元気の源

猫が大好き、動物が大好きな、パステル画家・山中翔之郎のブログです。

さらば ボザール・ミュー!

2013-06-29 12:12:15 | 日記


明るくさらっとお伝えしようと、こんな映画のようなタイトルを付けて書き始めたけれど・・・、心の中では土砂降りの雨が降り続いている。

絵描きとしての私の故郷 ボザール・ミュー が、猫専門ギャラリーの草分けとして築き上げてきた28年間に及ぶ歴史の幕を閉じる。

もう15年近く前になる。
1998年の秋、何の知識も情報もないままぶらりとボザール・ミューを訪れ、その扉を開いた。
ギャラリー内は段ビール箱が散乱し、飾り掛けと思われる何点かの額に入った絵が壁に立て掛けられてあった。
“ 常設展 ”ということだったが、実際にはギャラリー内の整理、次の展示の準備期間だったらしい。
一瞬戸惑い、そのまま後ずさりしてドアを閉めようかと思った。
ドアの取っ手につけられた小さな鈴が、なぜか大きな音を鳴らして響いた。
「は~い!」
ギャラリーの奥から、澄んだ声だけが聞こえてきた。
そしてゴソゴソと段ボール箱を動かすような音と共に、壁からニコッと微笑みを浮かべた顔が現れた。
宮地オーナーに初めて逢った瞬間だった。
ギャラリ-内の状況を見て失礼しようとした私に、宮地オーナーが声を掛けてくれた。
「ちょっと散らかっているけど、せっかくいらしたのだから、どうぞ・・・」
それから30分ほどだったか、何やら得体の知れない私を相手に、宮地オーナーは嫌な顔一つせず、色々な話をしてくださった。
まだその時は絵の世界に飛び込むことなど考えてもおらず、現在の自分の姿を思い描くことなど全くできなかったのに・・・。

あの日から・・・、あっと言う間の15年間。
22回の個展を開いていただき、様々な企画展にも参加させてもらった。
自分の描いた絵を見て、笑い、喜び、時には涙してくれる・・・そんなたくさんの方々との素晴らしいご縁をいただいた。
いつもやさしく・・・、時に厳しく・・・、ボザール・ミューという空間で過ごした宮地オーナーとの時間は、永遠に私の宝物だ。
宮地オーナーはご高齢ということで勇退されるが、きっとこれからもいろいろな形で、これまで通りに・・・、いやこれまで以上に、やさしさと厳しさ両方を持った目で見守ってくださると信じている。

宮地さん、本当にお疲れ様でした!
ボザール・ミュー、ありがとう!


明日6月30日、現在開催されている 一瀬尚美さんの個展最終日と共に、ボザール・ミューもその幕を下ろす。
私もその最後の数時間を、ボザール・ミューを愛する仲間たちと共に同じ空間で過ごそうと思っている。
語り尽くせぬほどの想い出に浸りながら・・・。 
そして、新たな門出に希望を抱きながら・・・。

さらば ボザール・ミュー
コメント (2)
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“ 小さな命展 2 ” 台湾へ

2013-06-25 22:31:06 | 展示会
“ 震災で消えた小さな命展 2 ”が今日25日から台湾で開催されています。

震災時にはいち早くあたたかい援助の手を差し伸べてくれた台湾でこの展覧会が開催されることは、大きな大きな意味があると思います。
絵を描くということだけでしか参加できないことが何とも心苦しいです。

代表の絵本作家 うさ さんは今回も現地でご覧くださる方々をお迎えするとのこと。
本当にお疲れ様です。
うさ さんの思いは、きっと台湾の方々にも伝わると信じています。
遠くからですが、応援しています。

台湾へご旅行の予定がある方は、ぜひ会場にお立ち寄りください。
そして台湾にお知り合いのいる方は、この展覧会のことをお知らせいただきますように・・・!


