ボーイの方の猫に、500円玉ハゲがある。
その箇所だけを舐めるので、見事に毛が抜けてしまった。
病院に連れてゆくこと数回。
病院でもらった抗生物質を口から投薬してみたり、
病院おすすめのムースを塗ってみたりもした。
敏感肌用のフードに変えてみるなど、数知れず。
注射1本でピタッとおさまってくれるといいんだけれど、ステロイドは肝臓の負担が大きいらしい。
それでも、ひところは尻尾の毛もまばらだったのが、尻尾は元通りになり、
腰の500円ハゲだけになった。
ボーイがベッドの上でうたたねしているのを見て、
『そうだ、ムースを塗ってみるかな』
と私は思い立ち、1階へ行き、ムースを手にシューと出した。
水道の水をジャージャー流して、ムースを出す音を隠す念のいれよう。
そして、素知らぬふりをして2階に戻ると、猫は既に雲隠れ。
ムースは手の中で液体化してゆくし、
なんとか捕獲し、ハゲにムースをつけた。
が、ほとんどはこぼれ落ちていて、ほんの少ししか塗れなかった。
猫は階段の踊り場のコーナーで、いつでも逃げられる態勢をとっている。
『もう少しムースを塗ろうか』
と思った途端、階段を駆け下りた。
『でも、ま、いっか、今度で』
直後にそう思い直したら、階段の下段で止まり、「やれ安心」とばかりにトコトコ2階に上がってきた。
猫は人の心が読める。
それは確かだと思う。
どんなに考えていないふりをしようとしても、猫にはわかる。
たぶん猫は、言葉じゃなくて、人が発するエネルギーをキャッチしているのではないだろうか。
私が話しかける日本語がわかっているような感じがするのは、
日本語を理解しているのではなくて、私が出しているエネルギーを受け止めているのだ、きっと。
普段は閉め切っている義両親側に続くドアを、猫たちが来れるように開けたら、
1階にいたガールはすぐさまやってきたが、ボーイが来ない。
せっかく向こう側で遊べるチャンスなのにと思い、声を限りに名前を呼べど、とうとう来なかった。
聞こえているのに聞こえないふり。
わかっているのに、わからないふり。
すべてわかっているのに、そんなこづらにくいところも猫の可愛さだと思うのは
猫ばかバンザイもいいところである。
ハゲのハンサムボーイ