元気の源

猫が大好き、動物が大好きな、パステル画家・山中翔之郎のブログです。

うれしい “重さ”

2012-10-27 12:47:39 | My Works -我が家の元さん-
            『 ふかふか あさぎ雲 』



あの感覚、ずいぶん久しぶりだったな・・・。

ここのところ朝夕は大分涼しくなってきて、寝る時はしっかり布団を掛けるようになった。
昨夜もそうしてウトウトしかけたころだった。
足元にフッとあの懐かしい重みを感じた・・・。
「あっ、元さんだ」
心の中で歓声をあげる。
「ずいぶんご無沙汰だったじゃないか。 どこか遊びに行ってたの?」
勝手に会話を進める。
するとその重さが、モゾモゾっと動いたような気がした。
あれこれと他愛のない会話を交わす。 と言っても、私からの一方通行だが・・・。
やさしい時間が今までになく長く感じられた。
眼を開けてみたいという衝動をぐっと堪え、その何とも心地よい重さをむさぼるように味わっていたら、いつの間にか眠りに落ちていた。


今回ご紹介した作品 『 ふかふか あさぎ雲 』は、今年の4月のミュー個展に出品したもの。
その頃は元さんがいなくなって既に1年余りが過ぎ、新たな世界にいる元さんの姿をいろいろ思い浮かべながら20点近くを描いた。
この作品は、まさに昨夜の来訪のように、秋の訪れと共に布団を恋しがる元さんの想い出が描かせてくれたものだった。

空の色をいっぱいに吸い込んで浅葱色になったふかふかの雲布団の上で、元さんは日がな一日こんな風にのんびりとしているのかな・・・。
ぽかぽかお陽様の光を浴びて、いつもよりちょっと緑が濃くなった目をして・・・。
昨夜は・・・、会いたいという衝動に負けて目を開けてしまったら、その瞬間に久し振りの“重さ”が消えてしまうような気がして、どうしても足元を見ることができなかった。
もしかしたら・・・、元さんのこんな姿を見ることができたかもしれないのに・・・。


何故だろう?
秋は・・・、想い出がいっぱいに詰まった温もりが、無性に恋しくなる。

元さん・・・、気が向いたらまた来ておくれ。
いつでも、待ってるよ。
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“震災で消えた小さな命展2” 愛知へ

2012-10-25 01:01:15 | 展示会

東北地方の巡回展にひと区切りをつけ、10月27日(土)からは愛知県西尾市での展示が始まります。

これから約一年近くの間、親元を離れて日本中の(もしかしたら海外も・・・???)各地を訪れ、あの大震災の記憶が風化しないようにと絵の中からたくさんの人たちに語りかけてくれることと思います。

西尾市の地元の皆さん、そして近隣の皆さん、ぜひお出かけになってみてください。

詳細は下記の通りです。


◆2012年10月27日(土)~11月11日(日)

 会場: 愛知県西尾市/一色まなびの館展示室・別館ギャラリー
 住所:  〒444-0423 愛知県西尾市一色町一色東前新田8番地
 時間:  9:00~18:00
 問合せ先: 0563-72-3880

※11/4(日) ひろかわさえこさんを招いての座談会(時間はお問合せ下さい)

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みんな一緒に・・・ その二

2012-10-18 12:33:16 | My Works -肖像画-


前々回にアップした9匹一緒には及ばないが、今回は5匹を一緒に描いた肖像画作品をご紹介。

この5匹も同時期を一緒に過ごしたことがなく、特にワンちゃんはだいぶ先輩で、お写真もほとんど色の褪せたものが1枚だけだった。
( 現在も元気でいるコたちを絵の中で見守ってもらいたい )
依頼主 A さんのそんな思いを感じながら描かせていただいた。

2010年制作で、タイトルは同じく『 みんな一緒に・・・ 』。 
実はこの他にも何匹かのコを一緒に描いた作品は何点もあるが、同じタイトルを付けたものも少なくない。
あっ、どうかくれぐれも誤解のないように・・・。 決してモデルが複数だからというような単純な理由だけで無精をしたわけではない。

