形之医学・しんそう療方 小石川院長 エッセー

昭和の頃、自然と野遊び、健康と医療のことなど。

神泉村(1)・廃屋

2012-08-28 12:43:08 | Weblog

二十数年前、埼玉県の神泉村に、友人達と家を借りた。 
その頃ブームになり始めた、" 田舎暮らしの本 "で見つけた家だった。 
1年分の家賃がたったの1万円。
あまりの安さに少し不安があったが・・・・

神泉村は埼玉県北西部にある村で、近くに群馬県と埼玉県を分ける
神流(かんな)川がある。 その上流には神流湖があり、城峯公園の
冬桜はよく知られている。

窓口になっている役場に問い合わせてみると、過疎化がすすむ村興しの
ために、役場が中心になってやっているという話だった。 
他にも村の物件を雑誌の中でいくつも紹介していた。 みんな安い家賃
だったが、その家だけ、どういうわけか飛び抜けて安い。

この物件を問い合わせると、本で広く紹介されている格安物件なのに、
まだ大丈夫ですよ!  という。 ますます怪しい。 
でも役場で扱っているんだからと、役場の人と見に行く日時を打ち合わせ、
友人数人と車で見に行った。 神泉村そのものは、静かな山あいの村で、
とてもいいところだった。

打ち合わせた日、そこで案内係りの人が運転する車に乗り換え、家を見に
行った。 途中、遠回りして村自慢の所をあちこち案内してくれた。


その車の中で・・・・

「ずいぶん安いけど・・・・ 
 何かイワクのある家、なんていうじゃないんだろうね?」
「まさか、役場でそんな物件の紹介しませんよ~」 
(そうだよな、役場だもんな。 ホッとして友人と顔を見合わせた。)
「見ればわかります」 
「見ればワカル~??  ・・・・・・
 
 屋根がないとか?
 壁に寄りかかったら、そのまま倒れるとか・・・・
 歩くと床が抜けるとか・・・・ 」
「アッハッハッ、そんなにひどくないですよ~! 」
「そんなに・・・・ ヒドくない?・・ でも近い? 」
「見ればわかります」 

車は村外れの山の麓の、まばらに4、5軒の集落のある所に着いた。
車を降り、坂を少し登るとその家があった。
見てすぐなぜ1万円なのかわかった。

ずっと人が住んでいないそうで、ほとんど廃屋に近い家だった。 
木枠のガラスの引き戸を開けて中に入ると、すぐ目の前に10畳ほどの
部屋があり、真ん中に囲炉裏が切ってある。 じつはこの家、もともと
この一部屋しかなかったらしい。 ここで家族が飯を炊き、ここで食べ、
寝ていたのだ。

天井板はなく、黒ずんだ梁はそのままむき出しになっている。
昔よくあった古い田舎の家である。 雨漏りはそれほどしない(!)
そうだが、 土壁が崩れて隙間だらけの木の床に、粉のように
薄っすら土が積もっている。 築6、70年以上はたっているだろう。 
家族連れが見たらまず借りっこないような家だった。

救いはこの部屋の奥に増築されたという、4畳半の部屋がついていること
だった。 こちらは囲炉裏の部屋よりはずっと新しく、押入れの付いた
畳の部屋でそのまま使えそうだった。 よくおぼえていないが、風呂は
ないか、壊れていて、村の民宿で有料だが使わせてくれるらしい。

持ち主は村の別のところに住んでいて、数年のうちに取り壊す予定だから、
どこをどうしようが勝手にしていいという。 これは男ばかりで行ったから、
大いに魅力的な話だ。 普通の家を借りるより、かえって面白そうで、
みんな大喜びですぐ借りる契約をした。 

「梁にロープを掛ければ、ブランコが作れる。 子供たちが喜ぶぞ~」
「あの囲炉裏で釣った川魚を焼いて、酒を飲んだらうまいだろうな」
などなど。

東京に帰ってから、他の友人たちにもこんなだったと声をかけたら、
結局10人ぐらいが集まった。 そして田舎暮らしの楽しい準備が
始まった。

-続く-                
        

からだの形は、生命の器
形之医学・しんそう療方 東京小石川
http://www.shinso-tokyo-koisikawa.com/



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