序破急

片足棺桶に突っ込みながら劇団芝居屋を主宰している爺です。
主に芝居、時々暮らしの中の出来事を書きます。

プレーバック劇団芝居屋第42回公演「通る道」4

2024-03-14 20:34:35 | 演出家

 

 

住職の様子を聞いた聖司への返答が「死んじゃったの」じゃそりゃあ驚きます。

 

聖司 「エッ・・・エエ―ッ!」

文子 「あれまあ、知らなかったのかい」

聖司 「ええ、初めて聞きました」

文子 「葬式には正一さんが来てくれてたから、てっきり・・ああそうかい、知らなかったんだ」

聖司 「ええ。ああ!知らぬ事とはいえ・・ご愁傷様です。・・・あのう、いつ?」

文子 「もう二年前さ」

聖司 「ああ、そうでしたか」

 

ここを先途と住職の没後の苦労話が披露されます。

文子 「ちょうどコロナの最盛期だったから葬式も身内だけでひっそりとやったんだが、いやあ、人の命なんてあっけないもんだよ。人の葬式やってさ、炬燵で一杯やってたらコロッだもの。あとウントモスントモ言わねえんだから、まあまああっけないもんだ」

聖司 「あのう・・・どうして・・」

文子 「ああ、どうして死んだってかい。脳溢血だ」

聖司 「・・そうですか。・・・あのう、お幾つで・・」

文子 「ああ、七十五だ。まあ、逝くのは寿命だから仕方がねえんだけんど、残されたこっちが大変さ。幾ら格式のある寺だって住職が居ねえんじゃどうにもなんねえのさ。なんせ子供たちは坊さんなんて真っ平だって早くから出て行った連中だから、跡継ぎなんかとんでもねえ話なのさ。でも寺の仕事はやって行かなきゃなんねえからね。墓の管理や葬式、法要。やることはいっぱいある訳だ。で、仕方なく兼務寺院ってことで今までやって来たんだけど・・」

聖司 「あのう、兼務寺院ってなんですか。あっ、すいません,足崩していいですか、痺れちゃって」

文子 「ああ,遠慮しないでどうぞ」

 

聖司、文子の話がまだまだ続きそうなので適当に聞き流す事にします。

 

文子 「兼務寺院ってのは住職が亡くなった寺で他の寺の住職に葬式や法要の時に助けてもらってる寺の事だ、それが兼務寺院。まあ、要するに住職が居ねえ寺ってこった」

聖司 「ああ、そうですか」

文子 「まあそれだって、ずっとそのまんまじゃいられねえし、ワチも寺の生活に飽き飽きしてたから、檀家さんや本山と相談して退職させて貰う事になったんだ」

聖司 「ああ、そんなシステムがあるんですね。でもここ出て生活は大丈夫なんですか」

文子 「だからただ出て行く訳じゃねえよ、退職って言ってるしょ。出るの、退職金が。まあ、それでどっかいい老人ホームでも入るつもりさ」

聖司 「ああ、そうなんですか」

文子 「でも暇な時間が出来ても何やればいいんだか分かんないのさ」

聖司 「そういうのはおいおい見つければいいんじゃないですか」

文子 「でもあんたんとこはいいよね、夫婦で同じ趣味持ってて」

聖司 「・・えっ、趣味ですか?・・」

文子 「この歳からでもできるかね?」

聖司 「・・・そりゃ、やる気があれば何でも出来るんじゃないでしょうか」

 

なんとなく話がかみ合わなくなって来ます。

文子 「ハハ・・七十の手習いってかい。じゃ、ワチもやってみようかな」

聖司 「それがいいですよ」

文子 「個展は今でも一緒にやってるのかい」

聖司 「ハア?・・・あのう個展っていいますと・・」」

文子 「切り絵さ、切り絵の個展に決まってるべさ。あんた他になんかやってるのかい」

聖司 「切り絵って・・・」

文子 「(身振り)こうやってやる、切り絵だよ」

聖司 「僕はそういう趣味は・・・」

文子 「趣味じゃないべさ、仕事だべさ」

聖司 「いや、私はそんな仕事してません」

文子 「正二さん駄目だよ、からかっちゃ」

聖司 「あのう、僕、聖司です」

文子 「わかってるよ・・・・えっ、聖司?」

聖司 「ハイ。聖司です。角田聖司です」

文子 「角田聖司って・・・あんた角田の正二さんじゃないの」

聖司 「正二叔父さんはウチの母の弟です」

文子 「・・・アラ、それじゃあんた佳奈ちゃんの?」

聖司 「そうです。佳奈の長男の聖司です」

 

文子 「(おでこを叩く)ああ、そうだ。佳奈ちゃんの息子の・・・ああ、ごめんごめんすっかり正二さんと思ってた」

聖司 「そうですよね、どうも話がかみ合わないなと思ってたんですよ」

文子 「ごめんね、ワチおっちょこちょいだから・・いや正二さんやけに若いなと思ってたのさ、やっぱり芸術家は違うなってね」

聖司 「ええ?僕五十二ですよ、なんで六十八の正二叔父と間違えるかな」

文子 「あら,あんた五十二かい。そういえばそのくらいの頃の正二さんにそっくりなのさ、あんた。だから勘違いしちゃった」 

聖司 「えっ、僕、そんなに正二叔父と似てますか」

文子 「ああ、そっくりそっくり。いやいやゴメンゴメン。いや、こっぱずかしい。顔から火が出る。退散、退散。・・ああ、あと誰が来るの」

聖司 「僕が聞いてるのは、妙子叔母さんと奈美恵の二人です。あとは知りません」

文子 「ありゃ、正二さん来ねえの」

聖司 「正二叔父は体壊して入院してるんです」

文子 「エッ!入院」

聖司 「ええ、こっちに来る間際に」

文子 「あら、ひどいのかい」

聖司 「いや、大したことじゃないらしいんですけど、入院と法要が重なっちゃったんで来れなくなったって聞いてます」

文子 「ああ、タイミングが悪かったんだ。そうかい。そんならね。ああ、ワチ、法要してくれる案山寺の住職さんを迎える準備があるから。何かあったら声かけてください。よろしく」

聖司 「あっ、そうですか」

 

よくある話でね。特に何年もの間がある回忌法要で久しぶりに顔を合わせる檀家さんの顔は一々覚えちゃいられませんからね。何年も前の顔な訳ですよ。

聖司 「ハハ・・なんかおかしいと思ったんだ・・そうか正二叔父と間違えてたのか。やあ,ショックだな・そうかな,似てるかな叔父さんに。俺の方がいい男だろうにな・・・(指を折る)東京からは伯父さんと俺と・・奈美恵んとこと・・正二叔父さんは入院中で代わりに妙子さんか、だから最大で五人か・・こっちの親戚は・・角田を名乗ってるのはいなかったな。桜井の方は二十三回忌までは代理の人が何人か来てたけど今回はどうかな・・ああ、二十七回忌に確か爺ちゃんの友達って人が来てたな。そうそう九十六歳っていってた。・・すると爺ちゃん生きてれば百歳なんだ。百年か。十年ひと昔って云うんだから、そりゃいなくなるよな、出席者は・・・」

時間を持て余した聖司一服する為に外の東屋へと行くのでした。

 

この続きは次回5で。

撮影鏡田伸幸



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