序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

劇団芝居屋第38回公演「美代松物語」物語紹介第10場・第11場

2019-12-23 22:32:46 | 舞台写真
第10場
大吉によって知らされた圭吾と時江の過去の経緯と圭吾の時江に対する思いを知った美千代は、その橋渡しの役をしようと権藤寛十に掛け合う決心をして寛治に寛十と会う為のおぜん立てを頼む。

美千代 「老松の件の権藤金融の責任者はどちらさん?」
寛治 「ああ、老松の・・・俺はこっちの仕事には関わってねえよ」
美千代 「じゃ、寛十さんね」
寛治 「そういう事になるな」
美千代 「じゃ、寛十さんに至急会いたいの、
寛治 「どんな話よ」
美千代 「そりゃ老松の事に決まってるべさ。寛十の旦那が老松をどうする気か聞きたいんだよ」
寛治 「まるでケンカ腰だな」
美千代 「あら、そう聞こえたんならゴメンナサイ。ねえ、早く会いたいの。会わせて頂戴」

寛治 「何時がいいんだ」
美千代 「明日、早くに」
寛治 「・・・・判った。明石病院に昼間来い」
美千代 「昼間って十二時でいいの」
寛治 「ああ、いい」
美千代 「じゃ、明日十二時に」
寛治 「・・・ああ」

     美千代、再び電話を掛ける。
美千代 「・・・・ああ、モシモシ、富田の社長さんですか、美千代です」

11場に続く

第11場
名乗っていないとはいえ実の娘が会いに来るとの報告を受けた寛十は、弱った姿を見せまいと平服で屋上公園で美千代を待つ。


緊張と興奮の入り混じった思いで美千代を待ち受けていた寛十と寛治の前に現れたのは・・・

富田圭吾であった。

寛十と圭吾の間には時江を巡る確執があり、寛十は時江を手に入れた圭吾への腹いせに時江の朋輩であった美代松を妾にし美千代が出来たのである。
それ故に今になっても寛十の圭吾に対する恨みは晴れてはいなかった。

何しに来たのかという寛十の問いかけに、圭吾は美千代に頼まれてきたのだと答える。
愕然とする寛十と寛治。

圭吾 「わたしは美千代君に頼まれて来たんです」
寛十 「美千代に?・・・」
寛治 「富田さん、それは老松の事ですか」
圭吾 「そうだよ」
寛治 「ウチが持っている老松の債権の事ですね」
圭吾 「その事だ。ねえ、寛十さん。あんたとの付き合いは若い時からで、それこそお互いに何もかも知っている仲だ。美千代君にあんたがどんな気持ちを持っているのかはお見通しだ。だから情がからんじゃ真面な話はできないと思って私が代わりに来たんだ。それともこれを機会に美千代君に本当の事を話すつもりだったのかい」
寛十 「そ、そんなつもりはねえよ・・・」
寛治 「富田さん。俺達は決めたんです、美千代の事は墓まで持って行こうって。そうだよな、オヤジ」
寛十 「・・・・そうだ」
圭吾 「それを聞いて私も安心したよ。世の中には知らないでいる幸せってのがあるからね」

圭吾の要求は権藤金融がもってる老松の債権一切合切を現状価格で自分に譲ってほしいというものだった。
大栄産業の吉野会長への義理を立てる寛十に、吉野会長は臨時株主総会で勇退する事が決定したことを告げる。
吉野会長への義理立てだけが老松への債権譲渡を拒否する根拠であった寛十に取ってそれは止めの一撃であった。
寛十 「会長が勇退・・・」
圭吾 「そうなりました。で、どうします」
寛十 「なに?・・・・」
圭吾 「男に二言は・・ねえ、寛十さん」
寛十 「コノヤロウ・・・」

寛十 「わかった。圭吾、老松の債権お前に譲る」
圭吾 「えっ、いいのかい」
寛十 「義理を立てる相手がやめたんじゃな。俺は息子の康幸に役立つ義理はねえ」
圭吾 「それじゃ・・」
寛十 「ああ、後で寛治に届けさせる」
圭吾 「済まない」
寛十 「オメエの為じゃねえ・・・なあ」
寛治 「へへ・・俺もオヤジのお陰でいい妹孝行が出来るぜ」

車いすの寛十の顔にも、寛治の顔にも肩の荷が降りた様な安堵の表情が見えた。

第12場へ続く。
撮影鏡田伸幸



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