Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§40「魔の山」 トーマス・マン, 1924.

2015-10-03 | Book Reviews
 現世と隔絶されたかのような高原の療養所が舞台。常に生と死に向き合わざるをえない人々の物語。

 就職前のほんの数週間の静養を兼ねて、従兄弟のヨーアヒムを見舞うために訪れたつもりのハンス・カストルプが経験する約6年の歳月。

 ヨーアヒムが病を圧して、軍人としての義務と責任を負うために復員し、病に打ち克てず命を落とす時も然り。クラウディアを想うハンス・カストルプが彼女のレントゲン写真を抱き締める時も然り。また、イエズス会のナフタとフリーメーソンのセテムブリーニ相反する思想を闘わせる時も然り。

 自らのなかで、生への不条理と死への渇望とが平衡するとき、時間的な変化は影を潜め、何も 生み出すこともなく、何ももたらされない自由が存在する。

 無限大の自由度が許容される場合、どの自由を選択するかは自己責任。どの自由も選択しないのも自己責任。

 現世と隔絶されたかのような高原の療養所から、敢えて第一次世界大戦の渦中に踏み込んだ彼は、ひょっとしてその自由から逃走することを試みたのかもしれません。

初稿 2015/10/03
校正 2015/12/27

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