元気の源

猫が大好き、動物が大好きな、パステル画家・山中翔之郎のブログです。

ねぇ ムーミン

2011-11-30 11:28:43 | My Works -肖像画-


この秋、何作かの肖像画を並行して描いてきた。
今回ご紹介する作品は、その中の1点。

数年前、お世話になっている画商さんから紹介されて、某百貨店内のギャラリーで開かれた企画展に出品したことがある。 それがきっかけになって、そのギャラリーで常時肖像画の案内をしていただいている。
この絵は、そのギャラリーを訪れたお客様からのご依頼で描くことになった。

直接依頼される場合と違って、間に百貨店・画商さんが入ると、依頼主の生の声を聴くことはなかなか難しい。 結局は預かった数枚の写真だけを頼りに描くしかなく、それは私に限ってのことかもしれないが、制作を進めるうえでかなりの困難を感じていた。
「できることなら、一言だけでもいいので直接飼い主さんの思いを聞きたい。 それが絵を描く上でとても大きな助けになるから・・・」
ことあるごとにそんな希望を双方に伝えていたところ、いつしかその思いを理解してくれたらしく、肖像画の依頼話があると、そのご依頼主と直接話をさせてもらえるようになっていた。

そして今回も・・・。
モデルはミニチュア・シュナウザーのムーミン君。
受話器越しに聞こえてきた依頼主 M さんの声は、ご年配特有の穏やかさが感じられた。
「もう十数年も前に亡くなっているのですが、今でも忘れられなくて・・・。 主人の誕生日に・・・と思ってお願いすることにしました。 とにかく、可愛く描いてください」
前もって郵送されてきていたムーミン君の画像資料は3枚。 
1枚はA4用紙にコピーされたもので、全身のポーズが気に入っているが、顔は緊張しているので嫌とのこと。 あとの2枚はいわゆるサービス版サイズの写真で、そのうちの1枚はお気に入りの顔の見本として・・・。 ただ耳の折れ方がいつもと違うので・・・と、耳の見本にもう一枚。
コピーは普段から壁に貼ってあったらしく、すっかり色焼けしていて本来の体の色がよく分からない。 顔見本の写真はかなりハレーション気味で、コピーとはまた違った焼け方をしている。 さらにもう一枚は全体が青味掛かっていて、まったく別の犬のよう・・・。
(う~~~ん)と心の中で唸る。 
しかし、受話器を当てた耳から聞こえてくる M さんのやさしい声が、私に大きな力を与えてくれた。
「わかりました。 精一杯描かせていただきます」

そう答えて電話を切ってから数か月、M さんの思いに後押しされながら少しずつ描き進め、ご主人の誕生日まで10日ほどを残してようやく完成。 早々にギャラリー宛に送った。
その翌日には、ギャラリーから電話が・・・。
「無事に届きました。 これならきっと喜んでいただけると思いますよ」
担当者からあたたかい労いの言葉をもらっても、まだ素直に喜ぶことはできなかった。
私にとって肖像画は依頼主のためにだけ描いた絵。 依頼主が気に入ってくれるかどうかが全てだから・・・。
するとその日のうちに再度ギャラリーから電話が入った。
M 様にご連絡をしたら、早速お見えになりました。 ご本人と変わりますね」
ちょっとした不安の入り混じった緊張感が走る。
「どうも初めまして・・・。 M です」
受話器から聞こえてきたのは、予想していたあの穏やかな女性の声ではなく、男性の低い声だった。
もちろんその声の主はご主人に他ならない。
「いや~、本当によく描いてくださった。 眼の前に生き返ってきたようです」
その言葉を聞いた瞬間、胸につかえていたものがスッと消えて無くなった。


肖像画はいつもそう・・・。
サインを入れたからと言って、すぐに達成感を感じることはできない。 依頼主がその絵を目の前にし、気に入ってくださって初めて“完成”したと言える。 その言葉を耳にし、その表情を確認したその時こそが、私にとって本当の意味で“完成”なのだから・・・。
肖像画は資料だけを基にして絵描き独りが勝手に描くものではなく、依頼主の思いと共に描いてゆくもの・・・。 いや、その思いこそが私にその絵を描かせてくれるのかもしれない。


