続・知青の丘

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川柳『裸木』5号 (編集・発行人/いわさい楊子)作品へ鑑賞文寄稿

2017-12-01 21:58:42 | 俳句以外
 2017年11月25日発行川柳同人誌

  ~精鋭の作家7名による20句ずつの作品掲載
                  
『裸木』5号作品へ鑑賞文を書かせて頂きました。
 
<<川柳を攻略できただろうか>>加藤知子
         
このような川柳短詩をじっくり読ませて頂いたのは初めてで、
『裸木』の方々の緊張感のある川柳が短詩だと思い知らされた。
川柳と対決しているみたいな気分もあり。
誤読曲解になっていたとしたら、ご海容のほどを。

・上村千寿氏の「ピノキオの鼻」は、下敷きに「ピノキオの冒険」がある作品。
風刺に富み、世相を見る作者の透徹した観察眼は時に怖く、時には痛いくらい。

甘すぎるトマトどこまで媚びるのか
〇これ以上流せば毒になる涙
スミマセン何度でもいう弾む声

何事も過ぎたるは~の世界。涙を毒にまで昇格させた力わざ。
「スミマセン」の句に至っては、「弾む声」とまで言いきって脱帽。

但し書きついたご好意ありがたや

条件付きの「ご好意」はもはや押し付けか。

ピノキオの鼻を天蚕糸で編みあげる

天蚕糸製の鼻であったなら、誰も嘘と気づかない綺麗な嘘が付けるのかもしれない。

目を閉じていればすむもの無洗米

この世が「ままごと」のような仮の宿であればいいのだが。
見ざる聞かざる言わざるは至難、とはいえ、それが出来れば快適。
無洗米は快適生活の象徴。

 ・川合大祐氏作品「ストレンジ・デイズ」の巻頭句は、

抱擁をされぬ新聞配達夫

雨にも負けず台風にも負けずけっして抱擁されぬ丈夫な体を持ち感謝・・・。
この後の二句一章仕立ては、難解であるが故の謎解きの面白さ。

〇胡麻を振る父が縮小されたから

上5の後に<切れ>があるが、意識的に直結させて読むと痛快。
父親は乗り越えられねばならぬものだが、
胡麻ほどに「縮小」されてしまった。呵呵大笑。

サラダバーとは本来が釈迦の臍

「サラダバー」と「釈迦の臍」を「本来が」の一言で直結させた腕前は難解の極みで強引。
だが、もしかしたら、「サラダバー」の「バー」も「釈迦の臍」の「臍」も本来は在るが、目には見えないもの、
と読み解くが如何。

風土記まで書くのかチェコ語深すぎる

ミュシャのスラブ叙事詩のことと重なるか。

鮫屋敷ボール飛び込む窓の音

俳聖芭蕉の有名な〈俳句〉のパロディ。<川柳>はこんなことまで出来る。
「鮫屋敷」とは?

少年誌積んでジャンヌを焼きにけり

少年誌に火をつけて、高すぎる志と万能感のある少年期の終わりを予感させられる。

・北村あじさい氏作品「のんびりと」は、人は年齢を重ねるにつれて、
自然に肩の力が抜けてきて円熟味を増してくることを実感させられる作品群。とはいえ、

ぬるま湯がひた隠しする起爆剤

起爆剤を常に隠し持っているのだ。老いの矜持とも。

石の上三年経って元の位置

「三年経って元の位置」とはありがたやと受け取る。
年齢が行けば現状維持も難しくなるのだから。

〇君がいてお金があってさびしい日

君も居る、お金もある。一体なにが不足というのだろうか。
<若い弾力性>がないのがさびしいのでは。

自由ではなかった頃も好きでした

自由でなかった若い頃が懐かしい。昭和の戦後からの一目散の復興。高度成長期。
でも、もう走らなくていい。そして、なんとかかんとか言っても、
最期はよほどの覚悟がないと選べないというのだから、

一休みすればいいのに蟻よ嗚呼

・樹萄らき氏作品「そのままで」は、生きる上で共感性の高い作品群。
そして、作者のたくましい処世術が読み取れる。
いままでも、これからも、「そのままで」気ままに生きていかれるのだろう。

