元気の源

猫が大好き、動物が大好きな、パステル画家・山中翔之郎のブログです。

うさぎのユック (2013 再び)

2013-12-26 11:48:03 | My Works -うさぎのユック-
               絵本『 うさぎのユック 』 金の星社 刊
               表紙絵『 決意 』  



年の瀬になると、あの日のことが蘇ってくる。

2004年12月29日・・・。
その日は朝から雪が降っていた。
私にとって初めての、そして今のところは唯一の絵本『うさぎのユック』の朗読コンサートが、その日の午後に築地聖路加病院のチャペルで開かれた。

それから遡ること3年近く・・・、2002年1月に聖路加画廊で個展を開いていた私は、酸素ボンベを引っ張りながら展示された猫の絵を熱心に見入っている一人の入院患者さんと言葉を交わした。 その人が後の 絵門ゆう子 さん、『うさぎのユック』の原作者だった。

その偶然の出逢いから始まり、数えられないほど多くの、今にして思えば奇跡とも言えるような更なる偶然の積み重ねの末、絵本『うさぎのユック』は完成した。
そしてこの表紙に使われた『 決意 』は、私がこの絵本制作に参加することになった大きな大きなきっかけを作ってくれた、まさに奇跡の一作なのである。


ご存知の方もいると思うが、絵門ゆう子さんはNHKのアナウンサーとして、更には女優としても活躍された華々しい経歴を持っている。 
その後絵門さんが乳がんを患い、どのような経路で聖路加病院に入院することになったのか・・・。 その詳細はあえてここでは触れずにおく。 
彼女がそのような大変な経験をしたのは本当に悲しいこと・・・。 しかし、それが大きなきっかけとなって絵本『うさぎのユック』誕生につながっていったのも紛れもない事実だった。
時には苦しみ、また時には悩みながらも、現実と真正面から向き合い、自らの運命をしっかりとみつめ続けた末に生まれた、大きな素晴らしい結果の中の一つなのだ。
たとえ僅かでもそのお手伝いをできたことは、私にとって誇りであり、決して忘れることのできない大切な想い出になった。


絵本となった『うさぎのユック』の初披露となった9年前のその日・・・。
コンサートが始まる15時過ぎになっても、聖路加病院旧館の正面に広がっている芝生は、朝から降る続けた雪にすっかり覆われ、まさに白銀の世界になっていた。
それはまるで、絵本の主人公である5匹の真っ白なうさぎの兄妹を象徴しているかのようだった。
雪模様の寒い中にもかかわらずチャペルの席をいっぱいに埋めた人たちの前で、絵門さんは雪の結晶の野用にキラキラと輝きながら『うさぎのユック』を朗読していた。
絵門さんが天国に旅立ってから既に7年半・・・。 しかし、あの日の絵門さんの姿、そして溢れんばかりの笑顔は、私だけでなく彼女を知る人たち全ての心の中でいつまでも消えることなく輝き続けると信じている。


ユックが教えてくれた“命の大切さ” “生きていることの素晴らしさ”を改めて胸に、これからも一日一日を、一瞬一瞬を、精一杯生きていきたいと思う。
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ゆっくりと・・・

2013-06-15 03:08:01 | My Works -うさぎのユック-
               『 ゆっくりと・・・ 』


前回と似ているタイトルになった。
“かたつむり”繋がりで、何とも懐かしい・・・、そしてちょっぴり寂しい気持ちになる想い出を、この絵が蘇らせてくれた。


2004年9月某日、私は日本橋茅場町のとあるビルの一室で、絵本『 うさぎのユック 』制作の打ち合わせをしていた。
メンバーは私のほかに二人。 
一人は出版元の金の星社の編集者 H さん。 そしてもう一人は、原作者の絵門ゆう子さんだった。
本文の絵についてはまだ全く描き始めていなかった。 それどころか、本文そのものの検討すら終わっていないという状況。
しかし、刊行予定までの日数が限られていたこともあり、表紙と裏表紙に使う絵だけでも・・・という要請を受けていた。
表紙の絵は、絵門さんの大のお気に入りで、私が絵を担当させてもらうきっかけにもなった『決意』(↓)と決まっていた。 これはだいぶ前になるが、2010年12月29日のブログでも既にご紹介している。


                 



 
そして裏表紙には、そのために描いた『 みんな揃って・・・』が・・・。 この絵についてのエピソードも既に2011年7月28日にご紹介してあるので、ぜひご覧いただきたい。

             



その日の打ち合わせで必要な絵は、その2点だけだった。
しかし、私が持って行ったイラストケースの中にはもう1点入っていた。
それが『 ゆっくりと・・・』だった。

「あなたの名前は、ゆっくりのユック」
本文にもある通り、この絵本の主人公のウサギにつけられた“ユック”という名前は、“ゆっくり”という言葉から生まれたものだった。
そしてその時の私の頭の中で、“ゆっくり”という言葉から浮かんだのは・・・かたつむり だった。