詳細は下記の通りです。


  ◆2013年6月25日(火)~7月7日(日)
 会場:  台湾/新光三越(台南中山店) 13階文化会館
 住所:  台南市中山路162号
 時間:  11:00~22:00
 入館料: 無料
 電話: 日本から → 010-886-976355997(うさ)
      台湾から → 06-2224313(新光三越5階/涵芸術空間)
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ゆっくりと・・・

2013-06-15 03:08:01 | My Works -うさぎのユック-
               『 ゆっくりと・・・ 』


前回と似ているタイトルになった。
“かたつむり”繋がりで、何とも懐かしい・・・、そしてちょっぴり寂しい気持ちになる想い出を、この絵が蘇らせてくれた。


2004年9月某日、私は日本橋茅場町のとあるビルの一室で、絵本『 うさぎのユック 』制作の打ち合わせをしていた。
メンバーは私のほかに二人。 
一人は出版元の金の星社の編集者 H さん。 そしてもう一人は、原作者の絵門ゆう子さんだった。
本文の絵についてはまだ全く描き始めていなかった。 それどころか、本文そのものの検討すら終わっていないという状況。
しかし、刊行予定までの日数が限られていたこともあり、表紙と裏表紙に使う絵だけでも・・・という要請を受けていた。
表紙の絵は、絵門さんの大のお気に入りで、私が絵を担当させてもらうきっかけにもなった『決意』(↓)と決まっていた。 これはだいぶ前になるが、2010年12月29日のブログでも既にご紹介している。


                 



 
そして裏表紙には、そのために描いた『 みんな揃って・・・』が・・・。 この絵についてのエピソードも既に2011年7月28日にご紹介してあるので、ぜひご覧いただきたい。

             



その日の打ち合わせで必要な絵は、その2点だけだった。
しかし、私が持って行ったイラストケースの中にはもう1点入っていた。
それが『 ゆっくりと・・・』だった。

「あなたの名前は、ゆっくりのユック」
本文にもある通り、この絵本の主人公のウサギにつけられた“ユック”という名前は、“ゆっくり”という言葉から生まれたものだった。
そしてその時の私の頭の中で、“ゆっくり”という言葉から浮かんだのは・・・かたつむり だった。

実は本文には かたつむり が登場する場面は無い。
しかし、主人公の“ユック”という名前と、その名前の元になった“ゆっくり”の象徴ともいえる かたつむり を一つの絵の中に描いてみたいという気持ちを消すことができなかった。

「本文とは関係ないのですが・・・、こんな絵も描いてみました」
不採用を覚悟で、恐る恐る『ゆっくりと・・・』を二人の前に出して見た。
その瞬間、絵門さんの目がきらっと光ったように見えた。
ほんの数秒その絵を両手で持って目の前にかざした後、こんな言葉が飛び出した。
「この絵、使いたい!」
静かな・・・、しかし強い口調で語られた絵門さんの思いを、絵本づくりのプロである H さんが叶えてくれた。
当初は特に予定のなかった、表紙の見返し部分に折り込まれたカバーの“そで”と呼ばれる部分に、『ゆっくりと・・・』が使われることになった。

素敵な絵本に!

その場に居た三人が同じ思いを共有し、その思いが新たな一つの形になった。



当たり前であるかのように生きていることが実はどれほど素晴らしいことなのか、それを多くの人たちに、ゆっくり、ゆっくり伝えようとしていた絵門さん。
それなのに・・・、当のご本人はあまりにも早く人生を駆け抜けて逝ってしまった。

改めて絵本を手に取ってみる。
その表紙をめくると、当たり前のことだが、『ゆっくりと・・・』がある。
「あのときの情熱を想い出して・・・。 ゆっくりでいい・・・。 今度は山中さんらしい絵本を描いて!」
ジッと かたつむり を見つめるユックの瞳の奥で、絵門さんがそう語りかけているような気がした。

私らしい絵本・・・。
絶対に・・・描く!
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ゆっくり ゆっくり

2013-06-08 16:44:01 | My Works -ノラ猫たち-
          『 ゆっくり ゆっくり 』


前回からの“ かたつむり ”繋がりで、もう一点。

今回の絵に登場している黒猫は、これまでに何回かモデルになってもらったことのある深川あたりが根城のノラ猫。
まさにこのような状況に出くわしたことがあった。
いつもはド~ンとしていてボス気取りなのだが、この時ばかりはいつもの威厳は何処へやら・・・といった様子。
自分(黒猫)の存在に気付いているのか、いないのか???
スピードを上げることもなく、ゆっくりゆっくりと進み続けるその姿に、興味はそそられるがちょっと不気味だな・・・という顔をして、結局手を出すこともないまま姿が見えなくなるまでじっと目で追うだけだった。
その様子がとにかく可笑しくて、見ているこちらの方が笑いを堪えるのに苦労したっけ。

