Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§172「賭博者」ドストエフスキー, 1866.

2024-01-14 | Book Reviews
 ルーレットのように確率的にしか存在しない偶然の組み合わせをあたかも必然であるかのごとく思うとき、たしかにそれはそれで不思議な出来事だと思います。 

「実際、偶然のチャンスの流れの中に、一つの体系とこそ言わぬまでも、なにか一種の順序のようなものがあるのだ。もちろん、それは不思議なことである」(p.47)

 賭博であれなんであれ、たった一つの価値観しか持ち合わせていないと、考えることを見失い、もはやそれだけしか見えなくなることなのかもしれません。

「どこにいても僕の目に映ずるのはあなたの姿だけで、それ以外のものはどうだっていいんです」(p.66)

 ところで、外から見える生身の実体としての私もあれば、まわりからそう思われる私が存在する一方で、様々な条件や環境に依存し、そこで得られた様々な記憶や経験から語らしめる言葉によって存在する〈わたし〉もまた存在するのかもしれません。

 ひょっとしたら、この作品もまた、私が〈わたし〉であるということはどういうことなのかを問うているような気がします。

初稿 2024/01/14
写真 「Trans-Double Yana(Mirror)」名和晃平, 2012.
撮影 2023/12/17(東京・丸の内ストリートギャラリー)

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