実は本文には かたつむり が登場する場面は無い。
しかし、主人公の“ユック”という名前と、その名前の元になった“ゆっくり”の象徴ともいえる かたつむり を一つの絵の中に描いてみたいという気持ちを消すことができなかった。

「本文とは関係ないのですが・・・、こんな絵も描いてみました」
不採用を覚悟で、恐る恐る『ゆっくりと・・・』を二人の前に出して見た。
その瞬間、絵門さんの目がきらっと光ったように見えた。
ほんの数秒その絵を両手で持って目の前にかざした後、こんな言葉が飛び出した。
「この絵、使いたい!」
静かな・・・、しかし強い口調で語られた絵門さんの思いを、絵本づくりのプロである H さんが叶えてくれた。
当初は特に予定のなかった、表紙の見返し部分に折り込まれたカバーの“そで”と呼ばれる部分に、『ゆっくりと・・・』が使われることになった。

素敵な絵本に!

その場に居た三人が同じ思いを共有し、その思いが新たな一つの形になった。



当たり前であるかのように生きていることが実はどれほど素晴らしいことなのか、それを多くの人たちに、ゆっくり、ゆっくり伝えようとしていた絵門さん。
それなのに・・・、当のご本人はあまりにも早く人生を駆け抜けて逝ってしまった。

改めて絵本を手に取ってみる。
その表紙をめくると、当たり前のことだが、『ゆっくりと・・・』がある。
「あのときの情熱を想い出して・・・。 ゆっくりでいい・・・。 今度は山中さんらしい絵本を描いて!」
ジッと かたつむり を見つめるユックの瞳の奥で、絵門さんがそう語りかけているような気がした。

私らしい絵本・・・。
絶対に・・・描く!
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みんな揃って・・・

2011-07-28 18:05:59 | My Works -うさぎのユック-

この絵をご存知ですか…?


2002年冬の聖路加個展中に、当時入院中だった絵門ゆう子さんと出逢った。 それがきっかけとなり、のちに絵門さんから素晴らしいチャンスをいただいた。
自ら朗読をするために彼女自身が書いた物語が絵本化されることになり、その絵を描くという大役をやらせてもらうことになったのだ。

それよりも更に数年前のこと。 絵門さんがこの物語を書くきっかけになった一人の少女がいた。 
小児がんを治療している子供たちを励ますために訪れた病院で、絵門さんとその少女 真由ちゃんは出逢い、二人はある約束をした。
「私が物語を書くから、真由ちゃんが絵を描いてね」
真由ちゃんはその約束を励みに、白血病と闘うつらく厳しい治療にも耐えていたに違いない。

2004年の初秋、いよいよ絵本化が現実のものとなり、その制作に向けた様々な動きが始まった時、私は絵門さんからこんな言葉を受け取った。
「真由ちゃんの思いも一緒込めて描いてください」と。
それが私にとって大きなプレッシャーになったことは言うまでもない。 
私はまだ一度も会ったことのない真由ちゃんに手紙を書いた。 
「真由ちゃんが楽しみにしていた絵を、私が代わりに描きます。 真由ちゃんの分まで心を込めて一所懸命に描くから、どうか許してね」
その後しばらくして、真由ちゃんの骨髄に適合するドナーが見つかり、移植手術成功の知らせが届いた。
絵門さん始め、関係者全員が大喜びしたことは言うまでもない。 そしてその知らせが大きな力となり、翌2005年の年明け早々に、絵本『うさぎのユック』は刊行された。


さて、文頭の質問について…。
『うさぎのユック』の絵本を手にされたことのある方は、おそらく全員が「絵本の裏表紙の絵」と答えるだろう。 しかし、答えは「×」
この絵を見たことのある人はいないから…。 さらに、この絵はもう存在していないから…。
実際に絵本の裏表紙に使われた絵はこちら ↓

            
                  『 みんな揃って…』 絵本「うさぎのユック」より

よ~く見ていただければわかると思うが、向かって左から2番目のウサギの表情が違う。
このコの名前は、のんびり屋の“ノンコ” いつものんびりして、あくびばかりしているけれど、実は大切なことをちゃんとわかっている…というキャラクター。
最初に描いた絵では、ノンコを笑顔にした。 おんなのコだし、あくび顔では可哀想な気がして…。
しかし、何度見直してもしっくりこなかった。 いわゆる、“…らしく”ないのだ。 やはりノンコにはあくびが何よりも似合っていた。
そこで思い切って描き直した。 ノンコの顔の部分だけを白く塗りつぶして…ということはできずに、一作丸々新しく…。 単なる絵描きとしてのこだわり…と言ってしまえばそれまでだが。
結果的に最初に描いた絵は、陽の目を見ることもないまま私の手元に残されることになった。