完成後に額装をしながら一応あれこれとタイトルを考えるのだが、こうした複数の・・・特に3匹以上のコを一作品の中に描いた時、いつも真っ先に頭に浮かんでくる言葉は “ 一緒 ”。
それに、制作のご依頼をいただいた時、預かった写真に添えられる様々なコメントの中に必ずと言っていいほど入っているのが、やはりこの“一緒”という言葉と、もう一つは“みんな”。
あえて凝ったタイトルを考えるよりも、依頼主と私のどちらの頭にも浮かんだ言葉を素直に使うのが一番だと思うようになった。
たとえタイトルは同じでも、“みんな”の中身は、当然のことながらそれぞれ違うコたち。 
同じタイトルの付いた作品の数だけ、“みんな”がそれぞれ独自の違った意味を持っている。
だからもう今は肖像画のタイトルを付ける時、同じタイトルがあったかどうかは気にしない。
言葉としては同じでも、その時その時、依頼主の気持ちを感じながら新たな思いで付けたのだから・・・。
何回も繰り返すが、肖像画は依頼主とその身近な人たちのための絵。 
きっとこれから先にも、『みんな一緒に・・・』みたいなタイトルを何度も付けることがあると思う。 その時どんな新しい感覚を味わうことができるのか、実に楽しみである。


それにしてもこのタイトル・・・、似たようなものも含めてこれまでにいくつくらい付けたことがあるのだろうか?
ちょっと調べてみようかな・・・。
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元さん “ ねこ新聞 ” に・・・

2012-10-16 15:32:31 | 日記

「 何ごと・・・?」と言われてしまいそうですが、“ ねこ新聞 ”の10月号に、我が家の元さんを描いた作品『 瞳の中の宙 』が掲載されました。

今年の4月の個展で、星になった元さんを描いた作品の中の1点。
当時個展のご案内をした時に既にご紹介済ですが・・・、ここで改めてもう一度。(↓)


              



この絵の中の元さんがお世話になっている S さんは歯医者さん。
子供の患者さんも多く、治療の順番を待つ間に少しでも憂鬱な気分を忘れることができるようにと、待合室の壁に子供たちが喜びそうな絵を飾ってあるそうです。
この『 瞳の中の宙 』も4月以降その仲間入りをしていました。
「やっぱり大きな黒目が可愛いのね。 子供たちに今までで一番受けてるわ!」
9月の横浜個展にお出かけいただいた S さんから、そんな嬉しいご報告を聞かせていただきました。

元さん・・・、星になってしまった今も、絵の中からたくさんの人たちの心に安らぎを与えてくれているんだね。
子供たちは、その時だけでも歯が痛いことを忘れてくれたかな?
S 先生に、ちゃんと治してもらってね。

そんなことを思いながら、何だか無性に嬉しくなってしまいました。

S さんに“ ねこ新聞 ”掲載の予定を伝えると、
「へぇ~~~、結構人気があるのね」と、どうってことない・・・とでも言いたげなお返事でしたが、その表情には満更でもないといったご様子が溢れていました。


ところで、この“ ねこ新聞 ”は年間購読のみで、一般の店には置いてありません。
しかしその内容には驚かされます。
様々な分野で活躍されている著名な方々の“猫”に関わる詩・歌・エッセイ等々に加えて、美術史上の名作から、人気画家の絵・挿絵、さらには四コマ漫画まで・・・。 
知る人ぞ知る・・・、しかし猫好きさんが一度目にしたらどっぷり嵌ってしまいそうな、そんな素敵な新聞です。
極々たまにでも、その中に自分の絵を入れていただけることは本当に光栄だと思っています。
今回が3回目・・・。 これからもまた載せていただけるように精一杯描き続けていこうと思います。


もし興味をお持ちの方は、“ ねこ新聞 ”のホームページ こちら をご覧になってみてください。
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みんな一緒に・・・

2012-10-14 13:29:08 | My Works -肖像画-


10月に入ってからも、肖像画制作が中心の毎日が続いている。

今、数点の作品を並行して描き進めているが、ふと気が付いたことがある。
偶然なのだろうが、2匹、あるいは3匹を一緒に・・・というお希望が多い。

もちろんこれまでにも、そのような複数のコを一緒にという依頼が無かったわけではない。
そこで気分転換も兼ね、今まで一つの絵の中に描いたモデル(動物に限らず人間も含めて・・・)の数が一番多かった作品を調べてみた。
それが今回ご紹介するこの絵・・・。(↑) 2005年の秋に描いた作品である。

