序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

劇団芝居屋第35回公演「通る夜・2018」第四場

2018-06-22 11:23:08 | 舞台写真
     夜のとばりに包まれている事務所。
     遠くでパトカー。



     毛布に気付き。

寿々子 「そうか・・・寝ちゃったんだね」

     寿々子、写真を箱に詰め、よろめきながら立ち、毛布を畳む。



     母屋に明かりが点き、一郎が顔を出す。

一郎 「あれ・・・起きたか」
寿々子 「ええ」



一郎 「・・・あれだ、酒残ってるだろう」
寿々子 「ええ、ちょっと」
一郎 「大丈夫か」
寿々子 「(シャックリ)・・・何とかね」
一郎 「そうかね」

     五月が来る。

五月 「どう・・・ああ、起きたの」
一郎 「今な」
五月 「寿々ちゃん、大丈夫?」
寿々子 「義姉さん、心配かけてすいません」
五月 「えっ。・・・あの、水持って来ようか」
寿々子 「自分で行くわ。ああ、おばさんは?」
五月 「今線香あげてるわ」

    奥でリンの音。

寿々子 「ワタシも線香上げていいかな」
五月 「そりゃ勿論、ねえ」
一郎 「どうぞどうぞ」
寿々子 「じゃ、行って来ます」

     寿々子、母屋に。

五月 「行って来ますだって・・何だか拍子抜けしちゃった」
一郎 「俺もさ、もっと突っかかって来ると思ってたけど」

     美子が来る。

美子 「ねえ、寿々子何かあったのかい」
一郎 「えっ、どうして」
美子 「そこですれ違ったら、ご苦労様って。酔っぱらってるのかな」
一郎 「そうだと思うよ、結構酒臭いから」
五月 「大丈夫なのかな」

     リンの音。
     五月、中へ。



一郎 「どうすればいいのかな」
美子 「何を?」
一郎 「だからさ、寿々子をどうすればいいのかな」
美子 「ハッキリ言いなよ」
一郎 「だから、告別式にどうやったら出るかなと思ってさ」
美子 「何言ってんだい、出るに決まってるじゃないか。四の五の言ったらふん縛ってでもあたしゃ告別式には出すからね。その時には兄貴としてバッチリ言うんだよ」
一郎 「ええ、俺が・・・」
美子 「そりゃそうだろう、もうあんたはこの霧島家の当主なんだよ」
一郎 「そうなんだけどよ・・・」

     五月が来る。

五月 「来たよ」

     何とはなしに身構える美子と一郎。
     寿々子が来る。




五月 「寿々ちゃん、具合は大丈夫?」
寿々子 「ええ、水飲んだから楽になったわ。義姉さんごめんね、心配かけて」
五月 「・・・な、なに言ってんの、心配かけてなんかいないわよ」

     美子、一郎を突く。



一郎 「オイ、寿々子」
寿々子 「なあに」
一郎 「お前どうすんだ」
寿々子 「どうするって何の事?」
一郎 「だから・・・だから告別式」
寿々子 「出るわよ」
一郎 「ヘッ!?」
寿々子 「出るわよ、父さんの告別式なんだから」
美子 「そりゃそうだ」

     踏切の警報。


一郎 「ああ、もう始発だな」
寿々子 「わたし、ウチに帰って着替えて来る」
五月 「ワタシ送って行こうか」
寿々子 「義姉さん大丈夫、一人で帰れます」
五月 「そうだね、もう子供じゃないもんね」
寿々子 「そうね、もう子供じゃないから」
一郎 「タクシー呼ぼうか」
寿々子 「ううん。もう始発でしょう。電車で帰る」
一郎 「そうか」
寿々子 「ねえ、兄ちゃん。この写真持って行っていい」
一郎 「エッ、ああ、その写真」
寿々子 「持って行っていい」
五月 「持って行きなさい、持って行きなさい、ねえ」


一郎 「ああ、いいぞ」
寿々子 「有難う」
美子 「寿々子、納棺は九時だよ」
寿々子 「ええ、それじゃ後ほど」

     寿々子行く。
     無言で見送る一同。
     電車通過
     警報止む。
     ホッとした表情で入って来る一同。
     一郎が大あくび。
     あくびが移る美子と五月。
     笑い起こる。

一郎 「一二三が九時に納棺に来るから二、三時間寝ておこう」
五月 「そうね、少し横になった方がいいかも」
美子 「そうだよ、今日が本番なんだ。親族が淀んだ顔してちゃ霧島総一郎に申し訳ないよ」

     美子と五月、母屋へ行く。


     二人を見送って、一郎事務所の明かりを消し母屋へ。


     母屋の明かりも消える。
     音楽。
     朝の光が差し込んで来る。



     やがて近所の工場から作業音があふれ出す。
     音楽高まって。
     暗転。
     幕。



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