序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

プレーバック劇団芝居屋第42回公演「通る道」3

2024-03-11 22:21:05 | 演出家

暫くして玄関の引き戸が勢いよく開きます。

その瞬間吹き込む風が音を立てます。

誰か来たようです。

 

聖司の声 「今日は」 

     遠く風の音。

聖司の声 「すいません・・・あの・・・どなたかいませんか」

     風の音。

聖司の声 「・・・(大きく)すいません!」

文子の声 「(大きく)ハーイ」

聖司の声 「(大きく)あのう、角田ですけど」

 

33回忌の法事の一番乗りは施主正一の甥っ子の角田聖司です。

余程寒かったと見えて入って来た聖司は手っ取り早く股火鉢ならぬ股ストーブで暖を取ります。

この股ストーブってのが暖を取るのに手っ取り早いんです。

接待に来た文子に慌てる聖司に。

文子 「いいからいいから、そのまんまでいいから。まだ寒いショ」

聖司 「・・ああ、そうですか。それじゃ失礼して」

 

 

聖司、文子の言葉に素直に甘えます。

この二人の関係は正造の葬式以来の付き合いですから32年前からです。

当時21歳だった聖司も今や53歳で東京で大手の建設会社の営業部長という要職についています。

でも回忌法要だけの付き合いですから、親族が多かった時は末席でした。

前回会った27回忌から6年経っているんですからすんなり打ち解ける筈もありません。

こんな時は近状を伺うのが定石です。

 

文子 「正一さんは?」

聖司 「昨日来てる筈なんですが・・」

文子 「そうかい。元気なのかい」

聖司 「相変わらずです」

文子 「そうかい、そんならいい。ああ、そういえばあんた仕事うまく行ってるのかい」

聖司 「ええ、まあなんとかやってます」

文子 「奥さんも頑張ってるのかい」

聖司 「えっ?・・・ええ、まあ」

文子 「やっぱり大変な仕事だよね、世間に認められる様になるのは」

聖司 「・・まあ・・・そうですね」

文子 「まあ、二人して頑張るこった」

聖司 「・・そうですね。・・・・ところでご住職はお元気ですか」

文子 「・・ああ・・・それがお元気でもねえの」

聖司 「ご病気ですか」

文子 「死んじゃったの」

驚く聖司。

 

この続きは次回4で。

撮影鏡田伸幸



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