ご覧の通り、総勢 9 匹!
依頼主の K さんから初めてお話をいただいた時には・・・、正直なところちょっと慌てた。
次から次へといろいろなコの写真が出てきて・・・。 確か30年以上にも及ぶ間に、家族の一員として一緒に暮らしたコたちとのことだった。 
同時期に一緒にいたわけではないから、当然みんなが揃って撮った写真などあるはずもなく、その中には既に天国へ旅立ったコも何匹か・・・。
下段中央の向かって左側の茶色と白のワンコが一番の古株だったという記憶がある。 そのコの写真はたったの1枚。 それもかなり退色していて見事なくらいのセピア調。
その他のコについても、数枚の写真しかなかったり、ピンボケばかりだったり・・・。
きれいに映っている写真はその時も元気なコたちのものだけだった。
(ムムムムム・・・・・)
どうしたものかと、思わず心の中で唸っていた。
「どんな形でも構いませんから、とにかくみんな一緒に描いて欲しいんです」
結局は K さんの熱意に押し切られ、大量のお写真を預かることになった。

構図を考えるだけで、どれくらいの時間をかけたことだろう。
最初はいろいろなポーズを絡めてみようとしたが、資料が少ないこともあって、どうしても不自然さを消し去ることができなかった。
あくまで肖像画なのだから、それぞれのコらしさを出さなければ意味がない。 そう自分に言い聞かせ、シンプルに一匹一匹の特徴をつかんで描くことだけに努めた。
よく見ればこのような並び方自体が不自然と言われれば返す言葉もない。 しかし、K さんからすれば、それは大したことではなかったようだ。
実際には同時に過ごすことのなかったコたちを絵の中で一緒に・・・という思いが全てだった。 それだけで充分だった。
完成した絵を納めた後にいただいたお礼状から、そんなお気持ちがひしひしと伝わってきた。
ホッとする気持ちと共に、貴重な経験をする機会をいただいたことに、感謝の気持ちでいっぱいだった。


肖像画は依頼主のために、依頼主の気持ちと共に描くもの・・・。
今、改めて強くそう思う。
その思いを胸に、さあ新たな気持ちで描き続けよう!
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再 会

2012-10-12 14:08:46 | 日記

今日から岩手県内で3か所目となる盛岡での展示が始まった “ 震災で消えた小さな命展 2 ”。

釜石、大槌と続いた展示が8日に終わったばかりで、休む暇もない忙しさの中、代表者の うさ さんから嬉しいメールをいただいた。

私が担当した『 ゆいちゃん & くろちゃん 』の絵は既にご紹介したが、改めてここでもう一度・・・。

           


うさ さんからのメールによると、この二匹の絵をご希望された S さんが釜石展に来てくださった。
絵をご覧になった第一声は「そっくりに描いてもらって・・・」だったとのこと。 
それを知った瞬間、胸の奥につかえていた何かがフッと消えたような気がした。
「よかったぁ・・・」
思わず口から洩れた。
S さんはその後長い時間、絵の中の二匹をやさしく撫でながら、いろいろ話しかけられていたという。
そして何よりも驚いたのは、S さんが何度もぬぐっていた涙が、あの震災以降初めて流した涙だという。
どんなに辛く悲しい思いをされたのだろうか?
それは私がいくら想像しようとしても想像し切れないほど大きく、そして深いものなのだろう。
涙さえ出なくなるほどに・・・。
「震災後、初めて涙が出た」という S さんの言葉に隠された意味を、重く重く、しっかり受け止めたいと思った。

少しでも元気を出していただければ・・・と、そんな思いから参加させてもらったはず。 しかし実際には、私の方がたくさんの元気をいただいてしまった。
大変な思いの中からいただいたこの元気を、これからの制作活動の中で活かしていきたいと思う。
貴重な経験をさせていただいた うさ さん、S さん、本当にありがとうございました。


大槌町の展示では、7日間の会期中に777人(何だかイイ数字)もの方々が足を運んでくださったとのこと。
その雰囲気を少しだけでも味わっていただければ・・・。(↓)



            

           



