Liner Notes

観たこと、聴いたこと、読んだことを忘れないように印象に残った光景を栞として綴ってみました

§160「メタフィジカ!」 池田晶子, 1992.

2022-09-10 | Book Reviews
 「事象」とはある出来事や物事のかたちやありよう、そんな事象そのものへ五感を研ぎ澄まして臨めばこそ、かたち在るものとそうではないものを認識した世界が生み出され、それはなんであるかという存在を意識できるのかもしれません。

「それ"である"と意識されることには、それ"でない"ものが同時にそこに"ある"と意識されることによってのみ可能だからだ」(※1, p.44)

 そこに在ったはずの陸がいつのまにか無くなり海に変貌する事象は、月の引力による潮位の時間変化という「直線的な時間意識から相反して立ち上がった意識」(※2, p.58)が生み出した世界というひとつの存在なのかもしれません。

 ところで、仕事のみならず日常生活においてもなんらかの判断をする場面がありますが、そこにも少なからずなんらかの可能性とリスクが潜むものであり、その相反するいづれかを意識することが、著者の記す考えることのひとつのような気がします。

「(考えることの)真贋たるは、つまるところ覚悟です。覚悟が覚悟を見抜くのです」(※3, p.161)

 本書のタイトル「メタフィジカ!」はギリシャ語で形而上学を意味するそうですが、ひょっとしたら、目の前に拡がる事象の背後に在ってかたちとして捉えられ無い、かたちそのものを超えたものを考えることを示唆しているような気がします。

初稿 2022/09/10
出典
※1)「事象そのものへ!」 池田晶子, 1991. 法蔵館
※2)「オン! 」 池田晶子, 1995. 講談社
※3)「メタフィジカ!」 池田晶子, 1992. 法蔵館
写真 "ある"ものと"ない"ものが共存する有明海
撮影 2022/08/11(佐賀・鹿島)