この絵をお求めくださった S さんは歯医者さん。
地域柄か子供の患者さんが多いとか。
当然のことだが、歯医者さんが好きな子供なんているはずがない。
そこで待合室の壁には、今にも泣き出しそうな子供たちの気持ちを少しでも紛らわすことができるようにと、子供たちが好きそうな絵を掛けてあるとのこと。
この『 ゆっくり ゆっくり 』も、その中の一つに入れていただいた。
後日聞いた話では結構子供たちからの受けがよく、その人気を集めたのは、黒猫ではなくかたつむりの方だったとか。
「 猫の方が喜ばれると思っていたのに・・・。 子供の気持ちは読めないな 」
S さんのご報告を聞きながら、かたつむりに人気を奪われた黒猫の気持ちを想像してみた。
いつもの威厳に満ちた顔を思い浮かべ、子供たちの反応を報告することは止めにした。

しばらく会っていないが、今も元気に威厳を放っているだろうか。
それとも、いまだに かたつむり は苦手なのかな・・・。
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ガラス越し

2013-06-04 11:52:46 | My Works -我が家の元さん-
                         『 ガラス越し 』



前回に引き続き、今回も “ 雨 ” の季節を意識して描いた作品のご紹介。

縦 50cm、幅 20cmという作品サイズは、前回取り上げた『 雨上がり 』と同じで、初出品の時は並べて展示をした。

『 ガラス越し 』というタイトルと、肉球についた丸い線で、この状況は理解していただけると思う。
元さんには二作とも脇役になってもらった。

窓ガラスを挟んで、どんなにガリガリ・パシパシされても、泰然自若の態でゆっくりと滑るように進み続ける かたつむり君。
実はハラハラドキドキしながら、急ぎたくてもこれ以上急げない・・・のかもしれないが???
たとえそうであっても、心の内を表に出すことなく(?)、マイペースに見えるところが凄い!
ちょっと見習いたいな・・・。

そう言えば、ここ数年 かたつむり の姿を見ていないような気がする。
実際に数が減っているということがあるのだろうか?
むしろ、私自身に かたつむり の気配を感じるまでの心の余裕がないということかな?
ノラ猫の姿は見逃さないのだが・・・。

今日も梅雨の晴れ間で陽の光がまぶしい。
しかし、このまま空梅雨で真夏が訪れるとは思えない。
いずれ雨模様の毎日が続くようになったら、大き目な傘をさして、かたつむり に会いに出かけよう!
心の中をまっさらにして・・・。
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雨上がり

2013-06-03 15:34:49 | My Works -我が家の元さん-
                          『 雨上がり 』


例年よりも早い梅雨入り宣言が出されたと思ったら、ここ数日は気持ちのよい青空が広がって・・・。
まあ、よくあることかな。

入梅の声を聞いて思い浮かぶものの一つが・・・紫陽花。
そしてもう一つ、雨のあとには付きものの・・・かたつむり。
この二つを一緒に描いたことがある。
それが今回ご紹介する『 雨上がり 』。

雨上がりの紫陽花の葉でゆっくり動くかたつむり。 そしてそれをじっと見つめる元さん。
そんな場面が頭に浮かび、何とか作品にしたいといろいろ構図を考えた。
元さんは外に出たことが無かったので、こういう状況は頭の中で想像するしかなかった。
何枚もデッサンを描き、最終的に落ち着いたのがこの縦長だった。
縦長の中央に思いきり空間を作り、その距離の中に元さんの好奇心を込めた。

けっこう苦労したのが、元さんの見上げる顔。
「 元さ~ん、ちょっとおいで・・・ 」
優しげな声で呼ぶと、微妙な間をおいてどこからともなく元さんが姿を現す。
「 何だよ、気持ちよく寝てたのに・・・」とでも言いたげな仏頂面だが、(もしかしたらご飯???)という期待も・・・。
そんな元さんの思いはお構いなしに、ほとんど無理矢理に顔をあちこち向かせて、これぞと思う角度から見た顔を確かめた。
(いい加減にしろ!)とばかりに、強烈な猫パンチを何発食らったことか・・・。

梅雨時は・・・、みみず腫れになった痛みと共に、元さんの猫パンチをなつかしく想い出す。
コメント (2)
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