ご主人に替った奥さんの声が、聞き覚えのあるそれよりも心なしか興奮気味に聞こえた。
「私ね、お願いしてから10日ぐらいあとに夢を見たの。 ムーミンが他のワンちゃんたちと楽しく遊んでいる夢・・・。 それでね、きっと素敵な絵が出来上がるって信じてたの」
「・・・・・・」
「本当に、ありが・・・と・・・・・・」
急に震えだした声が途切れ、別の女性の声がそれに替わった。
「今ご夫婦お二人とも泣いてらっしゃいます。 私まで・・・感激です」
突然始まったギャラリーの女性スタッフによる実況中継が、ちょっと可笑しくもあり、同時にどうしようのないほど嬉しくて、私の目頭も熱くなった。


またたくさんの新たな力をもらった。
こんな時にいつも思う。
精一杯描いてよかった・・・と。
そして、これからも頑張って描き続けよう・・・と。

まだ今も制作中の肖像画が何点かある。
これらがやがて完成し、依頼主の元へ届く日のことを思いながら描き続けている。
「気に入ってもらえるかな・・・???」
いつものようにそんな不安を感じながらも、やはりその瞬間が楽しみで、楽しみで、しょうがない。
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酉の市

2011-11-26 23:41:35 | 日記


今日は浅草鷲(おおとり)神社の酉の市に行ってきました。
暦の関係で11月の酉の日は2回で終わることが多いのですが、今年は3回まわってきました。
今日がまさにその三の酉。
空気は冷たくても陽射しの中にいるとポカポカ・・・。 晴天に恵まれた上に土曜日まで重なり、私が鷲神社の最寄駅となる地下鉄三ノ輪駅に着くと、神社へと続く道は人、人、人・・・。
普段ならウンザリ・・・という光景ですが、今日のような特別は日には、そんな人混みがかえって嬉しく感じたりしました。
だって、ある意味お祭りともいうべき酉の市なのに、もし閑散としてたら白けてしまいますから・・・。 そんなところは、人間て勝手ですね。

この鷲神社の酉の市には子供のころから親に連れられて行ったこともあり、その習慣は50年を超える今まで毎年続いています。
今年買ってきた熊手がコレ↑
おかめと枡の前には、来年の干支である辰と、鯛を抱えた猫が対になって控えています。
“大入り”“家内安全”“商売繁盛”などの縁起の良い文字のほかに、松竹梅から始まって、打ち出の小槌に大判小判、鶴と亀に可愛い鳥居まで・・・。 
柄まで入れても50cmほどと決して大きくはありませんが、縁起物には欠かせないものがみんな揃っていて、大いに気に入っています。

もちろん、熊手を買ってきたからもう何も心配しなくてよい・・・ということではありません。 縁起物に頼るのではなく、毎日この熊手を目にすることで、己の気持ちを引き締めて日々を過ごすことが大切なのだと思います。
今年も例年通り、元気に鷲神社に参拝して、酉の市で熊手を買ってくることができた・・・ということ。 
毎年同じ時期に同じことを繰り返しているように思えます。 しかし、その一年という時間の経過は、確実に自分自身を変え、自分の周りも変化しているはず・・・。 
当たり前に思える毎年の行事が、実は一年一年の積み重ねがどれほど大変なことかを証明してくれているのだと思うのです。

今年は公私ともに大きな悲しい出来事がありました。 そのことを決して忘れることなく、来年を良き一年とするためにも、今年の残りあと一ト月を大切に過ごしたいと思います。

新しい熊手さん 
来年一年間 
よろしくお願いします
一年後のいまごろも
また新しい熊手を買いに行くことができますように
毎日毎日を
精一杯頑張れますように
そして何よりも
愛する人たちみんなが
笑顔で一年を過ごすことができますように
どうか見守ってください
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掛け替えのない日々