今日から3日間は盛岡で・・・。 その後、山形市内で3日間と続く予定。
機会がありましたら、ぜひお立ち寄りください。
詳細は下記の通りです。

 
 ◆2012年10月12日(金)~14日(日)
   会場: 岩手県盛岡市/大通会館リリオ
   住所: 〒020-0022 岩手県盛岡市大通一丁目11-8
   時間: 10:00~19:00(最終日18:00まで)
   問合せ先: 019-623-2520

   ※10/13(土) 14:00~ 主催者による挨拶

 ◆2012年10月19日(金)~21日(日)
   会場: 山形県山形市/山形テルサ
   住所: 〒990-0828 山形市双葉町1-2-3 
   時間: 9:00~17;:00
   問合せ先: 026-646-6677

   ※10/20(土) 14:00~ 主催者による挨拶

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山本美香さんのこと

2012-10-05 14:51:46 | 日記
                      『 居眠りノンコに蝶々が kiss 』




今日のY紙朝刊の社会面の中に、「山本美香さんしのぶ会」という記事が小さく載っていた。

“ 山本美香 ”

今となっては、この名前を見てすぐに誰のことか分かる人が、はたしてどれくらいいるだろうか?
「どこかで見たことのある名前だな・・・」とだけ思った方は多いかもしれないが・・・。

まだつい最近・・・と言ってもおかしくない。 
一ト月半ほど前、この名前がTVやラジオから連日幾度となく流れ、新聞各紙の紙面にも目にしない日は無かった。
それがいつの間にか、まったくと言っていいほど表立った場所で見聞きすることが無くなってしまっていた。

8月22日、中東シリアで起きた忌まわしい日本人ジャーナリスト殺害事件・・・。 その犠牲者が、山本美香さんだった。
たまたまなのか? 最初から狙われていたのか?
当初は様々な憶測や情報が伝えられていたが、結局はうやむやのまま・・・。
こういう事件の性質上、きっとその真実が明かされることはないのだろう。

理由は何であれ、同じ人間(地球人)同士が殺し合うという悲しく愚かな行為のせいで、なんの落ち度もない女性や子供を中心とした多くの弱者が犠牲になっている。
その悲劇をなくすために命懸けで現実を伝えようとしたジャーナリストの一人 山本美香さんが命を落した。
そのことだけが、翻すことのできない歴然とした事実としてあるだけ・・・。



何故今になってと思われるかもしれないが・・・。
実はたったの2回だけだが、山本美香さんご本人に会って話をしたことがあった。
それは、“面識がある”というには余りにも短い時間だったが、ジャーナリストとしてではなく、プライベートの素顔の山本さんに接した想い出深いひとときだった。

そのきっかけを作ってくれたのは、私が制作に関わった唯一の絵本『 うさぎのユック 』の原作者 絵門ゆう子 さんだった。
2005年の5月ごろだっただろうか。
その年の初めに無事絵本が刊行され、絵門さんはそれを片手にどこへでも出かけて行き、朗読会、講演会を精力的にこなしていた。 そのかたわら、ご自分の経験を活かして、様々な病気に悩む方々の心のケア、そして医療そのものの新しい有り方までも提言していこうというプロジェクトの起ち上げも計画していた。
その拠点として日本橋にほど近いとあるビルの一角に事務所を構え、私もたびたびそこを訪れることがあった。
その日も絵本関係の打ち合わせがあって、事務所を訪れていた。
「これから一人お客さんが来るの。 素敵は人だから、紹介するね」
そんな絵門さんの言葉に、誰だろう・・・と考える間もなく現れたのが、山本美香 さんだった。
その瞬間、けっして広いとは言えない事務所の中にス~ッと爽やかな風が流れた。
素敵な笑顔の持ち主・・・それが第一印象だった。

