天使は時に、人間として現れて助けてくれることがある。
夫と知り合ってまもなくの頃、夫が友人たちと伊豆にサーフィンに出かけて、
エイに刺されて救急病院に行ったことがあった。
その話を、もう何度も聞いていた。顛末はこうだ。
下田に着いたその日は満月で、夜サーフィンをしようじゃないか、ということで
さっそくみんなで海に繰り出し、ざぶざぶと水に入ったところにエイがいて、
足の裏から刺さったエイの尾が、足の甲までつきぬけた。
一緒に行った仲間の中の、みんなよりも日本語が話せる人が、
後部座席でエイの毒がまわってきて痙攣している夫を乗せて、救急病院を探しまくってくれた。
やっと見つけた病院で手術して一泊することになり、
翌朝、その友人が迎えに来て、夫のアパートまで送ってくれた。
という話なのだが、
私は今の今まで、この「みんなより日本語を話せる友人」は、てっきり仕事仲間だったJだとばかり思っていた。
カナダ出身のJは、日本語検定にもらくらくパスするほど日本語が堪能だった。
ただ、インドア派に見えるJがサーフィンをするのは意外だとは思った。
ところが、それはJではないらしい。
「Jだとばかり思ってた。じゃあ誰なの?」
「それがよくわからないんだよ」
Aと名乗るその人物とは、1度だけ下田で会ったことがあった。
満月サーフィンに出かけた夜、Aも一人でそこに来ていて、たまたま現場に居合わせたのだという。
エイに刺された時、夫は来日して数ヶ月だったし、一緒にいた仲間も似たようなもので、
あわてふためいているところにAがすべてを取り仕切ってくれた。
翌日、夫と一緒に帰ると言う仲間たちに、せっかく来たのだからサーフィンを楽しみなよ、といって
片道2時間以上かかる道のりを一人で送ってくれたのだった。
「じゃあAは恩人じゃないの。Aの何がよくわからないのよ?」
「名前も聞いた、下田に住んでいることも聞いた、電話番号も聞いた、そのほかのことも
いろいろ聞いたはずなんだけど、まるっきり覚えてないんだよ。
あとで電話をしてみたけど、通じなかったしね」
夫が日本にいた5年の間に、何度も下田に行ったけれど、2度とAに会うことはなかった。
Aは夫のために、そこに現れた、地上の天使に違いない。
結婚したあとの或るお正月に、二人で山奥の神社に行こうとドライブしていた折に
車に酔った夫が、ひとさまの家の脇でもどしてしまったことがあった。
そこは小さな側溝になっていたから、その家の人に謝って、水を借りて流そうと思ったものの、
新年早々、気を悪くされるだろうなあと暗い気分になっていたところに
その家のご主人が出てきた。
ひたすら謝る私に、ご主人は気を悪くするどころかおおらかに笑って
「いいだよ、いいだよ、水で流せばいいことだから。
全部出しちゃえばスッキリするだから遠慮しないでいいだよ」
夫の背中をさすりながら、どこの国から来たのか、日本は好きか、いろいろ話しかけてくださって
ありがたくて涙が出そうだった。
数日後、ちゃんとお礼を言うために、その家を探してみたのだが、
どこをどう走ってみても、その家がみつからなかった。
この看板を覚えてる、そうそう、この道も通った、という場所を何度ぐるぐるまわって、
とうとうわからずじまいだった。
あのご主人も、新年に出会った地上の天使に違いないと私は思う。
にほんブログ村
夫と知り合ってまもなくの頃、夫が友人たちと伊豆にサーフィンに出かけて、
エイに刺されて救急病院に行ったことがあった。
その話を、もう何度も聞いていた。顛末はこうだ。
下田に着いたその日は満月で、夜サーフィンをしようじゃないか、ということで
さっそくみんなで海に繰り出し、ざぶざぶと水に入ったところにエイがいて、
足の裏から刺さったエイの尾が、足の甲までつきぬけた。
一緒に行った仲間の中の、みんなよりも日本語が話せる人が、
後部座席でエイの毒がまわってきて痙攣している夫を乗せて、救急病院を探しまくってくれた。
やっと見つけた病院で手術して一泊することになり、
翌朝、その友人が迎えに来て、夫のアパートまで送ってくれた。
という話なのだが、
私は今の今まで、この「みんなより日本語を話せる友人」は、てっきり仕事仲間だったJだとばかり思っていた。
カナダ出身のJは、日本語検定にもらくらくパスするほど日本語が堪能だった。
ただ、インドア派に見えるJがサーフィンをするのは意外だとは思った。
ところが、それはJではないらしい。
「Jだとばかり思ってた。じゃあ誰なの?」
「それがよくわからないんだよ」
Aと名乗るその人物とは、1度だけ下田で会ったことがあった。
満月サーフィンに出かけた夜、Aも一人でそこに来ていて、たまたま現場に居合わせたのだという。
エイに刺された時、夫は来日して数ヶ月だったし、一緒にいた仲間も似たようなもので、
あわてふためいているところにAがすべてを取り仕切ってくれた。
翌日、夫と一緒に帰ると言う仲間たちに、せっかく来たのだからサーフィンを楽しみなよ、といって
片道2時間以上かかる道のりを一人で送ってくれたのだった。
「じゃあAは恩人じゃないの。Aの何がよくわからないのよ?」
「名前も聞いた、下田に住んでいることも聞いた、電話番号も聞いた、そのほかのことも
いろいろ聞いたはずなんだけど、まるっきり覚えてないんだよ。
あとで電話をしてみたけど、通じなかったしね」
夫が日本にいた5年の間に、何度も下田に行ったけれど、2度とAに会うことはなかった。
Aは夫のために、そこに現れた、地上の天使に違いない。
結婚したあとの或るお正月に、二人で山奥の神社に行こうとドライブしていた折に
車に酔った夫が、ひとさまの家の脇でもどしてしまったことがあった。
そこは小さな側溝になっていたから、その家の人に謝って、水を借りて流そうと思ったものの、
新年早々、気を悪くされるだろうなあと暗い気分になっていたところに
その家のご主人が出てきた。
ひたすら謝る私に、ご主人は気を悪くするどころかおおらかに笑って
「いいだよ、いいだよ、水で流せばいいことだから。
全部出しちゃえばスッキリするだから遠慮しないでいいだよ」
夫の背中をさすりながら、どこの国から来たのか、日本は好きか、いろいろ話しかけてくださって
ありがたくて涙が出そうだった。
数日後、ちゃんとお礼を言うために、その家を探してみたのだが、
どこをどう走ってみても、その家がみつからなかった。
この看板を覚えてる、そうそう、この道も通った、という場所を何度ぐるぐるまわって、
とうとうわからずじまいだった。
あのご主人も、新年に出会った地上の天使に違いないと私は思う。
にほんブログ村
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます