元気の源

猫が大好き、動物が大好きな、パステル画家・山中翔之郎のブログです。

オダリスク

2011-05-22 19:13:30 | My Works -個性派たち-
1999年春に制作した極初期の作品。 その年の7月に開いた第一回目の個展出品作のうちの一つという、実に懐かしい作品である。
このコを見ていたら、アングルの名作「グランド オダリスク」が頭に浮かんできた。 単純だが、タイトルはそんな理由から・・・。

今回この作品をご紹介する気になったのは・・・、先日まで横浜山手で開催されていた“猫の展覧会”で、このコの飼い主Yさんと久し振りにお会いしたことが大きなきっかけになった。
けっして大袈裟ではなく、Yさんとそのご両親との出逢いがなければ、絵描きとしての今の私は居なかったかもしれない。


1998年の今頃、私は頚椎の手術をして二ヶ月近くに及ぶ入院生活をしていた。 その二ヶ月を過ごした6人部屋の先輩患者(?)の中にYさんのお父上Aさんがいた。 詳しい病状は分からなかったが、車椅子で人工透析に向かうその足の先はすでに切断されて無かった。 
「傷の治りが悪くて毎日消毒すんだけど、それがとても痛くてねぇ・・・」
そんなことを言いながらも、私とおしゃべりをする時のAさんはいつも笑顔だった。 優しい語り口とその笑顔が、本来なら辛いはずの入院生活の中で、私の心をどれほど癒してくれたことか・・・。
今思い返してみてもはっきりとした理由は分からないのだが、Aさんは30歳も年下の私を慕ってくれた。(・・・と思う)
首にはギブスをしたままだったが、幸い歩くことに支障のなかった私がAさんの車椅子を押し、天気のいい日には病院を抜け出して近くの公園でひなたぼっこを楽しんだりもした。
何気無い会話を交わしながら、気持ち良さそうに煙草をくゆらすAさんをスケッチする時間は、二人とも自分たちの病気のことを忘れていたのかもしれない。
毎日のようにお見舞いに見えるYさんとお母さん(当然Aさんの奥さん)とも、知らず知らずのうちに親しくなっていった。 ご一家揃って大の猫好きだったことも大きな理由だったのかもしれない。
私の方が病室の出入り口に近いこともあってか、あるときお見舞いにみえた奥さんがAさんよりも先に私の方へ・・・。 ちょっとばかり慌てる私などお構い無しに話し続ける奥さん。 その肩越しに、ニコニコ優しく目を細めて私たちを見ているAさんのいつもの笑顔があった。

やがて私が先に退院し、自宅療養中に我が家の元さんだけでなく、Yさんからお預かりした写真をもとにしてA家の猫の絵を描いたりしていた。
2ヶ月ほど経った夏の終わりにはAさんも退院。 秋には入院中にお世話になったお礼とお見舞いを兼ね、ご自宅へ伺うことにした。 手には厚かましくもA家の猫の絵を持って。 そして・・・、
「わぁ、素敵!」
ご一家皆さんの歓声と笑顔が、私に大きなきっかけを与えてくれた。

しかし、翌年の正月早々、Aさんはご家族も驚くほど急に帰らぬ人となった。
もっともっといろいろお話をしたかったのに・・・。
しかし、Aさんからいただいた素敵なご縁はその後も変わることなく、奥さん、Yさんはもちろん、さらにその輪が広がって、皆さんからあたたかい励ましをいただくことになった。

2月には、のちのち私のホームグラウンドとなるボザール・ミューの企画展に初めて出展。 さらに7月には、冒頭にも記した初めての個展を開くことになった。
「どうぞ、うちのコをモデルに使ってください」とYさんからお預かりした写真の中に、『オダリスク』のモデルになったチンチラゴールドのレオンくんが居た。
猫離れ(?)した不思議な雰囲気に惹かれ、レオンくんをモデルに5作を描いた。 そのうちの4作は、個展中も含め、その後数年のうちにそれぞれ新しいご主人のもとでお世話になることになった。 
しかし、『オダリスク』だけは今も私の手元にある。


あれから12年余りが経った。
いつも精一杯のつもりでも、もしかしたら大切な何かを見失っていることがあるかもしれない。
『オダリスク』は、そのことを思い出させてくれるために私のもとに居るのかもしれない。
Aさんがくれたとびっきり素敵な笑顔、そして奥さん、Yさん、Yさんのご主人からいただいたあたたかい励ましの数々・・・。 その一つ一つがすべて今の私に繋がっている。
そう思うと、この12年間に出逢ったすべての人たち、そしてその皆さんからいただいた叱咤激励のどれ一つが抜けても、絵描きとしての今の私は存在しないのだと思う。
初心に帰る・・・と言葉にすれば簡単だが、実はとても重く大変なことなのだと改めて感じる。
久し振りの再会は、そんなことを思い起こさせてくれる不思議な力を持っているのかもしれない。

今改めて自分に言い聞かせたい。
初心忘れるべからず・・・と。
コメント (2)
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