絵本が刊行された年の春には、真由ちゃんが学校に通い始めたという嬉しい知らせが届いた。 絵門さんも私も、二人のサインを書き入れた絵本を持って、早く真由ちゃんに会いに行きたいと思っていた。
しかし、その嬉しい知らせからいくらも経たないうちに、思いもよらぬ悲しい知らせが…。
白血病が再発してしまったのだ。
その病気に関して無知な私は、骨髄移植さえすれば完治するものと信じ切っていた。

7月13日、真由ちゃんは14歳という若さで天国へ旅立った。
その二日後、私は真由ちゃんにお別れをするため、ご自宅のある焼津へ向かった。 その手に、ずっと私の手元に置いたままになっていた例の原画を持って…。
初めて会うのがお別れの時だなんて、あまりに悲しすぎた。 何も考えられない頭の中に急に浮かんだのがにっこり笑顔のノンコだった。 そしてその時になって初めてサインを入れた。 一つの完成した作品として真由ちゃんにあげるのだから…。
「真由ちゃんと一緒に棺の中に入れてあげてください」
そう言って、驚いた表情のお母さんにその絵を手渡したとき、絵の中の5匹兄弟姉妹と、まるで眠っているかのような真由ちゃんが、一瞬微笑んだように見えた。


あれから早や6年という月日が過ぎた。 
真由ちゃんが亡くなってから一年も経たないうちに、絵門さんも天国へ行ってしまった。それでも二人が残していってくれた素晴らしいご縁はしっかりと繋がっていて、真由ちゃんのご家族、そして絵門さんのご主人といまだにお付き合いをさせてもらっている。

今週末、焼津に行く。 
毎年、「今年こそ…、今年こそ…」と思いながら、七周忌を過ぎて、やっと初めてお墓参りに行くことになった。
なかなか行けなくて、ごめんね。
真由ちゃんとどんな話ができるか…、楽しみだ。
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うさぎのユック

2010-12-29 14:14:47 | My Works -うさぎのユック-
            絵本 『うさぎのユック』 (文/絵門ゆう子 絵/山中翔之郎 金の星社刊)

ここ数年、この時期になると必ず思い出すことがある。

2004年12月29日・・・。
今日の晴天とは正反対に、その日は朝から雪が降っていた。
私にとって初めての、そして今のところは唯一の絵本『うさぎのユック』の朗読コンサートが、その日の午後に築地聖路加病院のチャペルで開かれたのだ。

それから遡ること3年近く・・・、2002年1月の聖路加画廊における個展中に、私は酸素ボンベを引っ張りながら私が描いた猫の絵を熱心に見入っている一人の入院患者さんと言葉を交わした。 その人が後の 絵門ゆう子 さん、『うさぎのユック』の原作者だった。

その偶然の出逢いから始まり、数えられないほど多くの、今にして思えば奇跡とも言えるような更なる偶然の積み重ねの末、絵本『うさぎのユック』は完成した。


ご存知の方もいると思うが、絵門さんはNHKのアナウンサーとして活躍された華々しい経歴を持っている。 その絵門さんがどのような経路で聖路加病院に入院することになったのかはあえてここでは触れずにおく。 
ただ、彼女がそのような経験をしたことがよかったなどとは決して思わないが、それが大きなきっかけとなって絵本『うさぎのユック』誕生につながっていったのは紛れもない事実。
時には苦しみ、また時には悩みながらも、現実と真正面から向き合い、自らの運命をしっかりとみつめ続けた末に生まれた、大きな素晴らしい結果の中の一つなのだ。
たとえ僅かでもそのお手伝いをできたことは、私にとって決して忘れることのできない大切な想い出となった。


絵本となった『うさぎのユック』の初披露となった6年前の今日・・・。
雪模様の寒い中にもかかわらずチャペルの席をいっぱいに埋めた人たちの前で、絵門さんはキラキラと輝きながら『うさぎのユック』を朗読していた。
絵門さんが天国に旅立ってから既に4年半・・・。 しかし、あの日の絵門さんの姿、そして笑顔は、彼女を知る人たちの心の中でいつまでも消えることなく輝き続けることだろう。


奇しくも来年の干支は卯・・・うさぎ。
ユックが教えてくれた “命の大切さ” “生きていることの素晴らしさ” を改めて胸に、大いに飛躍したいと思っている。

みなさま、どうかよいお年をお迎え下さい!

             

              『明日にむかって』 (絵本「うさぎのユック」最終ページ)



ご参考までに・・・、絵門ゆう子さんのホームページ→「 ゆっくり生きよう 」
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