二十年ほど昔、東京から千葉県に引っ越してきてまもない頃、
家の裏手の草むしりをしていた。 少しすると、手のひら一面が、
まるで細かいガラス片でも刺さったかのように、痛みだしてきた。
じゅくじゅくする非常に不快な痛みだった。 見えないようなトゲでも
刺さったかと思い、家に入って虫メガネで手のひらを見たが何もない。
手を何回洗っても痛みは消えず、不思議な思いで図鑑で調べてみた。
痛みの原因はこのイラクサだった。 引き抜いていた雑草の中に、
イラクサが大量にあり、それを知らずに素手でつかんでいたのだ。
痛みは半日以上続いた。
イラ(棘)とはトゲのことをいう。 トゲといってもバラのような見える
トゲではない。 この草の葉は極微の刺毛に覆われていて、そのトゲは
中が中空になっているらしい。 そしてまるで注射のように、アレルギー反応を
おこすヒスタミンや、神経に作用する物質が注入され痛むそうだ。
中国ではイラクサを蕁麻といい、蕁麻疹(ジンマシン)という名前は、
この草に触れて腫れた状態に似ているところからきているという。
驚いたことに生薬に入っている。
この野草は山菜として有名な、ミヤマイラクサ(深山棘草)と同じ
仲間のものだ。 ミヤマイラクサのほうは、私の生まれた東北地方
ではアイコと呼ばれ、クセのないうまい山菜である。
ミヤマイラクサは深い山に出ているが、イラクサのほうはどこにでも
生えている。 両方とも半日陰のところに群生していることが多く、
多年草である。 決して毒々しいような野草ではなく、葉は見ての
とおりシソの葉によく似ている。 以前書いたオドリコソウの葉が、
イラクサによく似ていて、同じような場所を好むのか、混じっている
ことも多い。 なので踊り子草も花が咲いて確かめられるまでは、
怖ろしくて触れない。
イラクサもアイコと同じように、茹でると刺毛がとれて食べられる
そうだ。 食べられるのかもしれないが、あのときのいつまでも
続く痛みが忘れられず、城跡公園に沢山出ているが、採って食べる
気がしない。 軍手では刺毛を通すそうだから、ゴム手袋をつけて
採ればいいようだが・・・・ つまり、コリゴリしちゃったのだ。
からだの形は、生命の器
形之医学・しんそう療方 東京小石川
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