お二人もずいぶん久しぶりの再会だったらしい。 お互いの近況やら想い出話やらで、息つく暇もないほど。 もともとは絵門さんのご主人の仕事上の知り合いだったとのことだが、よほど気が合うのだろう。 私にはお二人がまるで旧知の仲か、姉妹のようにさえ見えた。
余りに楽しそうなお二人の様子に、話の内容は全く分からない私までも思わず誘われて笑みを浮かべてしまうくらいだった。
「こんなに可愛い顔して、平気で戦地の取材に行っちゃったりするんだよ。 信じられないでしょう」
おしゃべりの合い間に突然始まった絵門さんの紹介と共に、ご本人から手渡された名刺には“ ジャパン プレス ”という所属先が記してあった。
しかしその時点では、眼の前で子供のようにはしゃいでいる姿と、ジャーナリストとしての顔が一致することはなかった。
小一時間ほど経った頃、山本さんが時計を見て慌てて立ち上がった。
「ごめんなさい、仕事で行かなくちゃ・・・。 また・・・、今度はゆっくり会いましょう」
「うわぁ~~~、残念! また・・・、絶対ね」
お二人が心底残念そうに握手を交わした。
その当時、山本さんがどんなお仕事の最中だったかは知る由もないが、“仕事”を思い出した瞬間にほんの一瞬だけ見えた引き締まった表情が、ジャーナリストとしての顔だったのかもしれない。

「個展のご案内、送ってくださいね」
その言葉に、その後何回かDMを送らせてもらった。 しかし、お会いすることはないまま何年も過ぎた。

翌2006年の4月に、絵門さんが生き急ぐかのように49歳の若さで天国へ旅立ってしまった。
そのこともあって、山本さんとのご縁もあの時一回お会いしたという偶然だけで終わったとしても不思議ではなかった。

しかし・・・、2009年の1月。 
恒例の聖路加個展が始まって何日目だったか・・・、昼時の比較的人通りが多い時だった。
「山中さん! お久しぶりです」
背中越しに掛けられたその声に振り返ると、そこにはあの時のあの素敵な笑顔があった。

そのころにはもうDMを送ることは遠慮していた。 
山本さんがなぜ聖路加病院にいたのかは分からないが、たまたまギャラリーの前を通りかかり、入り口に掲げた私の名前が目に入ったのだろう。
そして、たぶん彼女の記憶の引き出しの隅に辛うじて残っていた私の名前を、嬉しいことに見つけてくれたのだろう。
「絵門さんのこと、残念でしたね。 絵本の第二弾、楽しみにしていたのに・・・」
しばし絵門さんのことを偲び、改めて再会を喜んだ。
ほんの数分の立ち話だったが、本当に嬉しいひとときだった。 
4年前に絵門さんの事務所で感じたあの爽やかな風が、聖路加画廊にも流れた気がした。
「またお会いしましょう! お元気で・・・」
何気なく交わした挨拶が、最後になってしまった。


冒頭の作品『 居眠りノンコに蝶々がkiss 』は、絵本『 うさぎのユック 』のために描いた原画の中の1点。
この作品を含めて小さめな原画数点が、絵門さんの希望もあって、日本橋の事務所に飾られていた。
山本さんと初めて会った時も、壁にはその絵たちが・・・。
「わぁ・・・、可愛い!」
のんびりノンコが羨ましかったのだろうか。
今思い返してみても、そう呟きながら絵を見ていた時のやさしい表情には、いろいろなメディアで紹介された彼女の写真に見られるジャーナリストしての厳しさは無かった。
きっと緊張感の溢れるお仕事の連続で大変な日々が続いていたのだと思う。 
そんな中で、あのほんのひとときだけでも、絵門さんとの何とも楽しそうなおしゃべりと、壁に掛けられた私の絵が、山本さんの心を癒すことができたのだとしたら、それほど嬉しいことはない。



取り留めもなく山本さんとの想い出を書いてみた。
たとえ些細なことでもこうしてしっかり想い出すことで、彼女の45年間の人生に中のほんの一瞬ではあるが、私の中にも山本美香さんという人間が間違いなく、そしてとても印象的に存在していた証になるような気がしたから・・・。

それにしても、2回を併せても1時間にも満たない時間ではあったが、それでも直接言葉を交わしたことのある人があのような形で亡くなったことに、私は改めて深い悲しみと、憤りを感ぜずにはいられない。

山本さんの思いが、どうか世界中の人たちに伝わり、世界が変わってくれますように・・・!
山本さんの死が、これから先、どうかたくさんの命を救ってくれますように・・・!


「あら、もう来ちゃったの? ちょっと早くない・・・」
「絵門さんだって、他人のこと言えないでしょう。 あっという間にいなくなっちゃって・・・」
宙の彼方で・・・、そんな会話を交わしながら、またあの時のように楽しそうにおしゃべりをするお二人の姿が目に浮かぶようだ。

改めて、山本美香 さんのご冥福を心よりお祈りいたします。
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