序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

劇団芝居屋第38回公演「美代松物語」物語紹介6

2019-12-17 16:21:17 | 舞台写真
第6場
翌日寛治は父寛十の病院に行く。
存外の回復力を見せた寛十は、弱気になった自分の早とちりを後悔していた。
意地でも墓場まで持って行かなければならない約束事を息子の寛治に漏らしたからである。


寛治は調べた結果、腹違い妹が美千代であった事を報告しなぜ教えてくれなかったと寛十を責める。
仕方なく寛十はそうなった経緯を話のであった。


寛治 「いや、ずいぶん簡単に分かったんで驚いたよ、まさかまだ会った事もない筈の妹がこんな近場に居たなんてな。しかも若い頃には一緒に遊んでいた仲の美千代だったなんてよ。なんで早くに言わなかったんだよ」
寛十 「・・・そりゃオメエ、言えねえ訳があったんだよ」
寛治 「オヤジさんが言い出したんだ。こうなったらその訳とやらを教えて貰わなきゃな」



寛十 「・・・つまんねえ事言っちまったな・・・いや俺もさ、若気の至りってやつでよ、オメエの母さんとうまく行ってなかったもんだから、つい魔が差してよ・・」
寛治 「よく言ってるぜ、母さんとうまく行ってなかったのは、オヤジの女癖が悪かったからじゃねえか」
寛十 「・・まあ、そうなんだ・・・オメエがガキの頃に、老松に芸者で出てた美代松と出来ちまってな」
寛治 「それで美代松さんを囲って美千代が生まれた。そこまではそれを読めば分かるんだ。俺が聞きてえのは、誰と墓場まで持っていく約束事をしたかってことだよ、オヤジさん」
寛十 「・・ああ、それな・・・」
寛治 「なあ、俺はオヤジさんのガキだが、もう五十路も近い世の中の裏も表も見て来た男だ。何を聞いてもオタオタしやしねえ、さあ、言ってくれ。誰なんだよ」
寛十 「・・・そうか、とぼける訳にはいかねえな。・・・老松の時江だ」

老松の時江は寛十に美千代の母美代松にそれ相応の手切れ金を渡す事と美千代には生涯父とは名乗らない事を条件に、二人の面倒を見てくれるになっていたのである。


全てを知った寛治は自らの立場と美千代の立場の違いを痛切に感じこの事は自分達の胸に納めようと提案する。
無論寛十はそれに対する異存なかった。
寛治は妹美千代が養女になっている老松の苦境を何とか救えないかと寛十にしむけるが、寛十のバックには大栄産業が居たのである。
寛十は自分が金貸し業で今の地位に至ったのは大栄産業の吉野会長の引き立てがあったという恩義があった。



寛治 「で、老松の件はどうするつもりなんだい」
寛十 「それを決めるのは俺じゃねえ。大栄産業の吉野会長だ」
寛治 「でもよ、大栄産業も今は社長をやってる息子の康幸がいろんな事を決めてるって話だぜ」
寛十 「流石に老松の事はそうはいかねえべや、開拓以来の間柄だ。康幸の入る余地はねえさ」
寛治 「何とかできねえんだべか」
寛十 「俺がこうして権藤金融なんて会社をやってられるのも、吉野会長の引き立てがあったからだ。その義理だけは立てなきゃなんねえべや」
寛治 「待つしか仕様がねえんだな」
寛十 「ああ、そういうこった」

7場へ続く
撮影鏡田伸幸


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