続・知青の丘

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森田廣 句画集『出雲、うちなるトポスⅢ 潮鳴り遥かに』

2021-10-25 22:06:58 | 俳句

お約束していたので
森田廣さん96歳の句画集をUPしておきます。

俳句は、4章からなる120句収録。
絵画は、表紙絵を除き9作品が挿し込まれている。

『出雲、うちなるトポスⅢ 潮鳴り遥かに』より
      22句抄by知青

<劫初の眼>より(私註:仏教用語で、この世の初めのこと)
夕空も出雲訛りや蕗の薹
椅子の人春昼を浮き沖へ浮く
昼の月ともがらに薇加わりぬ
さくら山劫初の眼玉掘りいるや
蝶の今日われの今日(こんにち)グッドバイ
青葦離れ生(しょう)をはなれしもの流る

<汽水>より
海光を追伸とせり白牡丹
砂丘いま揚羽の終の快楽かな
父祖の血の手斧手鉋桐咲けり
汽水外れの白骨の鳥青嵐
一念の珠となりけり青谺

<虹の雫>より
水槽の魚の賑わう昼花火
銀河から墜ちし流木発火せり
月虹やスサノオの威のほろびゆく
河渡るわれをわたるや十三夜

ある男の像

<空舟(うつおぶね)>より
仰臥せる胸の枯野に月のぼる
河べりを一個の冬となり歩く
煮凝りの幾世からまる篝火や
凍蝶や寝返りやまぬ空舟
寒林と記し目つむりこだま待つ
雪の上に出雲純系と墨書せん
夢招びの魂招びとなる雪明り

森田廣さんは、
島根県安来市生まれ、
在住の画家であり俳人である。
おそらくずっと、
この地の地理や歴史、風土と向き合って
絵も句も書き続けてこられた方だと思う。
安来市を調べてみると
宍道湖や中海という汽水湖に近く
造山(つくりやま)古墳や大成古墳など
古墳時代前期の最大級の方墳があり
日本海も見通せるようだ。
ヤマタノオロチ退治などスサノオの神話とも
深いつながりのある土地柄なのだろう。

そういう、ヤマト朝廷とは一線を画す地で
ひたすらその血と汗を意識しつつ
創作に邁進されてきたのではなかろうか。

そして今回の句画集で前回のⅡよりもっと
ただ今現在から過去や未来へ
ここ地平から銀河へ、無意識の世界へと
自由に漂泊している句が
多いように思えた。

我が未踏地の境地を
垣間見せてもらったような気分になった。

あとがきを読むと、
「三十歳を少し過ぎたとき、生死の淵をさまよう事故に遭い両腕を失った」
そうで、フランクル著『夜と霧』に出会ってから
俳句表現に向かう意識に転機があったという。

あとがきより抜粋:
大自然の霊妙な美と、不条理の極限に置かれた人間の存在。それは俳句表現に向かう意識の動かし難い転機となった。天地造化の妙を見せる世界は、他方あまりに悲惨な事象をももたらす。
そこに生きる一つの存在。俳句表現もまた「存在」につながるべきものという指標がそこにあった。
 予期せぬ高齢に恵まれ、出来ればシンプルな表現を心掛けたい思いもある。むろん、どんな表現であろうと俳句表現に値することばでなければならないが
更に言えば、その表現意識のもう一つの深みにある何かをたずねたいのである。その何かを端的なことばにすれば「いま・ここ」にという思いであり、「刻々のいのち」或いは「刻々の永遠」ともいえる思いである。






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