2011-11-22 02:50:09 | My Works -我が家の元さん-
           『 話し相手 』


何でもない当たり前の日常が、掛け替えのない大切な瞬間に思える時がある。

一見何も変わらないように思える毎日を迎えることが、実はほとんど奇跡と言っても大袈裟ではないくらいに素晴らしいと感じる朝がある。

それなのに・・・、過ぎてしまって初めて知ることが・・・、そして失ってからようやく気付かされることがいかに多いか・・・。

過ぎ去った時間をやり直すことはできない。

失ったものを同じ姿で取り戻すことは許されない。

ならば、立ち止まり振り返ってばかりいるのはもうやめにしよう。

前を向き、明日を信じて、これから先に続く時間を精一杯生きよう。

新しく訪れるであろう素敵な出逢いを見過さないように心の眼を大きく開こう。

そして何よりも、今かろうじて残っている大切な宝物がこの手から零れ落ちぬように、しっかりと握り直そう。

掛け替えのない“当たり前”に感謝しつつ・・・。
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Blue Blanket

2011-11-12 18:04:40 | My Works -我が家の元さん-

ここのところ急に冷え込みことが多くなって、すっかり秋深しという.気候になってきました。
風邪を引いている人が急増しているとか・・・。
皆さん大丈夫ですか?

朝方の冷え込みが強くなってくると、布団から出るのがつらくなります。
許されるものならば、暖かい布団の中でいつまでもぬくぬくしていたいですね。


この時期になると想い出す作品の一つが、今回ご紹介するこの『 Blue Blanket 』。
10年ほど前に描いたもので、毛布から顔を出した元さんは当時8~9歳。 確かに顔がまだ若いです。
元さんはこの青い毛布が大好きで、気温が少しでも下がり始めると早速鼻先を突っ込んではゴソゴソぬくぬく・・・。
その姿を見ているだけで、こちらまで心がポカポカしてきたものです。

この作品は画商さんを通して地方のデパートで飼い主(買い主)が決まったので、どんな方のお世話になっているのかわかりません。
でもきっとこの冬も、この絵を気に入ってくださった方の心をほんわか暖かくしていることと思います。

これから年末に向けて日を追うごとに寒さが厳しくなっていくことでしょう。
私も風邪など引かないように、気を引き締めて制作に打ち込みたいと思います。
皆さんも防寒対策を万全にして、残りわずかになった今年を元気でお過ごしください。
原画ほどの効力はないかもしれませんが、この 『 Blue Blanket 』の画像を通して、元さんから皆さんにぬくもりをお裾分けします。

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瞳・・・小宇宙

2011-11-08 02:31:34 | My Works -瞳シリーズ-
          『 Green Eyes 2 』


猫の瞳にフォーカスを絞って描いた小品群 “瞳シリーズ” の中の一点。

2000年7月に開いたボザール・ミュー第3回目となる個展は、ギャラリーの宮地オーナーと相談して、小品を中心に・・・ということになった。
その年の3月に開いた個展のテーマはノラ猫。 それからまだあまり間が空いていないということもあって、2回目とはちょっと違った雰囲気で・・・と考えた結果だった。

さて、小品とは・・・?
構想を練り始めた時に、まず浮かんだ疑問だった。
もちろん小さな作品であることは言うまでも無いが、ただ単にサイズの問題だけではないような気がした。
小さな画面だからこそ表現できることは・・・?
考えたに考えた抜いた末に思い浮かんだのが、顔の“どアップ”だった。
猫の持つ魅力の象徴ともいえる“瞳”を中心に、実物よりも大きくなっても構わないから・・・と開き直った。 場合によっては耳が入らなくてもよい。 両の眼と、その中央やや下に位置する鼻の三角形にヒゲが加われば、もうそれだけで猫の魅力を充分に表現出来るのではないかと考えた。
果たして・・・、この作品と同じような“どアップ”構図で、様々な色をした何種類もの猫の瞳の絵が出来上がった。 

宮地オーナーによって、個展のサブタイトルが付けられた。
それが今回のブログタイトルに使った『 瞳・・・小宇宙 』 。
出来上がってきたDMに印刷されたその文字を見たとき、正直なところ何だか少し照れ臭かった。
しかし、初日を翌日に控えて飾り付けを終え、ギャラリーの中央に立って周りを見回した時、決して広いとは言えないその空間がその時だけはいつもよりずっと広く感じられた。
素敵なサブタイトルを付けていただいたオーナーに、心の中で感謝した。


