することによって正確な射撃を可能としています。
そして、10式戦車が90式戦車に比べて飛躍的に進歩したと言われているのが高度なC4I連接(ネットワーク化)による情報共有・指揮統制能力を有している事です。このC4I連接はイラク戦争の際にアメリカ軍が初めて使用したもので、イラク軍のT-72戦車との戦車戦においてM1A2が圧勝した勝因の一つと言われているシステムです。
これを用いる事によって自車の位置や敵味方の位置をGPSと野外コンピュータネットワークによって把握し、その情報を自軍戦車間で共有する事によって高度な連携作戦を行う事を可能にすることが出来ます。
敵味方情報は車内モニターのデジタルマップにリアルタイムで表示され、車長は瞬時にして自車の作戦地域の状況を把握する事が出来るようになっています。
また、車長用のサイトは自車を中心とした360度が見渡せるタイプとなり、その画像は車内ディスプレイに表示されるようになっています。
砲手用サイトもタッチパネル式大型ディスプレイとなり、射撃ボタンだけでなく画面をタッチし直接ターゲットに攻撃指示を出す事が出来るそうです。
操縦手は車体前面と後部に取り付けられたCCDカメラの映像をモニターで見ながら操縦が可能で、“死角が多いことが戦車の最大の欠点”と言われていたのは過去の話になりそうです。
さらに、自車が敵から照準されている事を感知するために、砲塔の四隅にはレーザー検知装置が装備されています。
このように10式戦車は、現段階で世界のトップクラスの性能を持った戦車ですが、その調達費は、初年度調達費で一輌が9.5億円。これは、90式戦車の初年度調達費の11億円と比べてもかなり抑えられた価格と言えます。さらに、この金額は調達が開始され、生産が軌道に乗れば7億円まで下がると言われています。7億円と言えば74式戦車一輌の調達価格が6億円と言われていたので、最新鋭戦車の価格としては破格の安さと言えるでしょう。
これは、10式戦車の部品に出来る限り民生品を使用するすることによって生産コストを下げるといった努力がなされたことによって実現したのだそうです。
何はともあれ、一輌7億円もする10式戦車を400輌位は調達するわけですからやはり防衛費は高くつきます。
北朝鮮や中国など、周辺諸国の動きが危なくなってきている昨今、こうした出費は仕方がないものなのでしょうが、少なくともこうした兵器が実戦で使用される事が無いように、外交の方も頑張って貰いたいものです。
コメント
- 宮ちゃんNO1 [2010年10月14日 20:34]
- こんばんは 宮ちゃんで~す。
やはり軍事用車両も、日本の技術はずば抜けているんですね~
あまりに知らない世界なので・・・
どうコメントして良いのか(笑)
でも、車両価格の桁が違いすぎますね~(爆) - まめ八 [2010年10月14日 22:51]
- 宮ちゃん、こんばんわ。
連コメ、有難うございます
マニアックな記事が続いてゴメンなさい。m(._.)m
ただもう一回、マニアックな記事を予定していますので許して下さいね。!(^O^)
ところで当ブログにおいて戦車関係の記事が続いていますが、記事を書いている私自身、余りにもマニアックな内容なのでコメントどころか閲覧自体、余り期待しておりません。
ただ、日本人が余り意識する事の無い(それ自体はとてもいい事だと思います)国防の問題について出来るだけたくさんの方に知って頂きたくて投稿しておりますので、余りにマニアックな内容でコメントの付け様が無い場合には、どうぞ余りお気になされずにスルーして下さい。!(^O^)
でも、宮ちゃんのこうしたマニアックな記事にすらコメントを入れて頂くお気持ちはとても嬉しく思いますし、心から感謝申し上げたいと思います。m(._.)m - EP82-SW20 [2010年10月14日 23:46]
- こんばんは。
74式が登場した際、ジャイロ砲塔には驚かされました。
話は飛びますが、パンツァー・フロントをやると、走行振動で照準画面は激しく振動して精密射撃は不可能。
当然、被弾した衝撃でも照準はずれてしまいますし、発砲直後は後方にのけぞる演出がされます。
戦時中の戦車の照準性能はこんなものだったわけですから、74式以降の照準性能は画期的だったでしょうね。
この映像を見て当時の感動を思い出しましたw - まめ八 [2010年10月15日 23:28]
- EP82-SW20さん、こんばんわ。
いつもコメントを頂き、有難うございます。
ジャイロを使った戦車は第二次大戦中のM4シャーマンから使われていたみたいですよ。もちろん74式戦車のそれとは比較にならない物だったでしょうか。。。!(^O^)
74式戦車は基本的に走行間射撃は出来ません。
これは現代の戦車としては最大の欠点です。74式戦車の戦闘力は、アメリカの装輪装甲車のストライカーとほぼ互角とまで言われています。(T△T)
10式戦車の動画を見ていただいてお解りかと思いますが、走行時の砲身の振動が極めて小さい。。。しかも砲撃時のブローバックも最小限に抑えられている。。。これは照準精度が極めて高い事を示しています。ですから10式戦車は恐らく世界でもトップクラスの性能を持っていると思われます。
しかしながら日本の一番の問題点は硬直思考の官僚のせいで、1年間に調達する数が20~30輌という少数であることです。どんなに性能の良い戦車でも10年も経てば旧式になってしまいます。そんな事にならないためにも早めに数を揃えて、その後の予算を減らすといった柔軟な思考が必要ではないかと思います。
あなたのブログにコメント投稿されたものです。