Carmel reilly 「With angels beside us」より
アンドレ(28)
これは僕が火事でひどいケガを負ったときの話だ。
知人の家のパーティに出かけたが、前の晩はあまり眠っていなかった僕は、お酒を軽く1杯飲んだところで眠気が襲ってきた。ちょっと横にならせてもらおうと上の階に行ったら、座り心地のよさそうなアームチェアがあったので、そこに座った途端に眠ってしまった。
誰か男の人が僕の肩を揺すったので目が覚めた。
見ると、面長の、薄い色の青い目の男性がそこにいた。
煙の匂いがし、どこかの部屋の窓ガラスが割れる音がした。誰かがろうそくを倒してしまい、それがみるみる部屋中に燃え広がったらしい。
ほとんどの人は逃げていたが、誰も僕が2階にいることを知らなかった。そう、僕は燃え盛る家の中にひとり取り残されてしまったのだ。
僕はパニックになり、ドアを開けたが、そこには既に火がまわっていて、耐えられないほどの熱気が襲ってきた。生き物のような炎が、僕の腕を焦がした。
ドアを叩きつけるようにして閉めて、部屋の中に戻った。ここから出られるとしたら、窓から飛び降りるしかない。
窓を開け、下を見た。
脚が震えたけれど、背後には炎が迫っている。もうここからジャンプするしか生き残るすべはないと腹を括り、飛び降りた。
屋根の庇が突き出ているのが見えて、うまくそこにワンバウンドできるかもと思ったのだが、僕の体はそれをかするようにして草むらの地面に叩きつけられた。
僕はほんとうにツイていたとしか思えない。腕の火傷と、いくつかのアザ、肋骨と手首の骨折だけで済んだのだから。
そうとう痛かったけど、命を落とすかもしれなかったことを思えばなんでもない。
救急車が来たのは覚えていて、次に気が付いたのは病院のベッドの上で、包帯でぐるぐる巻きになり、ギブスをはめていた。
僕の肩を揺すってくれた男性が、部屋の隅の椅子に座っていた。
彼は僕と目があうと微笑んで、部屋を出て行った。
入れ替わりに父親が入って来て、僕がどんなにバカなことをしでかしたか、死ぬかもしれなかったことをくどくどと言い募った。
入院していた数日の間に、僕はその男性を何回か見かけた。
僕は看護師に彼について聞いてみたけれど、誰もそういう男性を見たことがないと言う。
そりゃあそうさ、彼は天使なんだから。
僕はそう確信を深めたのだった。
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