前回の話題とちょっとばかりリンクするが、中学を卒業してからもずっと付き合いが続いている数少ない同級生の一人にO君がいる。
彼は私が絵の世界に飛び込んでからもずっと、家族ぐるみであたたかい応援をし続けてくれている。 
今回取り上げた『 Green Eyes 2 』を購入してくれたのは、その親友O君だった。

この絵と同じチンチラゴールデンを飼っていて、そのコを譲り受けた先にお礼として・・・ということだった。
その後この絵がどうなったのか、O君から聞かされることもなく、またこちらから敢えて尋ねることもしないまま何年間かが過ぎた。 そして・・・・・・、
「そういえば、あの絵は・・・?」
何回目かの個展にご夫婦で来てくれたO君をつかまえ、思い切って訊いてみた。
するとちょっぴりバツの悪そうな笑みを浮かべながら、傍らの奥さんと顔を見合わせ、
「実は・・・」
ご自分たちがとても気に入ってしまって、結局は自宅の壁に・・・とのこと。
「な~んだぁ・・・」と、わざとらしく呆れ顔をしながら、本当は心の中でめちゃくちゃ嬉しがっている自分がいた。

この絵の中の瞳を思い出すたびに、O君の人懐っこい笑顔が重なって見える。
彼とのかけがえのない友情を、いつまでの大切にしていきたいと思う。
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同窓会

2011-11-06 17:45:34 | 日記

昨日は中学校時代の同窓会に出席してきた。
3年に1度の割合で既にこれまで何回か開かれていたとのことだったが、中学卒業以来何度も引っ越しをしたこともあって連絡がつかなかったこともあり、私にとっては50人近く集まったそのほとんどと40年振りになる再会だった。

「誰・・・???」
心の中で呟きながら、胸につけられたネームプレートに目をやる。
「やあぁぁぁ~~~! 久し振り!」
次の瞬間には叫びにも近い声を上げながら手を握り、肩を叩き合い、中には抱き合ったり・・・。
ついさっきまではすぐに誰だかわからなかったくせに、ほんの数分の会話を交わしただけで、「少しも変わってないなぁ」ということになる。
まさにタイムスリップの連続。
40年という人生の半分近い永い間、まったく会うこともなくそれぞれ別々の人生を歩んできたというのに・・・。 そして中学時代を思い出す機会も滅多になかったのに・・・。
お互いに歳を重ねた容姿が、ほんの一瞬で中学生だった頃に戻って見える。
人間の記憶って本当に不思議だと思う。

十代前半のあの頃の気持ちに戻りながら、そこに40年間の様々な経験を加えた新しい付き合いが始まるのを感じたひとときだった。
前日までは、みんなと会える楽しみな気持ちと裏腹に、正直なところわけの分からない不安もあったりした。
でもきっとそれは40年という時間の溝を飛び越えるために必要な心の準備体操だったのだろう。

中学時代の仲間たちに感謝!
みんなそれぞれの人生を知って、たくさんのエネルギーをもらった気がする。
さあ、また新たな気持ちで、自分の人生を頑張ろう!
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スイセン

2011-11-02 15:23:26 | My Works -ノラ猫たち-

前回に引き続き、谷中のノラ猫をモデルに描いたちょっと恥ずかしい(?)作品のご紹介。

『 スイセン 』というタイトル、あえてカタカナにした理由がある。
先ずはこの猫・・・何をしているのか? 
猫好きの方ならすぐにお分かりのことだろう。 そう、オシッコの真っ最中である。
微妙に後ろ足を開いてお尻を落とし、その表情は一見しっかりと前を見ているようで、実はどこにも焦点の合っていない目・・・。
望遠レンズを使ったが、シャッター音に気付いたのか、ポーズは変えずに眼だけジロリ!
「ここは俺が決めたトイレ。 えっ? 臭いって・・・? 何言ってるんだい。 そのうち雨が降れば流れる天然の 水洗 トイレさ。 文句あるかい?」
という訳で、これが一つ目の“スイセン”。

茶トラの言い分はごもっともだが、せめて雨が降るまでの臭い消しに・・・と、その近くに甘い香りの 水仙 を植えることにした。
実際こんなに旨くはいかなくても、絵の中だからこそできること。 これで少しは我慢できるかな・・・?
それにしても、二つ目の“スイセン”にとっては何とも迷惑な話・・・。
「何だって? 今度は花の心配かい? 取り込み中に邪魔されて、止めるに止められないこっちの身にもなってくれよ!」
これまたごもっとも・・・。