このへんで線を引こうか友人よ

終わりの「線」かと思えば、なんのなんの、「新しい白線」なのだから恐れ入る。

シの音が跳ねる孤独は楽しもう

孤独は、楽しむためにある。詩と孤独は切り離せません。

ぶちのめされたけど手応えはあった
ルールから外れているねま、いいか
身動きがとれないならばしゃがんじゃえ

とても融通が利き自在に生きる作者は頼もしい。

〇ここに居てほしいよ君は闇だろう

闇さえも友人にしてしまうこの作者にかかれば、「闇」もまた明るい。

・・阪本ちえこ氏作品「水 飲んでから」を読むと、
2016年の熊本大地震のことを思い出す。
    
くずれましたビルではなくてわたくしの

建物が崩れたことよりも、自分の中のこれまでの考え方や気力、
大事なもの等々の崩壊について、ことごとく再構築を迫られる。
重い腰をあげねばならないが。

休止符のあとは重いね土踏まず

今後いつなんどき何があるかわからないから、
夫や男友達にまずは感謝の意を伝えておきたい。

 これまでにするこれまでのことありがとう

そして、事がスムーズに運ぶように別の道も作っておこうか。
 
逃げ道を作ると水が流れ出す
一杯の水飲んでから考える

一杯の水のありがたさのしみじみ。

・いわさき楊子氏の「ドアノブ」は、この句から始まる。

どうしても外で吐きたい息がある

表現することの欲求の原点は、正にこの一句にあり。
そうして、外に出てみると、色々のことに晒される。

生きている証の濁り金魚鉢
約束を破るなめらかな爪先

長いような短いような人生において、清濁併せ呑んだ後の潔さと覚悟とを思う。

ドアノブの高さ気にしたことがない
〇死んだあと残る下着を着けている

すでに、ドアノブの高さなどどうでもよろしくて、
一大関心事は死んだ時に身に着けている下着のことか。
とはいえ、まだまだこの世で決闘する気もあり、やや未練もみえる。

美しく剥いたラベルの置きどころ
筋雲にきく追伸はないですか

諦観には早すぎる。
ドアノブは、未知の世界への通路を開くために在るのだから。

・久保山藍夏氏の「歩いてみると」は、全体的に物に即した発想の奇抜さと豊かさとで、
明け暮れの日常生活に変化を与えてくれる作品。
  
〇父はいま雨雲ほどきに出ています
〇菩薩像枕カバーを剥ぎ取れば
拭くたびに尊大になる眼鏡
しゃっくりで始まるカニの立ち話

「父」も「枕カバー」も「爪先」も「眼鏡」も「霧雨」も「しゃっくり」も「ふくらはぎ」も、
殊更に光を当てなければ私達の生活圏の中で埋没してしまいそうなモノたちである。 
取り合わせが理に走っていない分、解放感がある。 
全作品、手練れの感がなく、骨格がしっかりとした新鮮な句ばかりで、大変刺激になりました。
深謝。

一番好きな句に〇を付けさせて頂きました。

残念なことに、今号で終刊になりました。



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4 コメント

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Unknown (らき)
2017-12-02 14:51:59
 ブログにも裸木の鑑賞を載せて下さりありがとうございます。いくつになっても「〇」をいただけると嬉しいですね。あらためて子供の頃に戻った気分でした。・・・まあ、子供の時に〇をもらえた記憶は皆無なんですが・・・。
返信する
Unknown (知青)
2017-12-02 16:51:37
>らきさんへ

こちらこそ、短詩としての川柳を勉強させて頂き
ありがとうございました。
認識が変わりました。
「〇」はあくまで私の好きな句ですよ。
返信する
Unknown (楊子)
2017-12-02 21:36:59
ジャンルの違う方に鑑賞いただくとこんな広がりが嬉しいです。とくに川柳は内部の者だけで完結してしまうことが多いので、いろいろなタイプの川柳があることは知られにくいのです。もちろん本流?ではありません。支流の小さな小川が居心地がいい者もいるのです。
公開していただきましてありがとうございました。
返信する
Unknown (知青)
2017-12-02 22:48:55
>楊子 さんへ

ご丁寧にありがとうございます。
ジャンルを超えて、「詩」つながりでいけば
また別の面白がり方があるものですね。

私も「支流」で十分楽しんでいます。
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