ちなみに『 スイセン 』のモデルを務めてくれたこの茶トラ、長い尻尾を見ればお分かりの通り、『 エクスキューズ・ミー 』の茶トラとは別猫である。
いずれにしても、どちらの茶トラにも改めて一言お詫びをしなくてはならない。
おくつろぎ & お取込み中の無防備なところにカメラを向け、大変失礼いたしました。


前回の『 エクスキューズ・ミー 』と同様に、楽しみながらも少々不安を抱きながら描いたこの『 スイセン 』・・・。 初出品は『エクスキューズ・ミー』が人気を集めたその翌春のノラ猫個展だった。
結果は・・・、またまたその回の一番人気を争うことになった。
猫好きさん達のお気持ちは、計り知れない・・・???


ところで、11月に入ったというのに妙に暖かい日が続いている。
はたして水仙の花が見られるようになる頃は、どんな気候になっているのやら・・・???
暖冬? それとも逆に・・・?
いずれにしても、外で暮らすノラ猫たちにとってはつらい季節が訪れる。
モデルになってくれたコたちは元気でいるだろうか?
10年近くも経っていることを考えれば、もしかしたら既に世代交代・・・?
ご本猫の無事を祈りつつ、その子孫たちが元気に冬を越し、新たな春を迎えられるよう願うばかりである。
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エクスキューズ・ミー

2011-11-01 01:47:00 | My Works -ノラ猫たち-

最寄りの地下鉄の駅前広場を根城にしているノラ猫が何匹かいる。
地下鉄を使って出かけるときは、駅に近づくと無意識にノラ猫たちを探している自分がいる。
つい先日も、秋晴れの穏やかで暖かな日差しを浴びながら、常連の中の一匹の茶トラが気持ちよさそうに昼寝をしていた。
残念なことにカメラを持ち合わせていなかった。
口惜しい思いをぐっと堪えながらゆっくりとその横を通り過ぎ、未練がましくもう一度振り返ってみる。
後ろからその寝姿を見た時、もう10年も前に描いた一作の絵が甦ってきた。


今回ご紹介する『 エクスキューズ・ミー 』は、当時からノラ猫のメッカと言われていた谷中の共同墓地在住の茶トラをモデルにして描いた。
この絵のように、制作する楽しさと共にちょっとした心配を抱きながら描いた作品はそう多くはない。
何が心配って・・・、もちろんこのポーズ。
いくら尻尾が短すぎて隠しようないといっても、何とも恥ずかしいこの姿がご覧いただく方々の目にどう映るのか・・・???

2001年秋のミュー個展に初出品した時は、まったくと言っていいほど話題にもならなかった。
この回は子猫や元さんを描いたものが中心で、ノラ猫作品は数も少なく、確かに雰囲気にマッチしていなかった。 それでも、やはりこのポーズが原因・・・と、軽く後悔の念も・・・。
翌年の春の個展は恒例のノラ猫展。 そこでもう一度だけチャンスを・・・と、消えることのない不安を抱きながらも再度出品することにした。
いざ幕を開けてみると、その心配は何処へやら・・・。 それどころか、今度は20点を超える出品作の中でも一番人気を集めることとなった。
ノラ猫ばかりの個展だったからだろうか? 半年前のことが嘘のようだった。

ところで・・・このポーズ、人間ではもちろん × 。 猫だからこそ許される・・・かな???
しかし、声を上げて大喜びするのは女性ばかり。 中には手を伸ばしてタッチしそうな方まで・・・。
一方絵の前に立った男性は、誰も例外なくバツが悪そうに苦笑いを浮かべてみたり・・・。
作品鑑賞を通しての人間観察もなかなか面白い。

この絵のポストカードは未だに人気で、わざわざ指定してくる方も・・・。 300点を超えるノラ猫作品の中でも、間違いなく代表作の一つとなってしまった。

それにしても、勝手にモデルにされたノラ君は、果たしてどう思っているのやら・・・???
この絵を思い出すたびに、つい心の中で呟いてしまう。

( エクスキューズ・ミー )
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